アートのような、「わからなさ」を大切に。|ホッピンフレンズ 実業家・アーティスト 遠山正道セット ブルワー対談記事
2023年2月からスタートした、「ホッピンフレンズ プロジェクト」。
HOPPIN' GARAGEで取り上げた魅力的な人生ストーリーを全国各地のブルワリーと共有し、それぞれの表現力で自由にビールをつくってもらう試みです。第3弾は、株式会社スマイルズの代表であり、アーティストの遠山正道さんが主人公です。
アートをこよなく愛し、直接的な表現よりも「受け手」に委ねることを大切にする遠山さん。そんな遠山さんをテーマにした今回のホッピンフレンズプロジェクトからは、どのようなビールが誕生したのでしょうか。
今回参加したのは、石川県能美郡川北町にある金沢百万石ビールの大久保さん、長野県諏訪市にある麗人酒造の宮澤さん、岩手県和賀郡西和賀町にあるヘリオス酒造の菊池さんの3名。
「HOPPIN’ GARAGE 婚姻のグレジュビール」担当ブルワーのサッポロビール・成瀬さんも交えて、完成したビールについての座談会を開催しました。
※座談会ではヘリオス酒造さんが欠席だったため、文末に追記で情報を入れております
<座談会参加者>
金沢百万石ビール 大久保一樹さん
麗人酒造 宮澤善裕さん
サッポロビール 成瀬史子さん
完成したビールの、特長や自慢ポイントは?
──まずは今回完成したビールについて、特長や工夫したポイントについて教えてください。
大久保さん:金沢百万石ビールは、今回「ニューオールドマン」というビールをつくりました。ビアカクテルのような味わいの飲みやすいビールに仕上げています。
副原料を使うのではなく、我々が普段つくっているビールと同じ「水・麦芽・ホップ・酵母」のみとシンプルな原料にしつつ、ビアカクテルらしさを目指したところが一番の特長です。飲みごたえがあるように、ビールにボディを持たせるべく麦芽の糖化工程などを工夫しました。
宮澤さん:麗人酒造で今回製造したのは、「真夜中のPOP Black IPA」です。特長は、「CRYO POP(クライオポップ)」という近年登場したホップを使用しているところ。遠山さんが「新種の老人」とご自身のことをおっしゃっているのを聞いて、私たちがつくるビールでは、何か新しいものを取り入れようと考えました。
色は黒いのに味はトロピカルでジューシー。見た目とは裏腹な、「あまのじゃく」なビールになっています。
成瀬さん:ホッピンガレージの「婚姻のグレジュビール」は、遠山さんのご要望でもある「どれだけグレープフルーツの味わいを出せるか」にとても力を入れました。
果汁をブレンドさせるだけではつまらないので、発酵前の麦汁の段階でグレープフレーツ果汁とピールを入れて、それを上面発酵酵母で発酵させてつくっています。
何度も試醸(試験醸造)して、果汁やピールの使用量、アルコール度数などを細かく調整していきました。果汁を入れることによって、グレープフルーツ由来の苦味や酸味が持ち込まれてくるのですが、それを支える甘味をどれくらいつけた方がいいかと試行錯誤して、苦味と酸味と甘味のバランスを重視して設計しています。
それぞれが、遠山さんからインスピレーションを受けたところ
宮澤さん:金沢百万石ビールさんでは、どうしてビアカクテルっぽいものをつくろうと思ったのですか?
大久保さん:遠山さんのお話を聞いて、クラシックなバーや別荘でビアカクテルを嗜む大人ってかっこいいなと思い、そういう素敵な大人な一面をビールに落とし込みたいなと思いました。
また、新しいことに挑戦しながらも古き良き文化を愛する遠山さんの姿勢にも共感したので、先ほどお話したように、原材料はシンプルで昔ながらのものを使用しながらも、「それだけでビアカクテルっぽさを表現する」という新たな挑戦をしてみることにしたんです。
麗人酒造さんは、どのようにビールのコンセプトを決めていったのでしょうか?
宮澤さん:「軽井沢の別荘で、朝方まで考え事をしている」という遠山さんのお話からインスピレーションを得て、まずは「真夜中に飲むビールをつくろう」と思いました。それならブラックIPAだと。
あとは遠山さんの実業家でもあり、アーティストでもあり、文筆家でもある、といったいろいろな面があるところも魅力に感じたので、飲む人の予想を裏切るような、驚いてもらえるビールをつくりたいと思ったんです。だから、色は黒いけれどトロピカルな味わいなんですよ。
大久保さん:なるほど! 私はまだ一度も人生でブラックIPAをつくったことがなくって。だから初めて麗人酒造さんのビールを見たときに、「いいなあ、そのアイデアがあったか!」と思わず悔しくなりました(笑)。
成瀬さん:おふたりとも、ビールに落とし込むまでの過程がすごくおもしろいです。
──成瀬さんは、ビールづくりで遠山さんと直接ご一緒してみていかがでしたか?
成瀬さん:遠山さんにお会いして、「新しいことにチャレンジしたい」という気持ちがすごく湧きました。遠山さんは想像力がとても豊かな方なので、話しているといつも斜め上からアイデアが飛んできて、ご一緒していておもしろかったですね。
先ほど説明した「発酵前添加」の製法の話をしたら、「シトラス家とモルトファミリーの婚姻」というワードが出てきたり……。私たちには思いつかないようなアイデアばかりだったので、刺激がたくさんありました。
「わからなさ」を大切にした缶体デザイン
──みなさんの缶体デザインも素敵です。
宮澤さん:ありがとうございます。ブラックIPAなので背景は黒を基調としながらも、いろいろな色を使うことで、「ホップをたくさん使用したこと」や「トロピカルな香り」を表現しています。どことなくサイケデリックな感じもあって、どんなビールか一見想像できないですよね。
ラベルに関しても、説明を書きすぎるのではなく、受け取った側が自由に解釈できるような余白を残しました。手に取り飲んでいただく方によって最終的には完成する。遠山さんもおっしゃっていたように、缶や中身、飲んでいただく方すべてを通してひとつのアートとして捉えています。
大久保さん:デザインに対する考え方は、私たちも麗人酒造さんと通ずるところがあるように思います。
私たちも、パッと見た感じだけではどういうビールかわからないものにしたいと思いました。だからこの絵について、実は私も「何が描いてあるか」って具体的にはわからないんですよ(笑)。
成瀬さん:畑をイメージしたような感じにも見えますよね。
宮澤さん:端っこの絵なんかは、工場の煙突のようにも見えます。
大久保さん:右上の絵も、キリンに見えたり、木に見えたり、手にも見えたりするし……。このラベルを見て、ビールを飲んで、いろいろな会話が生まれたらうれしいです。「このビアスタイルって一体なんなんだろう?」と思ってくれるといいなと思います。
ビールづくりそのものが、「アート」なのかもしれない
──ホッピンフレンズ初参加の宮澤さんと、対談初参加の成瀬さんに伺います。「ビールづくりのおもしろさ」はどこにありますか?
宮澤さん:ほかのお酒と比べても、ビールは非常に自由なところがおもしろいですね。ビールって、科学的な根拠に基づいて緻密に計算された飲み物なんです。つくっていく中で、自分たちの行動のよかったところ、悪かったところが如実に味に表れます。だからこそ、イメージしたものがイメージ通りにできたときは最高にうれしいですね。
また、スタイルに枠がないことや、ラベルでも表現をたのしめるところもおもしろいです。飲んだ人によって感じ方が異なる。ビールというもの自体が、アートっぽいのかもしれません。
成瀬さん:私がビールづくりで一番おもしろいと思う瞬間は、レシピを考えるときです。できあがってくるビールを想像しながら原料配合や製法を決める仕事が一番好きだなと思いますね。
ビールは途中で「酵母が発酵する」という過程があるので、酎ハイとは違って、原料がそのまま商品になるのではなく、酵母が成分を変化させることで最終的に仕上がる飲み物です。その未知数なところが、ビールづくりのおもしろいところなんじゃないかなと思っています。
──ありがとうございます。では最後に、みなさんのホッピンフレンズの取り組みに対しての感想や思いを教えてください。
宮澤さん:「人を表現してビールをつくる」というのが他にはない取り組みですよね。遠山さんというひとりの「人」から始まり、いろいろなメーカーが集まってビールをつくる。これもひとつの作品なんじゃないかなと思います。大久保さんは、もう3回目なんですよね? 魅力的な商品をいつもつくっていてすごいです!
大久保さん:毎回、すごく悩みながらつくっています(笑)。でも私はホッピンフレンズをひとりで担当しているわけではなく、会社のブルワー仲間やマーケティング担当などと力を合わせてやっているので、決して僕ひとりではないというところがアイデアを形にできている理由だと思いますね。
成瀬さん:同じ方を起点につくった商品でも、これだけさまざまなバラエティに富んだビールが出てくるというところが、この企画おもしろいところだなと思います。
遠山さんのお話を聞いて私たちブルワーが感じることはもちろん違うし、その表現したビールを飲むお客さまの感覚も人それぞれ。ビールを通じて、新しい価値や新しい表現が連鎖的に創造されていくのが魅力的ですよね。
****
今回は、ヘリオス酒造の菊池さんが対談に参加できなかったため、後日コメントをいただきました。
菊池さん:今回私たちがつくったのは「山羊とピクニック」です。ホップ感は抑えめで、ヴァイツェンのバナナの様なエステル、ローストモルトの風味が香るようにつくっています。ボディは濃色ですが、見た目以上にすっきりと飲みごたえがあるビールです。
遠山さんのお話の中で出てきた 「ピクニック紀=ゴールや目的、勝敗も利益もない自由な時代」という斬新な考え方にインスピレーションを受け、コンセプトは「山羊と一緒にピクニックに出かけようよ♪」というたのしいものに。牡ヤギは、ヴァイツェンボック(※)とかけています(笑)。
(※)ヴァイツェンボックの「ボック」はドイツ語で牡ヤギを意味する
中身はあくまでも基本に忠実に、クラシックなレシピに基づいて醸造。デザインで、遠山さんが大事にしている「自由」と「アート」をより濃く表現していますね。ボディの濃いビールと、軽快なイメージのピクニック。一見相反するようなこのふたつを共存させることも「自由」であると考えました。
他のみなさまのビールと一緒にたのしんでください!
****
■ホッピンフレンズとは
■今回ご紹介したホッピンフレンズセットの購入はこちら