荒川和晴インタビュー第5回「生物は物質の集合体ではない」

荒川和晴インタビュー(第5回)

荒川和晴 (慶應義塾大学 先端生命科学研究所)

☆プロフィール☆

 2006年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 バイオインフォマティクスプログラムにて博士号(政策・メディア)を取得。同・助教を経て、現在同・特任講師。G-language Projectリーダー。クマムシ乾燥耐性のマルチオミクス解析を通して、生命活動と非生命の違いを細胞のダイナミクスから明らかにすべく研究中。

URL: http://web.sfc.keio.ac.jp/~gaou/
Twitter: https://twitter.com/gaou_ak

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第5回【生物は物質の集合体ではない】

荒→荒川

堀→堀川

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☆クマムシに興味を持ったきっかけ

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堀:で、その後に博士課程を早期終了して学振特別研究員のポスドクを経て助教になった、と。

荒:はい。

堀:クマムシには、その頃に興味を持ち始めたんですか?

荒:いや、実はクマムシを知ったのは学部2年生の時だったんですよ。

堀:あ、そうだったんですね。

荒:テレビ番組「トリビアの泉」のゴールデン帯放送第一回目にクマムシが出てきたのを見て、それでクマムシを知ったんですよ。で、これはやべー、と。

堀:へー。そうだったんですね。

荒:で、さっそくクマムシのことを知りたくなって、速攻でKinchinさんの書かれた「The Biology of Tardigrades (*註1)」を買ったんですよ。

*註1)1994年に発行されたクマムシ本。今もなお英語で読める唯一のクマムシ入門書である。著書のIan M. Kinchin氏は、現在イギリスで高校の先生をしているらしい。

堀:え?普通は最初からそんなマニアックな本は買わないですよ(笑)。

荒:いや、でもクマムシのことがきちんと書かれた本って、これくらいしか無かったじゃないですか。

堀:まあ、そうですね。

荒:で、読んでいて面白いなって思ってたんだけれども、僕が持っている技術でクマムシを使ってできそうなことが、何も無かったんですよね、当時。クマムシのゲノムの情報も何も無かったですから。いつかやりたいな、と思いながら情報を追っていて。で、2005年くらいにイギリスのMark Blaxterのグループがクマムシのゲノムサーベイシーケンスをと、ESTを大量に読みましたよね。その時に色々やったんですけど、まだちょっとあの情報じゃ何もできない状況だったというか。

堀:色々とやったというのは、何をやったんですか。

荒:まず遺伝子を予測して機能を推定して、クマムシ特有の遺伝子とか、クマムシだけが持っている変異がないかなと思って、色々見ようと思っていたんです。当時出ていたのが1万配列くらいあったんですけど、まともに遺伝子領域にヒットするのが500個くらいあったんですよね。その時の解析の結果からは、あまり面白いことも見つからなかったんですけど。で、片山さん(*註2)とはゲノム関係で色々とお付き合いがあったので、その関係で2006年の第一回クマムシ研究会(*註3)を聞きに行って。

*註2) 片山俊明さん。専門はバイオインフォマティクス。クマムシがまだほとんど知られていない時から、クマムシを紹介するサイト「クマムシゲノムプロジェクト」を公開していた。現在、ライフサイエンス統合データベースセンター所属。

*註3) クマムシ研究者ら有志により2006年に東京大学理学部2号館で開かれた、初めてのクマムシ研究会。当研究会には、120名の参加者があった。

堀:東大であったやつですね。

荒:はい。そのときに國枝さん(*註4)のお話を聞いて面白いなと思ったのが、クマムシは乾眠のときにトレハロースをあまり蓄積しない、と。クマムシは乾眠に入るスピードが速いので、乾燥にさらされたときに遺伝子発現がそんなに起きていないだろう、というのを予測しまして。で、そうすると、うちの研究所の最も得意なところであるメタボローム解析技術(生体内にある化合物の種類と量を網羅的に解析する技術)が、実はクマムシの乾眠メカニズムの解明には向いているんじゃないか、と。

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