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横綱級の乾燥耐性

★クマムシ研究日誌

 私がクマムシの研究を初めて10年以上が経ちました。ここでは、これまでのクマムシ研究生活を振り返りつつ、その様子を臨場感たっぷりにお伝えしていきます。

【第43回】横綱級の乾燥耐性

 乾燥させたツメボソヤマクマムシが本当に乾眠状態になっているかを調べるため、体重を量り体からどれくらい水が抜けているかを解析することにした。

 ツメボソヤマクマムシの体はとてつもなく小さい。そこで、1グラムの1000万分の1の重さまで測れる超精密天秤を使い、クマムシの水分量を量ることにしたのであった。

 このクマムシ用体重測定に使ったのは、ザルトリウスというメーカーの超精密天秤である。

☆ザルトリウスの超精密電子天秤
http://goo.gl/Kti0v

 この天秤は、当時の価格で200万円近くした。この天秤を持っている知り合いの研究者がいなかったため、これを原子力研究所から貰ったほぼすべて研究予算で、これを購入したのだ。正直、「たかがクマムシの体重を量るためにこんな大金を投じて、道楽のようで申し訳ない」という後ろめたさも感じた。

 しかし、もう後には退けない。いや、退きたくない。どうしても、クマムシの水分量を量りたいのだ。量りたくて仕方がない。

 クマムシの水分量の量り方については、むしマガバックナンバー(vol. 78, 81)で詳しく紹介したが、ここでも改めて説明したい。

 もがもが動いている通常の活動状態のツメボソヤマクマムシが、乾燥処理によってどれくらい水分を失うのか。これを知るためには、まず、もがもがしている個体の水分量を測定しなければならない。

 このためには、もがもがクマムシの体重を量り、その後でオーブンで焼いてすべての水分を蒸発させたカラカラクマムシの体重を測定する。この前後の体重差を、もがもがクマムシの水分量とみなすのだ。

 ちなみに、もがもがクマムシをオーブンで120度で熱すると、当然だが死んでしまう。悲しいが、実験のためには仕方がない。

 ツメボソヤマクマムシの体重は、100匹ほどまとめて量る必要がある。超精密天秤がいくら高性能とはいえ、1匹の体重を量れるほどまでは精密ではないからだ。ちりも積もれば山となるように、クマムシも積もればアリの眼ほどの大きさになる。

 もがもがしているツメボソヤマクマムシを100匹ほどガラスピペットであつめ、5ミリメートル四方のアルミ板の上に水滴と一緒に慎重にのせた。この水滴は、室内では10分もしないうちにすべて蒸発してしまう程度のほんの僅かな量である。

 このクマムシたちをアルミ板ほど電子天秤にのせ、ルーペで覗きながら観察し、クマムシが纏った余分な水の層が無くなった時点での重量を「活動状態の体重」として記録した。この時、もたもたしているとクマムシ自体の乾燥が始まってしまうため、活動状態における体重を記録できなくなってしまうので、注意が必要だ。

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