小児の骨・関節の特徴 ー脳性麻痺児のリスクー
今回の記事は小児の骨・関節の特徴について。
この記事を読むと
・小児の骨、関節の特徴を理解出来る
・施術する上でのリスクがわかる
粗暴な操作でケガをさせたケースもあると聞きます。状態を良くしようとして施術しているのに悪くしたり、まして怪我をさせてしまうのは言語道断です。
安全に施術を行うのに小児の構造的特徴を知ることは重要です。
成人の骨
完成された骨は網目構造の海綿質(骨端部)と硬い緻密質(骨幹部や表層)で構成されています。
スキマのある海綿質と硬い緻密質の2つの性質が合わさる事で強度と軽さを両立しています。
緻密質は石灰化した所にコラーゲン線維が絡みつく様な構造になっています。
骨の周囲は骨膜に覆われ内側は骨形成層、外側は神経・血管が分布する2層構造になっています。
骨の力学的構造
緻密質は同心円状に5〜20の層板が立ち並ぶ構造です。各層の間にはコラーゲン線維があり強度を増しています。
荷重や曲げに対する強度を発揮、反対にねじる力には比較的弱い構造です。
海綿質は加えられる外力に応じて骨梁を3次元的に配置されています。
特徴的な所では大腿骨近位部の構造です。
股関節に圧迫力や回旋力などに抗する為に骨梁が形成されています。
この特徴的な骨梁をパッカードマイヤー線と言います。
小児の骨
基本的な構造は成人と同じです。小児は発育途中であるが故の構造的な特徴がいくつかあります。
・軟骨が多い
・骨端軟骨がある
・骨膜が厚い
軟骨が豊富
小児の骨に軟骨が多いのは骨の成長様式が関係しています。骨の成長には膜性骨化と軟骨内骨化の2つがあり、多くは軟骨内骨化で成長します。
いったん軟骨という状態を経由して骨組織に置き換わる為、軟骨が多数存在する訳です。
※レントゲンでは軟骨組織はX線が透過して写りません。
骨端軟骨が存在する
骨端軟骨は少しずつ軟骨が硬い骨に変化して行き長さが伸びます。上腕骨や大腿骨の端っこにも同じ様にあります。
構造的に弱く転んで手や肘を着くとこの部分を損傷し成長障害などを引き起こすことがあります。
骨端軟骨が無くなるのは、おおよそ15〜18歳です。
力学的特徴
子供の骨は多孔性の緻密質で血管が豊富です。
孔が多いので弾力性と橈屈性(曲げにくさ)を併せ持ちます。
また成人と比べて骨膜が厚く破断しにくくなっています。
この特性ゆえ子供特有のケガもあり若木骨折と言います。若い木の枝がポキッと折れずにメリメリと割ける・曲がる様な連続性が保たれた骨折です。
小児の関節
基本構造は成人と同じです。
関節包・骨膜は厚く、骨は未発達なので脱臼は少く骨折が多い傾向です。
靭帯は成人よりも柔らかく捻挫を起こしやすく、腱の付着部分が弱いのでオスグッド・シュラッター病(脛骨粗面)に代表される付着部炎が起きやすいです。
関節の成長・発育には筋緊張や運動による外力が必要不可欠で、その外から加わる力に対応するように育ちます。
骨の発育
骨が成長・発育する上で2つの重要な要素があります。それは、
・成長ホルモン
・外力、負荷
です。
成長ホルモン
成長ホルモンは名前の通り体の成長や維持に関わるホルモンです。成長ホルモンの作用は、・骨の発育、骨量の増加・筋肉の肥大・免疫機能の促進・記憶力や意欲を高めるなど多岐にわたります。
成長ホルモンの分泌が増えるタイミングは睡眠後1〜2時間や運動後(特にレジスタンストレーニング)になります。
外力・負荷
骨に負荷をかける事も大切です。
骨に力が加わるとマイナスの電気が発生します。
これをピエゾ効果(圧電効果)と言います。
生体内でカルシウムイオンはプラスの電気を帯びているので、外力や負荷による圧力が骨に加わるとマイナスの電気を帯び、プラスの電気を帯びるカルシウムイオンが沈着しやすくなります。
脳性麻痺の骨
脳性麻痺のお子さんの骨はノーマルと比べて特徴的な違いがあります。
・低い骨密度
・股関節の作りが甘い
・下肢骨のねじれ
低い骨密度
先述した通り骨の発育には成長ホルモンと外力の2つが重要と述べました。
脳性麻痺を始めとした肢体不自由児は運動が苦手であったり、睡眠に問題があったりと骨の成長・発育に対してマイナスに働く要素を持つ事が多く骨密度が低い傾向が強いです。
その為、より骨折や筋肉の付着部炎のリスクが高くなります。
股関節の作りが甘い
関節の形状の発育も運動などによる外力が重要になりますが、やはり運動が苦手な肢体不自由児では股関節に外力が加わる頻度が少ないので受け皿が浅くなります。
これを股関節臼蓋形成不全症と言います。
※青で表示されている部分が浅くなる
下肢骨のねじれ
脳性麻痺に多く、かつ重症度が増すと多くなる傾向があります。大腿骨や脛骨が捻じれたり、弯曲したりする事があります。
特に大腿骨は内旋変形を起こしやすく、もともと長管骨(大腿骨や上腕骨など)は捻じる力に比較的弱いですが重度脳性麻痺児・者の場合、大腿骨が内旋変形していてより脆弱な可能性があります。
骨折のリスク因子
考えられるリスク因子を紹介します。
運動障害の重症度
脳性麻痺の粗大運動の機能を分類する評価法としてGMFCS(粗大運動能力システム)があります。
下記の表は簡略化して表した物です。
レベルと相関性があり、上がるにつれ骨折リスクも高くなります。骨の発育に運動負荷が欠かせない事を考えるとレベルⅳ以上がハイリスクと思われます。
抗てんかん薬やACTH療法の治療歴
抗てんかん薬は骨代謝に影響する物がいくつかあり骨粗鬆症リスクがあります。
ACTH療法は副腎皮質刺激ホルモン療法の略、結果として副腎皮質ホルモンが分泌されます。
副腎皮質ホルモンはステロイド薬と同様なので破骨細胞の成熟を促し骨芽細胞の成熟を低下させる、コラーゲン合成を阻害するなど、こちらも骨粗鬆症リスクが増加します。
栄養の偏り
当然ながら栄養が偏ればリスクになります。
例えばてんかんの治療の為のケトン食と言うのがあります。
ケトン食は極力糖質をカットし高脂質食にする事で体内にケトンを多く保持、神経系に作用しててんかんを抑制します。
ケトン食はてんかんの治療には必要な事ですが、栄養が偏りやすい傾向にあります。
また側湾症や筋緊張などによって食事量が少ないなども考えられます。
睡眠障害
先述した様に骨の発育には成長ホルモンが重要と説明しました。その成長ホルモンの分泌が増加するタイミングが睡眠中です。
睡眠が十分でないと骨の成長・発育にマイナスになります。
また呼吸障害を持つ人は睡眠障害を併発しやすいので、それも注意したい所です。
脳性麻痺に対する施術における注意点
マッサージやストレッチをする上でのリスクについて紹介します。
大腿骨の捻じれと長管骨の特性に注意
大腿骨が内旋変形しているので大殿筋のストレッチなど外旋方向に捻る時に想像よりも骨に回旋力が加わります。
かつ長管骨はもともと捻じる力に比較的弱い構造です。加えて骨密度が低い傾向があるので一層注意が必要です。
強く把持しない
体を抑えたり、ストレッチの時など強く把持すると不随意運動など急に動かれた時に痛める可能性があります。
すぐに力を緩められる余裕を持って行いましょう。
ストレッチの強さに注意
腱の付着部が弱いので強くストレッチをかけると筋肉の付着部で痛くなる可能性があります。
体重を乗せたマッサージに注意
小児相手にはやらないと思いますが、体が大きくなるとやってしまいそうです。
骨が長くなる分、直圧をかけると危険です。
また抗てんかん薬は長く服用している方がリスクが高まるので、年齢が増えたからといって安全性は上がりません。
皮膚の状態に注意
呼吸障害を持つ子に多いイメージですが浮腫(むくみ)があったり、栄養が十分ではない子、ステロイド薬を使用している子らの肌は要注意です。
浮腫や低栄養の場合は皮膚への栄養供給が悪く脆くなる事があります。ステロイドはコラーゲン合成を阻害するので皮膚が薄くなるケースがあり、いずれにしても皮膚を伸ばす、こするなどのマッサージを行う時は皮膚の状態をよく観察しましょう。
まとめ
これまでの知識をまとめてみました、網羅しているとは思っていませんが薬に立てばと思います。
脳性麻痺児・者の訪問マッサージを専門にやっているので何かご質問があればX(旧Twitter)のDMに連絡を下さい!
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