妄想物語【すっぱいチェリーたち🍒】〜スピンオフ壽賀美の文化祭編4〜
つながり活動をされているうりもさんの妄想物語の第二弾
【すっぱいチェリーたち🍒】
今回のコンセプトは、『すっぱい』と『わらしべ長者』
人と関わる中で、物質的なものではなく、精神的な何かを得ていく。
私にとって…壽賀美にとってのわらしべ長者とは…。
私は何と何を交換して豊かになっていくのかな?
最後に私の手に残るものは何かな?
私の妄想物語。
私の前回までのお話はこちら
文化祭のお話を書きたいのに、なかなか文化祭には辿り着けない…。
こちらのお話は妄想物語となり、登場人物は、それぞれの方をモチーフにしていますが、あくまでも妄想上の人物像ですので、勝手にキャラを作っています。
間違ってもそういうイメージで見ないようにしてくださいね。
【すっぱいチェリーたち🍒〜文化祭編4〜】
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配役が決まってから文化祭まで1ヶ月もない中での劇の練習。
「壽賀美、これってどうするの?」
「これとこれは、こうして」
「壽賀美、これはどうしたらいい?」
「こういうふうにやってみて」
「壽賀美、これでいい?」
「オッケー。バッチリじゃん!」
「みんなー、本番まであとちょっとだよ〜。気合い入れてやってこー!」
…全然こんなんじゃなかった…。
私は生まれてこの方初めてたくさんの人の前に立ち、指示出しをするという経験をした。
「衣装どーするのー?」
「ここの小道具って何を置いたらいいのー?」
「ねー、ここで使う曲ってどんな感じ?」
「ここのセリフ言いにくいんだけど」
「大道具って、何作ればいいんだよ」
「照明の色の出し方全然わかんないんだけど」
あちこちから聞こえてくる声。
「えーと…」
「あ、ちょっと待ってね…」
「ねー、さっき聞いたあれってどうなった?」
「え?あ、ごめん。まだちょっとわかんない…」
何をどこから答えていいのかわからない。
何をどう指示していいのかわからない。
どうやって伝えたらいいのかもわからない。
こんなはずじゃなかった。
確かに、こんな大役をやることになった時には、私に出来るわけがないと思っていた。
けど、なんだかんだいって自分は出来ちゃったりなんかしちゃうんじゃないのー?なんて思ってた。
普段は目立たず、パッとしない私でもいざとなったら自分の中に眠っていた何かが開花して『出来る自分』になっちゃったりするもんだと思っていた。
垣野先生と台本を書いてた時みたいに。
ところがどっこい。
想像していた自分とは全くかけ離れていた。
想像していた自分と現実の自分との違いにがっかりした。
何日も上手くいかず、自分の不甲斐なさに、けちょーんと落ち込み、トボトボ廊下を歩いていたある日、柱の影に垣野先生の姿があった。
駆け寄って話を聞いてもらおうかと思った時、垣野先生は、柱の影からこちらに向かって親指を立て、おかっぱの髪を揺らしながら微笑んで行ってしまった。
『あなたの茶柱を立てるのよ』
そう言っているのか?
…けど、先生、私にはその意味がわからないよ…。
けどなぜか、もう少しだけでも頑張ってみようと思えた。
ハイジ役の宇利盛男は、バンドの練習もあるのに、長ゼリフも覚えてきてくれて、練習にも積極的に参加してくれた。
「なんで俺がハイジやねん」
なんて毎回言いながら。
そして、私が上手く指示を出せずにいたり、ピリついてしまう時にも場を盛り上げてくれた。
彼を座長にして良かったと心底思った。
あの時のサイコパス貝差彩子、グッジョブ。
心の中で私も親指を立てていた。
それでも私がテンパっていると、由木先生が
「みんなそれぞれ自分の頭で考えてみよう。失敗してもいいから。っていうか、人生に失敗なんてないんだよ。全部いい経験だから!」
と言ってくれた。
失敗してもいい。
全部いい経験。
それは、由木先生自身がそう思うことがあるからなのかもしれない…。
合コンで失敗してもそれは失敗ではなく、いい経験。
次に繋がるいい出会いと別れ。
そういうことなんだろうか?
高校生の私にはわからない。
由木先生の声かけのおかげもあって、みんなも自分たちで考えて行動してくれて、全ての指示を私待ちにしないで、行動してくれるようになった。
相変わらず宇利盛男は場を盛り上げてくれるし。
盛り上げすぎて劇の練習というより、ツッコミの練習になってしまう日もあったけれど…。
みんな部活やバンドの練習、バイトに恋に大忙しで、全員が揃うのはなかなかなくて大変なこともあったけど、なんとか形になってきた。
文化祭前日。
この日はリハーサル。
私は最終確認として、スポットライトを当てる照明担当の矢田なぎこのところにいた。
学校の体育館の照明機材はちゃんとした設備が整っていないため、スポットライトは、手動で行わなくてはいけない。
そのため、体育館のギャラリーに置いてあるスポットライトに1人付き、照明をつけたり消したりする他、動かして人に当てることをしなくてはいけないのだ。
その役をかって出てくれたのが矢田なぎこだった。
矢田なぎことは、1年生の時から同じクラスだったけれど私は話したことがなかった。
なんとなく、私なんかが彼女に話しかけてはいけないんじゃないかと、思っていた。
彼女は、人と群れを作ることをしない。
1人凛とした佇まいをしていた。
女子特有のつるんでトイレに行くということもしないし、移動教室の時も1人で行動している。
お昼も1人で食べていることが多い。
かと言って友だちがいないとか人付き合いが悪いわけでもない。
なんとなく人と違う雰囲気を持っている。
1人で本を読んでいることも多い。
図書館で本を借りる時、貸し出しカードに名前を書こうとすると、彼女の名前があることがよくあった。
私の読みたい本と被っていたのか、彼女の読んでいる本の量が多いからなのかはわからない。
たぶん後者なのだろう。
貸し出しカードに書かれた彼女の名前は、癖もなく、綺麗な字で、大きく堂々としていた。
その下に私のへなちょこな字を書くのはとても恥ずかしかった。
今はショートヘアで、良く似合ってるいるが、1年の頃は彼女の髪は腰近くまであり、それを1つにキュッと結んでいた。
彼女の性格を表してるかのようなうねりのない、真っ直ぐに伸びた黒髪。
癖毛の私とはまるで違う。
彼女の性格も真っ直ぐに伸びた綺麗な髪も羨ましいと思って見ていた。
髪を結んでいるゴムを歩きながらスッと取る。
ここで、スローになる。
画面はちょっと白くモヤがかかる。
でもって、髪がバッサーってなる。
ここは、後ろ姿からのアングル。
で、頭をフリフリ〜ってさせて。
ここは、前から顔全体をアップで撮る。
アングル的には少し下からで、空も映る感じ。
で、髪がサラサラ〜ってなって。
ゆっくりよ。
スローで、髪がサラサラサラ〜ってなるの。
はい!ここで曲がかかる〜!
足元から上にアップ。
で、顔が映った時に、メガネをシャイーンって取る。
さっきまでの地味な矢田なぎことは別人のような、目力強しのかっこいい矢田なぎこになって颯爽と歩いて行く。
そんな感じがあった。
矢田なぎこはメガネはかけてないけど。
1年の頃は矢田なぎこを見るたびにこんな妄想をしていた。
そんな矢田なぎこが隣にいる。
何か話しかけた方がいいんだろうけど、何を話したらいいのかわからない。
私が話しかけていいのかもわからない。
けど、ずっと黙ってるのも変だよなぁ…。
何か喋らないとなぁ…。
「あ、だんだんだん、さ、さ、寒くなってきたよね」
緊張して、だんが1つ多くなってしまった…。
しかも吃るし…。
なんか棒読みだったし…。
「そうだねぇ」
…。
……。
………。
「か、髪、切った?」
咄嗟にタモリみたいなことを言ってしまった。
「え?タモリ?」
少し笑いながら矢田なぎこが言った。
お!え?ここで、タモリって返してくれるの?そういうタイプ⁉️
私の中で矢田なぎこの印象が少し変わった。
「髪切ったのは結構前だよ」
「え?あ、そうだった。ごめん…」
しまった…。
私ってばいつの話をしてるんだ!
髪長かったの1年の頃じゃん!
もう!知ってたのに!
「1年の時、バスケ部に入ってて」
矢田なぎこが話を続けた。
「バスケ強くなりたかったら髪、切ってきてって言われて」
「え?誰に?」
「先輩。2年か3年に」
「へぇ」
「で、髪の長さとバスケの強さと関係あるんですか?って聞いたらなぜか怒られて」
「え?聞いたの?先輩に?」
「うん。だってわからなかったから。髪切ったらバスケが強くなるってことが」
「あー、まぁそうだけど…」
「で、色々気合いだとか、やる気だとかなんとか言い出してきて。結局、髪の毛の長さとバスケの強さに関しては誰もちゃんと答えてくれなくて」
「だろうね…」
「色々めんどくさくなって、バスケやめて…」
「あ、やめたんだ」
「そう。で、やめた次の次の日くらいに髪をバッサリ切った」
「えーっ!どういうこと?髪の毛切るの嫌だったからやめたんじゃないの?」
「違う。なんとなく髪伸ばしてただけだし」
「あ、そうなんだ」
「別に髪なんてほっといても伸びるし」
「まぁ、そうだけどさ…」
「私の髪の毛を人に指示されて切るのが嫌だった。切る理由も私が納得できなかったから切らなかった。けど、2日後くらいに急に髪切りたい!って思ったから切った」
「ほえ〜。凄いね…」
私には出来ないようなことをサラリとやってのける矢田なぎこ。
やっぱり私とは世界が違う人なんだとも思った。
だけど、すごく気さくで気負わず話せる感じがした。
「私、文化祭って、出たことないんだよね」
「え?そうなの?」
「あんまり好きじゃなくて」
「え?文化祭好きじゃない人っているんだ!」
人それぞれ好き嫌いがあるのは知ってるけど、まさかこういう行事が嫌いな人がいるなんて…。
私には衝撃だった。
「今回スポットライトを当てる役になって、こうして人にライトを当ててると、人に光を当てることっていいなぁって感じる」
こんなことをサラッと言える矢田なぎこもまた私には衝撃だった。
私と矢田なぎこは今まで話したことがなかったのが嘘みたいに色んな話をした。
話に夢中になりすぎてスポットライトを当てるタイミングを間違えてみんなに怒られてしまったほど。
リハーサルが終わると、私は各クラスの打ち合わせがあった。
私が移動しようとした時に矢田なぎこから声をかけられた。
「後で裏庭に来てほしいんだけど」
う、裏庭?
女子が女子に裏庭に来てって、アレだよ?アレしかないよね?
女子が男子に裏庭に来てって言ったら告白じゃん。
男子が女子に言ってもさ。
けど、女子が女子にだよ。
もうアレしかないよね?
「顔はやめなよ。ボディボディ」
だよね?
私、ボッコボコにされるのかな?
え?今の今まで仲良く話してたと思ったのに、何か私まずいこと言ったのかな?
気にさわること言ったのかな?
え?けど、あんなに仲良く話してたんだよ。
え?どういうこと?
ボッコボコにされることなくない?
ボッコボコじゃなかったら何?
女子が女子を呼び出しても告白ってこともあるんじゃない?
そうだよ。
ジェンダーレスだよ。
貝差彩子も言ってたじゃん。
えぇ。どうしよう…。
私も矢田なぎこ好きだよ。
まだ話したばっかりでよくはわからないけど、少し話した感じは、なんか、いいなぁって思ったよ。
思ったけどさぁ。
好きだなぁって思ったよ。
思ったけどさぁ。
この好きは、そういう好きとは違うんじゃないかな?
え?待って。
1年の頃もちょいちょい彼女を目で追っていたのは、もしかしてそういうこと?
え?まさか。
私は自分の気持ちに蓋をしているのか?
私は自分が女子を好きになるはずがないって思い込んでいるのか?
打ち合わせ中、ドキドキしすぎて内容をほとんど覚えていない。
打ち合わせが終わり、ドキドキしたまま中庭に行った。
そこにはすでに矢田なぎこが1人でいた。
おお。緊張してきたな。
人生初の告白されるやつは、まさかの女子かぁ。
えー。初めてお付き合いする人は女子なのかー。
え?お付き合いする?
あら。なんだ。私の心はもう決まってたのか。
そうか。
よし。
答えは「YES」だ。
私の心も決まり、矢田なぎこに声をかける。
「忙しいのに来てくれてありがとう」
優しく笑う矢田なぎこ。
「あ、いや、いいよ」
口を少し尖らせて目線を斜め上に上げる。
心なしか石田純一を意識してる自分がいる。
私の中のかっこいいは石田純一なのか?
「これ、見て欲しくて。私が育てたの」
矢田なぎこが指差した方を見ると綺麗に咲いている菊の花が数本あった。
「バスケやめてからここの裏庭で菊を育ててたんだ。それを今回の文化祭で展示するの」
「え?あ!そういうこと?」
石田純一になろうとした自分を2つの意味で恥じた。
「え?どういうこと?」
「あ、いや別に…」
ボッコボコにされるわけでもなく、告白されるわけでもないことにちょっとがっかりしながら私は綺麗な菊を見つめていた。
「花なんて育てたことなかったけど、育ててみると案外面白くて」
「へぇ。そうなんだ」
「花は美しく、トゲも美しく、根っこも美しいはずさ。その意味がわかってきたんだ」
「…トゲ?菊にはトゲないよ」
「魔法のコトバだよ」
「ん?あ!どっかで聞いたことあると思ったらスピッツか!」
「好きなんだよねぇ。スピッツ」
「へぇ」
「今回の文化祭…ってか、私にとってはほぼ初めての文化祭だけど。なんかいいね。人と人が交わったり、何かをみんなで作り上げたり。楽しかった」
「楽しかったって、過去形にしないで。明日が本番だから!もう思い出にしないでよ!」
「あ、そうだった」
矢田なぎこは目を細めて笑った。
私も元々細い目をますます細めて笑った。
ひと通り笑い合った後矢田なぎこは
「文化祭が終わったら私、海外に行くの」
と言った。
「え?」
ようやく仲良くなったと思ったのに…。
魔法のコトバ 二人だけにはわかる
夢見るとか そんな暇もないこの頃
思い出して おかしくて嬉しくて
また会えるよ 約束しなくても
私の頭の中でスピッツの『魔法のコトバ』の曲がリフレインした。
鼻の奥がツーンとした。
いよいよ明日は、文化祭当日。
そして、あんなに頑張って練習をして完璧なハイジを目指していた宇利盛男は、本番20分前になっても現れなかった…。
〈続く…〉
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またまた長くなってしまったので続きます。
次こそ文化祭の話です。
…たぶん…。
出演者
宇利盛男…うりもさん
貝差彩子…彩夏さん
由木肉子先生…ゆきママさん
垣野先生…書きのたね@ブルボンヌさん
矢田なぎこ…やなぎだけいこさん
橋田壽賀美…ららみぃたん
最後までお読みいただきありがとうございます。