手刻みができる職人に出会えたこと「道具」 ♯2
大工職人の大野さんの作業所は、千葉県勝浦市の行川という所にあります。
初めて作業所にお邪魔したのは、今年の5月初旬の頃でした。
駐車場は作業所の前にあり、
車を停めた時点から、建物の中にある道具類が視界に入り、心がワクワク高鳴っているのを感じました。
作業所に近づくと、丸ノコの「ぐいーん」という音と、木の香りが出迎えてくれました。木の香りをたくさん吸いたくて、思わず深呼吸。
作業所の中は、高窓から差し込む太陽の光が木材を照らし、壁にはたくさんの道具が掛けられ、どうやって使うのか分からない機械がたくさん置かれていました。
私は「あー、なんて心地よい空間なんだろう」と、しばらくそこに立って色んな想いを巡らしました。
すると「そんな所に居ると、服が汚れますよー!」と大野さんの声。
あ、たしかにパンツに木くずがいっぱい……我に返った私でした。
大野さんは、私の目を見て悟ってくれたのか、いつも大切にしている道具を見せてくれると言い、積んである箱を丁寧に開け、まずはカンナ(鉋)の数々を紹介してくれました。
平カンナと呼ばれる一般的なものが多い中、ちょっと変わったカンナも見られます。どうやって使うんだこのカンナ?
刃が片側に寄ってて、刃先を斜めに傾斜させているものは、際(きわ)カンナと呼び、角隅のきわを削るのに使い、右勝手と左勝手があり、用途により使い分けるのだとか。片手で削るサイズの小さい豆カンナは、工作物の細かい作業などに使うそうですが、豆というのがなんとも可愛い。
カンナ身と呼ばれる材料の表面を削るための刃は、使えば使うほど削られて短くなってくるそうで、職人によって刃を替える周期が違うのだそう。周期が短ければ短いほど、それだけ木材を削っている証。
そういった職人同士でなければ分からない経験の豊かさの基準は、脈々と先人から受け継がれ、大切にされてきた感覚なのだろうと思いました。
その後、いくつかのノミ(鑿)も見せてくれました。
ノミは、柄のお尻の部分をトンカチで叩いて使うので、柄が割れないように「かつら」と呼ばれる鉄製のリングが付けられています。
ノミは通常、使っていくうちに、どんどん短くなってきますが、「かつら」を上手く入れられないと使いにくく長いままだそうで、失敗したノミも笑って見せてくれました。
道具を見せてもらい話しを聞きながら、私はふとこんなことを考えました。
カンナの刃は削られ、ノミは短くなり、建物が出来上がっていく。
道具の記憶が、建物に刻まれていくような、そんな関係を生み出せるのも「本物の職人」なのではないかと。
♯3では、これからの時代だからこそ必要な手刻みの技術について触れたいと思います。
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