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ホップと科学。 Part2 #BBER #HOP

どうも、Frisbeer guysです。

最近は本業の方がゴリゴリスケジュールでなかなかディスクを投げられていませんが、忙しいのは良いことなので腕が錆びつかないくらいには隙を見て投げていこうと思ってます。

もちろんアメリカのプロツアーは毎度チェックしているので刺激を受けつつビールもディスクもがんばっていきたい、、、常連の上位陣を抑えてのKyle Kleinの優勝は見事だった・・・。


さて、今回はホップを投入するタイミングを整理してみようと思います。名前だけなら聞いたことある方法もあるかも。


従来、ホップはおおまかに苦味用の「ビタリングホップ」と香り用の「アロマホップ」に分けられ、基本的には煮沸の始まりにホップを加えることでより強い苦味を、煮沸の終わりごろに加えることでより複雑な香りをビールにもたらすことができます。またホップの品種や産地によってどれだけビールに苦味や風味を与えるかも大きく異なるため、どのホップを選ぶかは目指すビールのスタイルや好みの風味によって多様に変化します。

現在のホップのおおよそは両方の役割を担っているため様々なケースで使用することができますが、ホップの選択に加えてホップを使用する(投入する)タイミングによってもそのホップの効き目は大きく変わるので、それぞれ最適な条件を探り出し、それに合わせて使い所を考えるのも醸造の醍醐味だと思います。

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Brewing processから

1. Mash hop
マッシング(糖化)の段階でホップを投入する。
当初は原理が良くわかってなかったのであまり効果も期待していませんでした。。。が、Omega yeastの新製品「Cosmic Punch Ale(OYL-402)」でマッシュホップの可能性について言及していたので、今後注目のテクニックになると思ったり。。。
参考⇒https://omegayeast.com/news/cosmic-punch-new-thiol-boosting-strain
この記事がどのくらい内容通り示すのかは自分が試していないのでわからないが、いままで曖昧だった酵母のβリアーゼ活性についてだったりアロマの挙動、抽出、変換などとても興味深いので、気になる人は読んでみてほしい。(ここで書くと1記事分くらいになりそうなので今は割愛)

簡単にまとめると、ホップ中に含まれる結合型3MHは通常グルタチオン結合が多いが、マッシング中にホップを投入することでその結合がシステイン結合に変換され、これでβリアーゼの酵素反応で遊離型3MHへと切断されやすくなる。3MHは煮沸を経ても残存しやすいのでマッシュホップを行うことで大量の3MH前駆体を得られるというわけだ。

2.First Wort Hopping(FWH)
マッシング後のろ過が終わった直後にホップを添加する。
ホップのオイル成分が酸化を受け(水溶性が強くなる?)、麦汁温度が上がるにつれて溶解しやすくなることで煮沸でも麦汁に保持される、らしい。
最近はボイリングの強さ(火力)も煮沸率など気にせず、あまり強くする必要はなく、短時間でマイルドな煮沸でも良い、という見解もあるので様々な試行ができそうだ。ちなみにウチでも冷凍生ホップを使ってFWHをよくしている。

3.Bittering Hop
ホップを添加して長時間煮沸する。麦汁にホップの苦味を加える工程。
ホップのルプリンに含まれるα酸はそのままだと水に溶けにくいため苦味を感じず、どちらかとしてはアクとして感じるような独特のえぐみがある。構造式にある緑の部分の構造の違いによってそれぞれ性質が変化する。もちろん品種や地域によってそれぞれ含まれる割合も変化する。

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このα酸は熱をある程度の時間かけることで水溶性のイソα酸に異性化(isomerization)し、ビールにもよく溶け込むようになる。そしてイソα酸になることでヒトの持つ苦味受容体に認識されるようになり、苦味として知覚される。

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人気スタイルのIPAはこのホップの苦味がとても重要になるわけだが、さらに人気沸騰しているNEIPAは逆にこの苦味をあえて出さずに香りのみをバーストさせるという、なんとも不思議な流行である。


4.Hop Burst
煮沸を終える10-20分前にホップを添加する。
風味や香りとともに少量の苦味も加えることができる。レイヤーを重ねることで複雑なアロマを表現したりする。
このあたりのHoppingがまた難しいところで、実際どのくらい複雑化するかはもうやってみないと分からないし、どのくらい効果あるかも判定がしにくいところ。ただ、ホップアロマの一つであるテルペン類やモノテルペンアルコール類は化合物によって揮発性などの挙動も異なり、またチオール系の一部は100℃に近いほど抽出効率が上がるものもあるので一概に効果がないとは言い切れない。

5.Hop Stand(Whirl pool hopping)
フレームアウト及びワールプール時に沸騰温度より低い温度でホップを麦汁にある程度の時間接触させる。
ホップのα酸異性化は90℃では100℃の約50%程度しか進まず、70℃では10%以下まで落ちるという。つまり、α酸の異性化閾値(79℃)以下でホップを投入することで苦味を出さずにホップアロマの特徴のみを引き出すこともできるということ。なので最近では煮沸後の麦汁温度を80℃前後まであえて落とした上でHoppingするホットサイドホッピングが流行っていたりする。
上述したように温度によって抽出されやすいホップアロマも変わるので、低温Hop Standで抽出を狙うのは揮発しやすいテルペノールやエステルが多いだろう。

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6.Hop Bag
チラーの手前にホッピング容器を配置させるホットサイドホッピングの一つ。ホッププラグまたはホールホップを用いることが多い。
言ってしまえばこれは手法というより器材設備だが、ワールプール後の熱い麦汁をホップの入った容器に通し、香りとともにホップ自体がろ過材のような役割を果たして麦汁をきれいにする効果もあるという。
・・・個人的には麦汁移送が結構ゆっくりになってしまうので一長一短かな、とも思ってる。

7.Dip Hop
某大手麦酒会社が開発した、ホップを発酵段階で漬け込む製法。72-76℃程度のお湯でホップを抽出及び殺菌したのちエキスごと発酵液に投入する。
これも原理的には苦みを出さずに香りのみをピックアップする、という仕組みかと思われるが、70~80℃まで加熱するとホップアロマのミルセン等グラッシーさを感じさせる香りが抜けやすくなるので、華やかな香りを直接ビールに与えられるという画期的な方法として紹介されている。
ただし気を付けなければいけないのがホップをお湯で抽出しているので、その分ビールにお湯の水分が加わり薄くなる、ボディが軽くなるリスクを考えなければならないということ。

8.Dry Hop
よく耳にするドライホップ。
所謂コールドサイドでホップを投入し、ホップの香り成分をビールに溶け込ませる。以前よりドライホップは長い期間おかずとも香りは抽出されることは知られていたが、実際モノテルペン、モノテルペンアルコール等では約24時間で十分量抽出され、3日間で最大に達し、また4MMP(遊離型)でもおよそ2日間で最大抽出が確認されるという。
温度によってもその挙動は変化し、20℃に近い高温側だとミルセンやピネンなどのテルペン類の抽出が進み、リナロールなどのテルペンアルコールでは4℃などの低温側で進みやすい。またチオール類は発酵容器(タンク)が大きいほど抽出が遅くなる可能性がある。
ホップの香り成分はもちろん疎水性が強いものが多いのでアルコール濃度に依存してドライホップ抽出効率も変化する。特にモノテルペンアルコールはABVが上がるにつれてドライホップ抽出が増加する。

コールドサイドのHoppingはドライホップというくくりになってしまうが、その中でもいくつか分けられる。

8-1.発酵中Dry Hop
発酵中にドライホップすることで酵母の働きに影響を与えたり、生体内変換(Biotransformation)を促す。揮発性のアロマは発生するCO2とともに飛んでいきやすい状態でもあるが、ゲラニオールからβシトロネロールへの変換であったり、結合型チオールから遊離型への切断も酵母の働きによって行われるので、まだまだ未知数の領域であるがホップと酵母のシナジーを追求する面白いHoppingだと思っている。
8-2.発酵後Dry Hop
酵母の働きが落ち着いた後にホップを添加する。主に遊離型のホップオイル成分がビールに溶け込み、香りに影響を与える。
もちろん温度が低くなるほどホップオイル成分も抽出効率が下がるので、香りをつけるにはそれなりの量が必要になるが、ホップの品種によってはすぐに香りとして知覚されやすい遊離型の成分を多く持つもの(シトラやモザイクなど)もあるので、ホップのチョイスも重要かもしれない。

一つ注意したいのが、特に発酵中のホップ添加ではホップクリープが起こりやすい。ホップクリープとはホップに含有されるアミログルコシダーゼやアミラーゼなどの酵素が難消化性糖(デキストリン等)の分解を促し、発酵性糖が生成されることで酵母の再発酵が起こる現象のこと。主に3つの注意点があり、①再発酵により多糖類が分解されボディが軽く(ドライに)なる、②発酵によりCO2が発生しガスボリュームが増加する、③不健康な酵母発酵によりオフフレーバー(アセト乳酸やダイアセチル)が生成される、が挙げられる。
これを回避するために、例えば温度をできるだけ低温にしてから投入することで酵母活性化を抑えたり、ホップにある程度高温を与えて酵素失活させてから投入するなど対策できるが、クリープが生じる可能性がある前提でしっかりホップスケジュールを考えておくべきだろう。

9.Hopgun/Hoprocket/Hopcannon/Hopnick etc...
こちらも手法というより器具設備となるが、専用の小タンクにホップをセットし、ビールタンクと小タンクを循環させることでドライホップを行うDynamic(動的) Dry Hopping。

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似たような装置は色々ある。諸説あるが、モノテルペンアルコールに関していうと通常の静的ドライホップでは24時間で十分量抽出されるのに対して、動的ドライホップは約4時間で十分な抽出量に達するという。また20℃のドライホップに対して4℃以下の低温ドライホップでもこの迅速な方法で抽出されることは確認されている。ただしテルペン類特有のグラッシーさやグリーンさも出やすくなるので注意が必要だろう。

10.Rausing
babbling(バブリング)とも。ホップを投入した後にタンクの下部からCO2などを送り込むことでビールを攪拌し、ビールへのホップの接触面積を増やす。上記のDynamic Dry Hoppingと原理は一緒かと。

以上。


最後の独り言。
グルタチオンはグルタミン酸+システイン+グリシンのトリペプチドであり、グルタチオン結合型チオールはシステイン部分のチオールと結合しているので、Mush Hopにおけるグルタチオン結合型チオールのシステイン型への変換というのはつまり、植物中(麦芽?ホップ?)に含まれるγグルタミルトランスペプシダーゼが働くことでグルタミン酸を放出し、さらにジペプチダーゼによってグリシンが遊離することでチオール-システインのみの結合型になるということ?つまりマッシング中の条件(温度やpH)が各酵素の活性と合致することで大量のシステイン結合型チオールの生成につながる、ってコト?そしてγグルタミルトランスペプチダーゼは細胞外に存在する酵素らしいので、それによって遊離したグルタミン酸やグリシンはどのような挙動を示すのだろうか。また同様にβリアーゼ活性によって遊離するシステイン?もどのような挙動を示すのか、システインといえばHSラジカルによってイソα酸と反応し日光臭につながったりするので、そのあたりの動きはどうなっているのだろうか。

わからないことばかりですね。

おそらく他にもたくさんテクニックはあると思うので、面白い手法があったら教えてください。

Cheers!


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