大手新聞社が掲載した放射線影響に関する翻訳記事について

 今回は久々に放射線に関する話題を取り上げます。

 福島第一原発のシビアアクシデント以降、原発の存在そのものの是非をめぐる議論が起こっています。そんな中先日、ウェブ版日経新聞に、米国の経済誌Forbesに掲載されたある記事が翻訳されていました。この記事は、福島第一原発事故による放射線影響に関するもので、ネット上で大きな反響を巻き起こしていました。

☆放射線と発がん、日本が知るべき国連の結論: 日本経済新聞
http://goo.gl/JSMxg

 この記事の内容の要約は「国連科学委員会(UNSCEAR)は閾値無しの線形モデル(LNTモデル)を適用するのは現実的ではないので、福島の原発事故による健康被害は心配しなくてよい」というものです。

 「LNTモデルとは何のこっちゃ?」という方もいらっしゃると思いますので、簡単に説明します。

 LNT(Linear No-Threshold)モデルとは、放射線の線量がどんなに微量でも、線量に比例して健康被害が生じるという考え方をもとにした計算モデルです。このモデルのもとでは、たとえば、日本では年間に被曝する自然放射線は2ミリシーベルトほどですが、これよりも僅かでも被爆する線量が上がれば、その分だけ死亡したりガンになる確率が上がると考えます。

 一方で、閾値ありのモデルでは、年間100ミリシーベルト以下の線量の被曝では健康被害は見られないとするものです。つまり、年間100ミリシーベルト以下の線量までなら、被曝しても死亡率もガン発症率も上昇しないとする考え方です。

 これらのモデルのどちらを採用すべきかについては、科学者間でも、また、放射線に関わる団体間でも、長い間議論が行われてきました。が、日経新聞の翻訳記事によれば、国連科学委員会はLNTモデルを適用するのは奨めない、としているとのこと。

 科学者間で意見が分かれているこのようなデリケートなトピックに、こんなにはっきりとした見解を国連科学委員会が示したのだろうか?と驚いたのですが、やはり元のForbesの記事がおかしかったようです。

ここから先は

1,941字

¥ 210

期間限定!Amazon Payで支払うと抽選で
Amazonギフトカード5,000円分が当たる

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?