教科書を読む⑨「ごんぎつね」
簡易防音室を買おうか迷っています。
見た目は発泡スチロールでできた電話ボックス。
もう物は全くいらないし
身の回りのあれこれもいずれ
スーツケース一個くらいにと思ってきたので、
自分でもまさかです。
実は音訳ボランティアを4年くらいしてます。
自分の公休日と閉館日の曜日が重なれば
半年くらいいけなかったり、
コロナで行けなかったり、劣等生で。
完成を楽しみにしている方を待たせたりもしています。
でも、でも、最近点字図書館さんから、
自宅での録音もOKになるという話を聞きました。
この防音ボックスさえあれば、
夜中も朝もずっと読み続けられるわけで。
悩む。悩みます。
本当に必要ですか?と
自分に問いかけます。
仕事の短めのナレーションとか、スポットとかなら
ゆくゆくはテレワークにできるかもしれんし。
ブランド物とか宝石とかも興味ないから
買い物あまりしないし。
一番安いタイプだし。
と自分自身にだらだらと言い訳もします。
でもまずは今日もごんぎつねなのです。
月のいい晩でした。ごんは、ぶらぶらあそびに出かけました。中山さまのお城の下を通ってすこしいくと、細い道の向うから、だれか来るようです。話声が聞えます。チンチロリン、チンチロリンと松虫が鳴いています。
ごんは、道の片がわにかくれて、じっとしていました。話声はだんだん近くなりました。それは、兵十と加助というお百姓でした。
前回の罪の意識で負債の埋め合わせをするところから場面が変わります。
月のいいとかぶらぶらは少し高く出て上機嫌な感じを出してあげてください。中山、細い、だれか、もリズムよく2、3、1と高さも変えて。だれか来るようです。は自分で探しながらなのでスピードを落とします。
じっとしていました。もゆっくり。じっとは少し不明瞭でかすれた感じてだすといいです。こういう時の「じ」は前に音を出すのでなく下顎をひいて母音のいとえをまぜたこもらせた発音です。
「そうそう、なあ加助」と、兵十がいいました。
「ああん?」
「おれあ、このごろ、とてもふしぎなことがあるんだ」
「何が?」
「おっ母が死んでからは、だれだか知らんが、おれに栗やまつたけなんかを、まいにちまいにちくれるんだよ」
「ふうん、だれが?」
「それがわからんのだよ。おれの知らんうちに、おいていくんだ」
ごんは、ふたりのあとをつけていきました。
「ほんとかい?」
「ほんとだとも。うそと思うなら、あした見に来こいよ。その栗を見せてやるよ」
「へえ、へんなこともあるもんだなア」
それなり、二人はだまって歩いていきました。
兵十と加助の会話です。兵十は少し下からぼんやりと、加助は少し高めでアタックも強めでそれぞれの出る音の高さ強さを揃えてあげるとわかりやすいですね。
「だれなんだ?なんでだろう?」という兵十の疑問も際立たせるといいです。聞いているお客さんはもうそれが誰かわかっているのですが兵十が悩むところを見たいのです。
月の光が照らされた夜道ですから、会話のテンションとしてははっきりというより怪しげな月の下でボソボソという感じです。
加助がひょいと、うしろを見ました。ごんはびくっとして、小さくなってたちどまりました。加助は、ごんには気がつかないで、そのままさっさとあるきました。吉兵衛というお百姓の家まで来ると、二人はそこへはいっていきました。ポンポンポンポンと木魚の音がしています。窓の障子にあかりがさしていて、大きな坊主頭あたまがうつって動いていました。ごんは、
「おねんぶつがあるんだな」と思いながら井戸のそばにしゃがんでいました。しばらくすると、また三人ほど、人がつれだって吉兵衛の家へはいっていきました。お経を読む声がきこえて来ました。
加助が後ろを見る、ごんがびくっとする、立ち止まる、そのまま歩く。以前開設したように、頭でしっかり動きを追うと、速さに言葉が付いてきます。
兵十や加助は、先ほどの答えもわからないぼんやりとしたまま、木魚の音がする家の中に入っていくのです。おねんぶつがあるんだなとここではまだ仏様なのですが、このあと加助が神様のしわざだと言い出すつなぎの場面です。ある種異様な雰囲気のお念仏の会に行ってなければこんな答えにならなかったし、加助の信仰心から、お念仏が神様になってしまう。ここも、ラストシーンへと繋がっていきます。新美南吉はラストに向けて巧みに伏線を仕掛けているのです。
今日はここまでです。この後佳境に入ります。
時間かかるかもです。
2020、6、14 TBSアナウンサー 堀井美香