【私がウツになったワケ】はじまり
それはいつものクライミングジムでの練習中だった。
私がクライマー(登る)で彼氏がビレイヤー(ロープを持つ)。
リードクライミングで、いつものように登ってたはずだった。
わりと快調に5ピン目(約5m)まできた所で
「!」足がホールドから離れ体が落下していく。
「あーあ」と心の中で一瞬思って
ロープが張られるのを落ちながら待っていたが張られない。
「ヤバイ!」と思った瞬間、ドサッという音と共に腰に激痛がはしった。
後輩の「ウソでしょ」の言葉が耳に残った。
私は「なんで?」としか言えなかった。
彼氏が寄ってきて落ち着いた声で「大丈夫?」と言う。
「大丈夫なワケないでしょ!」と苦しみながら言い放った。
腰が痛くて体をおこすことはまったくできなかった。
ジムの人や救急隊員の人からも動くなと…
そのまま救急車でERへ… 夜の病院はこわかった。
暗い中、同じ部屋に苦しそうな人がいる。
まったく体をおこせないので状況もわからない。
孤独で悲しくてワケがわからなかった。
トイレもすべて看護師さんを呼ぶしかなく、恥ずかしかった。
痛みどめを何度も打ってもらい、少しは眠ったようだったが
「夢でありますように」と朝目覚めて涙が出た。
『腰椎破裂骨折』と言われた。
腰骨がつぶれて骨片が飛び出ている状態。
ビレイヤーであった彼は平然とした顔で必要な物を買ってきてはくれるが
事故について何も語らない日が数日続いた。
ずっと事故について考えていた。
なぜ落ちたのか?
落ちるとわかっていたらホールドをつかんだのに、とホールドをつかむシュミレーションを頭で何度もした。
無駄なのに…
彼に聞くのがこわかった。
でもこのままではいけないと勇気をふりしぼって
「私はなんで落ちたのかな?」と聞いてみた。
「ごめん、よそ見をしていた」と顔を真っ赤にして彼は答えた。
私は何も言えなかった。