荒川和晴インタビュー第1回「人はなぜ神を作るのか」

荒川和晴インタビュー

 今号から、バイオインフォマティクス(生物情報科学)の若き研究者でクマムシも精力的に研究されている、慶應大学の荒川和晴さんへのインタビューをお届けします。

 荒川さんとは2007年から共同研究をさせていただいており、僕が増やしたヨコヅナクマムシを分与したところから今まで公私に渡ってお付き合いさせてもらっています。

 彼は僕の知る研究者の中でもトップレベルに頭が切れ、また情熱的な人で、その生い立ちもとても興味深いものです。一言で言えば、天才肌の人ですね。バイオインフォマティクスの世界のイチローとも呼ばれているとかいないとか。

 インタビューでは、その生い立ちから研究者を目指したきっかけ、そしてご自身の研究内容について話していただきました。ヨコヅナクマムシの飼育にまつわる壮絶なエピソードも語っていただいています。

 それでは、荒川和晴インタビュー第1回目をお楽しみください。

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「荒川和晴インタビュー(第1回)」

荒川和晴 (慶應義塾大学 先端生命科学研究所)

☆プロフィール☆

 2006年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 バイオインフォマティクスプログラムにて博士号(政策・メディア)を取得。同・助教を経て、現在同・特任講師。G-language Projectリーダー。クマムシ乾燥耐性のマルチオミクス解析を通して、生命活動と非生命の違いを細胞のダイナミクスから明らかにすべく研究中。

URL: http://web.sfc.keio.ac.jp/~gaou/
Twitter: https://twitter.com/gaou_ak

第1回【人はなぜ神を作るのか】

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☆研究者になろうと思ったきっかけ

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荒→荒川

堀→堀川

堀:まず、研究者になろうと思ったきっかけをお聞きしましょうかね。

荒:ええ。高校二年生頃のとき頃ですかね。、明確に意識し始めたのは。僕は子どものときはずっと宗教とか哲学に興味があって、そっちの研究をしたいとは子どものときはずっと宗教とか哲学に興味があって、そっちの研究をしたいと思っていたんですよ。で、その一環としてジャーナリズムにも興味を持っていて、中学生や高校生のときはずっとジャーナリズムに関心がありました。

堀:へ~。そうだったんですか。

荒:ええ。でも、人生を全部曲げられたのは、これなんですよ。

堀:ん?

荒:瀬名秀明。パラサイト・イブ、中学から高校くらいの時に流行ったじゃないですか。これを読んでいて。あれっていわゆるSFだけじゃなくて研究の現場とか出てくるんですよね。そういうのが面白そうだなと思って色々と調べていたら、脳の研究が面白そうだな、と。

堀:脳。

荒:宗教とか哲学の問題って、結局のところ脳の問題に行き着くじゃないですか。で、脳を研究することによって僕が本当に知りたい宗教や哲学のことが掘り下げられるかなと考えたんですね。それができそうなところを探していたら、今のうちのボスの冨田ですけど、変なことを言っている人がいて。コンピューター上で細胞を作れるとか言っていて。

堀:ええ。

荒:その頃にちょうど、瀬名秀明さんのブレインバレーという本が出て、この本の中では脳を再現するようなコンピューターを作るシーンが出てくるんですけど、それがだんだん暴走するんです。ずっと、コンピュータで脳を再現するようなことができるんだろうな、と前から思っていました。足がかりとして細胞のモデリングとかシミュレーションとかができたら、将来そういう方向に行けるかなと考えるようになってきたんですね。

堀:宗教や哲学のどの部分に興味があったんですか?人間は何でこんなことを考えるのかな、とか、そういうところですか。

荒:あのー、ひとつにはすごく色んな文化があって、地理的に離れている条件があるのに、世界でほぼ一斉にどの文化でも神とか宗教という概念ができていますよね。その中で、もちろん影響を与え合っている部分もあると思うんですけど、それを抜きにしても、ほとんど同じ概念に行き着いているというところに非常に興味を持ったんですね。

 それは神様がいるからではなくて、端的に言ってしまえば、人間の脳がそういうものを作るような構造にあるということと、何か一定の社会システムができた時に、そういう存在を必要とするという部分が、人間の中に内在的にあると思うんですよ。そこらへんですかね。

堀:つまり、普遍的な何かがあって、違う言い方をすると、人間はそういう風にプログラムされている、と。

荒:と思いますね。

堀:自分たちを環境に適応させる結果として行きつく先が宗教だったりとか、そういうことなんですかね。

荒:宗教もそうだし、一番は神の概念だと思います。だんだん怪しい話になってくるんですが(笑)。哲学でも結局、神とか自己の概念というのは避けて通れないところですよね。そもそも形而上学や、その後もデカルトとかカントの存在論なんかは、ずっとそこから来ていますし。やはり人間というものを理解するための、ひとつのわからないものの集合として神という概念が生まれている部分があるじゃないですか。おそらく、数学のゼロに似たものだと思うんですけど、概念的に処理できないものなんかを神という概念に押し込めることによって、人間の文化が発達した仕組みというのはあると思っていて。

 で、哲学の自己の問題と、宗教が教えるところの存在とか世界論、あるいは神の論と、脳がそういったものを処理するときの前頭前野の仕組み、概念を作るところ、などとは密接に関わっているかな、と思います。

堀:なるほど、なるほど。そうか。

荒:ええ。

堀:つまりこう、自分とは何だろうとか、人間は結構矛盾した行動をとったりするじゃないですか。

荒:しますね。

堀:自分でもたまに分かるじゃないですか。自分は何かおかしなことやってるな、とか。でも、それは理屈だとなかなか自分を説得できなくて、自己矛盾に陥ってしまって。そういう自己矛盾を、神みたいなブラックボックスみたいなものを外に作って、そこに押し込めて、というのも何か分かる気がしますね。

荒:そう。ブラックボックスという言い方がすごく合っている気がしますね。

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