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ココロザシナカバ~壮絶な自分史~ 第17話/60話:「遠い母と幼稚な父」

【ここまでのあらすじ】
岩手→練馬→川口→浦和→茨城・・・と住まいを転々としてきた阿部家。
父の酒とギャンブル好きが原因で、貧乏で夫婦けんかが絶えない。
家計のために小学生からバイトで稼ぐ長女まゆみ(私)が
好きな人と同じ高校に進んだ。母は駆け落ち、父は飲んだくれ、
高校を中退した私は、家を出て、人生初の同棲相手の男を追い出し、
ヤクザに拉致され、駆け落ちした母を見つけ出したが・・・・。






マンキさんが私に「行かないの?」と聞いた。

「ちょっと黙ってて。」と窓に目を向けたまま答えた。
彼はいつも優しいから、私の答えを待っていてくれる。

そして私は決断した。


「帰るよ。」


私たちは捨てられた、そして捨てた母は幸せに暮らしていた。
そんな事実を受け入れることができそうになかった、少なくとも今日は。

悲しみの上塗りをしそうで耐えられないと思った私は「今日は帰ろう。」と言ったきり、彼の八の字シャコタンの族車で家に送ってもらうまで、一言も口を訊かなかった。


家に帰った私は、この問題は夫婦の問題だから父に解決してもらおう、と考えた。
そして父に母の居場所を伝え、弟のために戻ってきてくれるよう、説得して欲しいとお願いした。
父は話を聞き終わる前に家を飛び出して行ってしまった。


不安がよぎった。


父は酔っていたからだ。


案の定、父は酔った勢いで母のアパートに殴り込みに行っていた。
なんと大工道具のノコギリを持って乱入し、大暴れしたらしい。

ところが駆け落ちしたおっさんも大工だから応戦するには十分すぎるほど道具を持っている。元々は親友だった中年男2人が、商売道具で傷つけあうなんてなんて悲しい話だ。

アパートは血の海になり、警察が呼ばれ、救急車が駆けつけたそうだ。
これは父を迎えに行ってくれた、父の弟からあとから聞いた話だ。

父は子どもたちのために母を連れ戻せるほど、出来た人ではなかった。

自分の感情のほうがそれよりも遥かに大事なことで、それを躊躇なく遂行した。

この時私はつくづく、父の幼稚さを思い知らされ、期待した私が馬鹿だったと心から反省した。

これによって、母が思い直して家に戻ってくる確率は、ゼロに等しくなった。


小2の弟がますます不憫に思えた。


それから1ヶ月ほど経って、私は母と会う約束をした。

再会場所は《すかいらーく幸手店》で、父と一度だけ冷静に話し合ってもらうという趣旨だった。

何しろ2人は戸籍上はご夫婦なのだから、今後についても話し合う必要があるのだ。
私が同席してくれるなら、という条件で母はその話し合いに同意してくれた。

行く前も道中も父には一切お酒を飲ませなかった。
シラフで同席させるという約束を、母としていたからだ。


この日は家を出る前、弟に「お母さんを絶対に連れ戻してくるからね!」と約束してきた。

話し合いの提案をする際、電話口の母は弟を心配していたし、会いたがっていたからだ。

ではなぜその話し合いの場に弟たちを連れて行かなかったのかというと、子どもたちを母に会わせると「お母さんがいい!」と言って母の方に行ってしまうと、父が恐れたためである。



そんな嫉妬心と独占欲のせいで、私しか同席することができなかった。



つづく

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