私がこの街で乾杯する理由
私はある都内の飲み屋が多い街に住んでいる。
住み始めたのは2年半前。都内で働いているし、元々住んでいた横浜とはさほど変わらないだろうと思って住み始めた街、三軒茶屋。
ピカソで日用品の買い物をして、ふらふら歩いていると
「お姉さん、いっぱい飲んでかない?」とチャラい店主の呼び込みに惹かれてある明るすぎる立ち飲み屋に吸い込まれた。
横浜でもよく飲んでいたし、お酒の強さには自信がある。話のネタには尽きないし。場所が三軒茶屋に変わろうと私はいつも通りやれるだろうと思っていた。
「はじめまして!乾杯!俺〇〇!よろしくね!」
軽快に話しかけてくる三茶民たちの話はすべてフィクションかと思うほど面白かった。完敗だと思った。
濃縮されたジュースみたいに話が濃くて濃くて、笑いすぎてお腹が痛かった。
そこでハッとした。
ここにきている人は、誇りを持って仕事やプライベートを全力で生きて、生きて、この一杯に癒されているのではないか。
その翌日またその店に行った。
同じような面々がいて、さらに面白い話を聞いた。その翌日も翌日も面白かった。
「お姉さんは何してる人?」
そう聞かれたとき、私は話す内容に自信がなかった。
人間関係も待遇も恵まれた職場であったが、やりがいがないのだ。
三茶民が語るようにキラキラと話せない。今の私には眩しすぎる。
毎日を全力で駆け抜けて
この人たちと対等に「乾杯」をしたい。
心からそう思った。
そして仕事を辞め、50社ほど受けて自分が一番やりたいと思う仕事に転職した。
22時頃まで残業。安月給。土日もずっと頭の中は仕事一色。
でも楽しかった。
22時半になれば
眩しい笑顔の三茶民と誇りを持って「乾杯」ができるから。
その一杯のために今日も全力で生きる。