荒川和晴インタビュー第7回「人工ポスドクの開発」

☆───────────荒川和晴インタビュー

 荒川さんのインタビューは今回が最終回です。前のインタビューの中で、荒川さんが美術も得意だったと語っていましたが、実はクマムシさんの美術の面についてもアドバイスしていただきました。

 このメルマガだけの裏話ですが、クマムシさんの色が途中から焦げ茶色になったのは、荒川さんとイラストレーターの阪本かもさんのアイディアに依るところが大きかったです。途中でキャラクターの色を変えるのは、大きな決断でしたが、今の焦げ茶色の方を気に入っていただけている人の方が多いようで、本当に良い決断をしたと思っています。

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荒川和晴インタビュー(第7回)

荒川和晴 (慶應義塾大学 先端生命科学研究所)

☆プロフィール☆

 2006年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 バイオインフォマティクスプログラムにて博士号(政策・メディア)を取得。同・助教を経て、現在同・特任講師。G-language Projectリーダー。クマムシ乾燥耐性のマルチオミクス解析を通して、生命活動と非生命の違いを細胞のダイナミクスから明らかにすべく研究中。

URL: http://web.sfc.keio.ac.jp/~gaou/
Twitter: https://twitter.com/gaou_ak

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第7回【人工ポスドクの開発】

荒→荒川

堀→堀川

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☆クマムシの飼育で大変なこと

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堀:他に何か飼育に関して改良に取り組んだ点はありますか。

荒:も~、山ほどやりましたよ。

堀:やっぱりトライアンドエラーなんですね。基本は。

荒:そうですね。例えば、塩濃度については、全ての種類の塩についてかなり細かく試しました。マグネシウムとかカリウムとか、その辺のものについて。超純水から硬水のレベルまで、10段階くらいの塩濃度の水を使って飼育したりとか。あと、ビタミンもやったし。餌に関しても藻類を20種類、バクテリアもいくつか試したり。

堀:なるほど。で、飼育している中で一番大変な部分はどこになりますか。

荒:飼育培地へのワムシや原生生物のコンタミ(混入)ですね。

堀:あ~。あれは面倒ですよね。

荒:あれ、どうしようもないですからね。

堀:ワムシも乾燥耐性があるので、クマムシとワムシを一緒に乾燥させてワムシだけを殺す、ということも難しいですからね。

荒:あ、でもその方法やってました。

堀:というと、乾燥条件を微妙に変えて、ワムシだけが死んでクマムシだけが生き残るようにしているんですね。

荒:ええ。まあ、クマムシもちょっと死んじゃうんですけど、仕方ないですね。

堀:そうですか。ワムシの方がクマムシよりも乾燥耐性が低くてラッキーでしたね。

荒:そうですね。ガラスの上とかですごく急激に乾燥させると、クマムシの方が生き残りますね。あと、乾燥させた後に水をかけて復活させて、またすぐに乾燥させたりするとワムシだけ死んだりしますね。でも、最近はワムシがコンタミしちゃった培地は、もったいないけど捨てちゃってますね。その方が作業としては効率が良いので...。

堀:うんうん。乾燥処理をしてワムシを取り除こうとしても、ワムシが1匹でも生き残ると、すぐにまた飼育培地で増殖しちゃいますからね。

荒:そうなんですよ。そうしたらお終いなんで。今は30万匹くらいクマムシのストックがあるので、コンタミした培地を捨ててしまったとしてもそんなに痛くないんですよね。

堀:それでは、メタボローム実験についてお聞きしたいと思います。まず、メタボロームという用語についてご説明してもらえますか。

荒:はい。細胞の中にはDNAやタンパク質があったりするわけなんですが、実際にはそれ以外の低分子の小さい化合物、たとえばブドウ糖とかアミノ酸だったりとかがたくさん集まっているんですね。メタボローム解析技術を使うと、そのような物質を網羅的に測定できるわけです。

堀:つまりその、乾眠しているクマムシと、普通の活動状態のクマムシとの間で、化学物質の種類や量の差を見てみよう、ということですね。

荒:そうですね。乾燥している時とそうでない時で、著しく量に変化が見られる物質が、乾眠に関わっているものではないか、ということが分かったりするわけです。例えばネムリユスリカだと乾眠時にトレハロースが蓄積するわけですが、量に変化のある物質をベースに、何が起きているのかを見ていこう、ということですね。

堀:こちらのメタボローム解析の結果も今続々と出てきているそうですが、クマムシの新しい乾眠メカニズムが明らかになるのを楽しみにしています。

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☆生命とは何か

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堀:前の話にも出てきましたが、クマムシの研究を通してやりたいことというのは、生命とは何かというのを数学的に定義したいと。

荒:そうですね。生きている時と生きていない時というのを、文学的な表現ではなくて、数学的な表現で決定したいですね。

堀:それも一つの哲学的な答えみたいになりますからね。

荒:ええ。この問題って、実は色々と他の現象にも応用ができるんじゃないかと思うんですよ。生きていると思われていないものでも、実は生きていると言えるものって、世の中にたくさんあると思うんですよ。例えば、ガイア理論って昔ありましたよね。地球は生命体だ、という理論です。今は似たような感じでインターネットの中の人どうしのつながりとか、インターネットの中で起きているムーブメントとかが、ある時点で相転移しているように見えることが、たまにあるじゃないですか。

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