教科書を読む⑩「ごんぎつね」
アシスタントをつとめていたTBSラジオ「久米宏ラジオなんですけど」が13年9ヶ月の幕を閉じました。
久米さんの話をリスナーの方と共有する。土曜日の午後1時は何より大切な時間でした。
色々なことを忘れてはいけないと思っています。
では気持ちリハビリ明けの久々のごんぎつね始めます。
ごんは、おねんぶつがすむまで、井戸のそばにしゃがんでいました。兵十と加助は、また一しょにかえっていきます。ごんは、二人の話をきこうと思って、ついていきました。兵十の影法師かげぼうしをふみふみいきました。
お城の前まで来たとき、加助が言い出しました。
「さっきの話は、きっと、そりゃあ、神さまのしわざだぞ」
「えっ?」と、兵十はびっくりして、加助の顔を見ました。
「おれは、あれからずっと考えていたが、どうも、そりゃ、人間じゃない、神さまだ、神さまが、お前がたった一人になったのをあわれに思わっしゃって、いろんなものをめぐんで下さるんだよ」
「そうかなあ」
「そうだとも。だから、まいにち神さまにお礼を言うがいいよ」
「うん」
さっきの話は神様のしわざだぞ。前回打ち明けた、貢物があることへの答えあ出てきます。影法師ができている影絵の世界で加助の信仰心からの答えです。発見というより、絞り出す、加助が兵十をマインドコントロールするように囁く感じがいいと思います。
そして加助は神様だ、神様がと念を押していきます。それ引退して兵十の答えは「そうかなあ」とある種の疑問を抱えて返事をします。
そのあとの「うん」にこの疑問は引きずらないほうが良いでしょう。
どこまで加助に賛同する「うん」なのか。
わたしなら、ここで理解しよう、そう思うことにしようという、ある種の覚悟を乗せた「うん」にします。
このあとごんが、割に合わないなと言っている。完全に兵十が飲み込んで納得して飲み込み着地した方が、ごんの理に合わない感じが膨らむのです。
ごんは、へえ、こいつはつまらないなと思いました。おれが、栗や松たけを持っていってやるのに、そのおれにはお礼をいわないで、神さまにお礼をいうんじゃア、おれは、引き合わないなあ。
そしておれは、引き合わないなあ。です。
これがあるから、このあとのあの事件が引き立っていきます。
引き合わないと思って、ごんは次の日も栗を持っていく。兵十に何かしたい気持ちは全然変わらないのです。
へえ、こいつはつまらないなも軽くうそぶいてみたり、まんざらじゃなくて。まだまだ希望があるのです。希望がある中であのクライマックスです。
もう新美南吉は優しいのか残酷なのかわからなくなります。
さて、いよいよ来週はあのシーン「ごん、お前だったのか」です。
この一言をどう受け止めるのか。自分の生き方、物事のとらえ方。
この一文で読み手のバックボーンまで見えてきてしまうのです。
2020.07.07 TBSアナウンサー堀井美香