エンゲージメントは”評価面談”で高める
多くの企業が直面している「エンゲージメント」と「評価面談」の課題について、最近の人事との対話や弊社の案件事例から情報提供していきます。
人的資本経営をスローガンで終わらせない
近年、人的資本経営の重要性が叫ばれる中、従業員エンゲージメントへの注目度が高まっています。しかし、その測定と向上策については多くの企業が困難に直面しているのが現状です。
そこで私どもの結論は、エンゲージメント向上の有効な手段として「評価面談」の変革に着目するというものです。その可能性と実践方法について詳細に解説していきます。
サーベイを取れば取るほど、エンゲージメントが下がる悲壮感
という声はよく耳にします。しかし、多くの企業で、データ収集後の対応に苦慮している実態があります。
なぜこのような状況に陥るのでしょうか。その要因は主に以下の3点に集約されます。
1.取れば取るほど結論が一般化し、打ち手は保留する
サーベイデータを収集すればするほど、結果は一般化され、組織固有の課題が見えにくくなります。例えば、「当社の従業員満足度は業界平均より3ポイント低い」という情報を得ても、具体的な改善策の立案には直結しません。
2.保留すればするほど、不信感が増える
サーベイ結果を適切にフィードバックせず放置することで、従業員の不信感が増大します。「毎回回答しても何も変わらない」という声は、組織の健全性を損なう危険信号です。
3.不信感が増えるほど、「やるだけ無駄」というあきらめになる
私が組織開発コンサルタントとして最も危惧しているのは、「やるだけ無駄」というあきらめの声です。この認識が組織内に広がると、あらゆる改善施策の効果が減退してしまいます。
エンゲージメント低下の悪影響とは
これらの要因が複合的に作用した結果、皮肉にも「エンゲージメントを測れば測るほど、エンゲージメントが下がる」という現象が生じているのです。
Gallup社の調査によると、
とされています。
つまり、エンゲージメント低下は、企業の業績に直接的な悪影響を及ぼすのです。
課題の生成元が、解決の手綱を握る矛盾
この状況を打開するために、サーベイ開発元へのコンサルティング依頼や、外部コンサルタントへの相談や社内研修の実施など、様々な取り組みが行われています。
しかし、こうした解決には高額なコンサルティング費用が求められます。
だからと言って内製研修では、ノウハウが限られており根本的な解決には至りません。
そこで私たちが提案するのが、「評価面談をエンゲージメント向上に活用する」というアプローチです。次節では、この新しい視点について詳しく解説していきます。
基本を抑えれば難しくうない、評価の運用努力
評価面談に関しては、多くの誤解が存在します。ここでは、主要な3つの誤解について詳細に分析し、その本質に迫ります。
誤解1:「主観のない合理的なデータに基づく評価こそ良い」
一見、客観的で公平な評価を目指すこの考え方は、実は大きな落とし穴を抱えています。評価の本質は、人間の判断力と洞察力に基づく「主観」にあるのです。
例えば、スポーツ競技の審査を考えてみましょう。フィギュアスケートの採点システムは、技術点と芸術点の両面から構成されています。技術点は比較的客観的な基準で判断できますが、芸術点は審査員の主観的評価に依存します。この主観的評価こそが、選手の個性や表現力を適切に評価する上で不可欠なのです。
しかし、各演技で審査員が1〜10点まで好みでバラバラな点数をつけたらどうなるでしょうか。競技に対する信頼が失われ、視聴者も競技者も減ってしまうでしょう。
こうした事象を、私たちは【主観の磨き合いが足りない】と表現します。
同様に、企業における評価においても、数値化できない要素、例えばリーダーシップの質や創造性、チームへの貢献度などを適切に評価するためには、評価者の「主観」が重要な役割を果たします。
ただし、ここで言う「主観」とは、単なる個人的な好み偏見ではありません。評価者間で十分に議論と摺り合わせを行い、組織の価値観や目標に沿った「洗練された主観」=【主観の磨き合い】を意味します。
誤解2:「素晴らしい制度があれば良い」
評価制度の設計は確かに重要です。しかし、それ以上に重要なのは、その制度の運用です。どんなに精緻に設計された制度も、評価者による適切な運用なしには、その効果を発揮することはできません。
ピーター・ドラッカーの言葉を借りれば、
のです。
つまり、組織文化や日々の習慣が、どんな優れた戦略(この場合は評価制度)よりも強い影響力を持つということです。
評価者の習慣形成が不十分なまま、我流の評価が横行すると、いわゆる「上司ガチャ」の原因となります。これは、上司によって評価が大きく左右される状況を指し、公平性や一貫性の欠如から、従業員の不満や不信感を招く主要因となります。
McKinsey & Companyの調査によると、
だとされています。
したがって、制度よりも運用であり、
優れた運用を持続させるための制度なのです。
誤解3:「メンバーからの文句が出ない評価施策が良い」
一見、平和な組織運営に寄与するように思えるこの考え方は、実は大きな危険をはらんでいます。文句や反発を回避するためだけに設計された評価制度は、往々にして従業員のチャレンジ精神や成長意欲を阻害してしまうのです。
心理学者のチクセントミハイが提唱した「フロー理論」によれば、
とされています。つまり、ある程度の「不満」や「緊張」は、個人の成長と組織の発展には不可欠なのです。
重要なのは、メンバーの成長実感と挑戦を引き出す評価面談を実施することです。これにより、短期的には多少の摩擦が生じるかもしれませんが、長期的には組織の活力と競争力の向上につながります。
Deloitteの調査によれば、従業員の68%が、自身の成長と発展に焦点を当てたフィードバックを求めているとされています(Deloitte, 2021)。つまり、多くの従業員は、単に褒められることよりも、成長の機会を求めているのです。
これらの誤解を克服し、効果的な評価面談を実施するための基本原則は以下の3点に集約されます。
1.主観を磨き合う:評価者間で十分な議論と摺り合わせを行い、組織の価値観に沿った評価基準を確立する。
2.行動の事実をこまめにフィードバックする:日常的な観察と具体的なフィードバックを通じて、メンバーの成長を支援する。
3.メンバーの"らしさ"を引き出す対話を行う:個々のメンバーの強みや独自性を認識し、それを活かす方向性を共に探る。
次節では、これらの原則を実践するための具体的な施策について解説します。
評価の運用努力はここから変える
ここまで、評価面談に関する誤解と基本原則について論じてきました。では、具体的にどのような施策を講じれば良いのでしょうか。以下、3つの重要な指針を提示します。
指南1. 会社、評価者、メンバーの認識のずれを明らかにする
組織内での認識のずれは、エンゲージメント低下の主要因の一つです。特に以下の3点について、会社、評価者、メンバー間でのずれが顕著に表れる傾向があります。
等級制度の理解
等級の付け方の判断基準
キャリアモデル
これらの点について認識のずれがあること自体は自然なことです。問題は、そのずれを適切に対話し、すり合わせる機会が不足していることにあります。
MIT Sloan School of Managementの研究によれば、
という結果が出ています。
この認識のずれを効果的に解消するためには、年に1回以上の頻度で、対話型の評価者研修を実施することを強くお勧めします。この研修では、以下のような要素を含めることが効果的です。
ケーススタディを用いた評価基準の摺り合わせ
ロールプレイングによる面談スキルの向上
組織の戦略と評価制度の関連性の再確認
こうした対話型研修を通じて、多くの企業の評価者育成をサポートできます。ある製造業大手では、この研修導入後、評価の一貫性が40%向上し、従業員満足度調査における「評価の公平性」の項目が25ポイント上昇するという成果が得られています。
指南2. 面談技法をアップデートする
評価面談の質を向上させるには、面談技法のアップデートが不可欠です。弊社の調査によると、メンバーの多くは「上司が話しすぎる」ことに不満を抱いています。
具体的には、以下の3点が主な問題として挙げられます。
1.事情聴取のように見える:事実確認に終始し、心情面での共感やフィードバックが不足している。
2.誘導尋問に見える:上司の意図する方向に話を誘導しようとする姿勢が感じられる。
3.聞いてもいない武勇伝:上司の過去の経験談が長々と語られ、メンバーの話を聞く時間が削られる。
これらの問題は、「きっかけ砂時計」モデルを活用することで大幅に改善できます。このモデルは、以下の5つのステップで構成されています。
興味関心を聞く:メンバーの関心やこだわりたいテーマを合意する
積み上げを聞く:過去の体験からメンバーに内在する成功法則を言語化する
改善提案を話し合う:その成功法則を未来に転用した場合のゴールイメージを共有する
懸念払拭を話し合う:ゴールに向かう上で懸念となるボトルネックの克服を計画する
まとめ:面談の内容を要約し、次のステップを確認する
アンドア株式会社では、この独自に開発した「きっかけ砂時計」モデルを基盤とした面談スキル研修を提供しています。
指南3. 行動の事実を集める”側近”を育成する
評価者が全てのメンバーの日々の行動を把握し、適切にフィードバックすることは、現実的には極めて困難です。そこで重要となるのが「側近」の育成です。
ここでいう「側近」とは、評価者とメンバーの間に立ち、日々の行動観察とフィードバックを担当する人材を指します。具体的には、以下のような役割を担います。
メンバーの日常的な行動観察
タイムリーなフィードバックの提供
評価者への定期的な報告と助言
理想的には、メンバー3人に対して1人の割合で側近を配置することを推奨します。
この側近育成は、単なる評価の補助役の育成ではありません。むしろ、次世代リーダーの育成プログラムとして位置付けることで、組織全体の成長につながります。
側近育成プログラムには、以下の要素を含めることが効果的です:
観察スキル:行動の事実を客観的に観察し、記録する技術
フィードバック技法:建設的かつ受け入れやすいフィードバックの提供方法
対話スキル:メンバーの自発的な問題解決を促す対話技術
提言力:観察した事実を適切に分析し、評価者に報告する能力
アンドア株式会社では、この側近育成プログラムを「次世代リーダー開発」として提供しています。
まとめ - 評価面談を通じたエンゲージメント向上の実現
ここまで、評価面談を通じたエンゲージメント向上の可能性と具体的な施策について論じてきました。改めて重要なポイントを整理しましょう。
エンゲージメントサーベイの限界を認識する
単にデータを収集するだけでは不十分であり、具体的なアクションにつなげることが重要です。評価面談に関する誤解を解く
主観の重要性、運用努力の必要性、建設的な不満の価値を理解し、評価の本質に立ち返ることが求められます。具体的な改善施策を実行する
認識のずれの可視化、面談技法のアップデート、側近の育成という3つの柱に基づいた施策を展開することで、評価面談の質を向上させ、ひいてはエンゲージメントの向上につなげることができます。
「人的資本経営」が叫ばれる今日、これらの取り組みの重要性は一層高まっています。
しかし、人的資本経営を単なるスローガンで終わらせてはなりません。それを実効性のある習慣に変えていく必要があります。そのためには、個々のメンバーの"らしさ"を重ね合わせ、貢献意欲を生み出す「エンゲージメント」の本質を理解し、実践することが不可欠です。
そして、その"らしさ"を最も効果的に引き出し、重ね合わせる機会こそが「評価面談」なのです。評価面談への誤解や我流のアプローチによって、貴重な人材を失うようなことがあってはなりません。
アクションを起こすなら、当たり前のことですが早いうちが良いでしょう。年度末までに、組織のメンバー全員が希望を持ち、成長実感を感じられるような会社に変革していきましょう。
アンドア株式会社は、「本来の力を思いのままに」という事業ミッションのもと、皆様の組織変革をサポートいたします。評価面談を通じてエンゲージメントを向上させ、個人も組織も持続的に成長し続ける企業を共に作り上げるスキームに、粘り強くに支援させていただきます。
評価面談を、単なる形式的な手続きからエンゲージメント向上の最高の機会へと変革する。その一歩を踏み出すのに、遅すぎることはありません。
皆様の組織の輝かしい未来のために、共に歩んでいけることを心より楽しみにしております。
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