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妄想物語【すっぱいチェリーたち🍒】〜スピンオフ壽賀美の文化祭編5〜

つながり活動をされているうりもさんの妄想物語の第二弾
【すっぱいチェリーたち🍒】

旅行って、行く前の方が楽しかったりしない?
私は行く前のワクワクが好き。

若い頃はるるぶを見たりして計画を練ったり、何しよう?どこ行こう?って考える時間も楽しかった。
旅もそこから始まってる気がしてね。
…というほど旅行に行ったことはないんだけど…。

文化祭も本番当日も好きだけど、その日を迎えるまでの準備期間が楽しかったりする。

…だから今回の文化祭ネタが伸びに伸びたわけではないんだけど。

今まで私が書いてきたお話はこちら

ようやく今回が文化祭当日。
文化祭の話がようやく書ける。
私が書きたかった文化祭の話。
この企画が始まった当初から思い描いてきた文化祭の話。

こちらのお話は妄想物語となり、登場人物は、それぞれの方をモチーフにしていますが、あくまでも妄想上の人物像ですので、勝手にキャラを作っています。
間違ってもそういうイメージで見ないようにしてくださいね。

【すっぱいチェリーたち🍒〜文化祭編5〜】
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いよいよ田梨木高校の文化祭『たりん祭』当日を迎えた。

うちの学校の文化祭は2日間行われる。

その1日目に出し物として、うちのクラスは演劇が披露される。

他のクラスではダンスを踊ったり、同じように演劇をするところもあった。

私たちのクラスは、出番が5番目。


「ねえ。盛男見なかった?」

「あっちにゴリラっぽいのいたけど…」

「いや、アレはゴリラの着ぐるみ来てた呼び子だよ」

「誰か宇利くん知らない?」

「見てないなぁ」

「朝は見たよ」

「どこ行ったんだろ」

主役ハイジ役の宇利盛男の姿が朝から見えず、クラスみんなで宇利盛男を探し回っていた。

1つ、2つと演目が終わっていき、私たちの出番が近づいてきた。

宇利盛男以外の出番がある人たちはみな衣装に着替えてメイクもした。

「宇利、保健室にいるみたいやでー」
誰かが叫んだ。

「保健室?」

みんなで保健室に向かった。

ガラガラガラ。

保健室のドアを開けると保健の茶保先生がいつものようにいた。

「宇利くん?いるよ」

「宇利、大丈夫か?」

「宇利、どうした?」

「お腹痛いのか?」

「心が痛いのか?」

「誰に振られた?」

宇利盛男と仲のいい阿久と保志田と小郷とヨメンを中心にクラスメイトが口々に声をかける。

「うり、お腹ぴちぴちやねん」
茶保先生がみんなに言う。

「先生…みんなに言わなくても…女子もおるのに…。いてててて…」
カーテンを開けながらベッドの上で横になっていた宇利盛男が弱々しく言った。

「しゃーないやん。ホンマのことやし」

「宇利出られへんの?」

「ごめん…お腹に力入れられへんねん」

「え?もうすぐ俺らの出番なんやけど…ムリか?」

「今ようやくトイレから出て落ち着いてきたところやねん。舞台には出られへんかもなぁ」
茶保先生が答えた。

「えー。どうする?」

「どうしよう」

「え?劇なし?」

「えーあんなに練習したのに?」

「えーっ頑張って衣装作ったのに…」

「宇利がこんな状態じゃあなぁ…」

みんな口々に色んなことを言う。

「宇利くん、これ飲んで」
茶保先生が錠剤の薬を渡した。

宇利盛男が口に入れた。
その時だった。

「節子〜!何舐めとるんや!それおはじきやろ。ドロップちゃうやんか!」

隣のベッドのカーテンが開き、垣野先生が現れた。

「おはじきちゃうし。ドロップでもないし。火垂るの墓やってる場合ちゃうし…。あかん。ツッコミ出来へんわ」
宇利盛男のツッコミはいつもよりキレが悪かった。

「垣野先生、こんなところで何してるんですか?」

「何してるってベッドがあったら寝るでしょ」

「垣野先生も具合悪いんですか?」

「具合が悪くないと寝たらダメなの?」
と言いながら髪を直し、ベッドから降りる垣野先生。

「私はね、二度寝、うたた寝、お昼寝が大好きなの。寝るために生きてるようなもんだからね」

…寝るために生きてる?
深いのか深くないのかさっぱりわからない私は他の生徒たちの後ろの方で首を捻っていた。

しかも今日は文化祭だぞ。
文化祭の日に保健室のベッドで寝るか?

まぁ、矢田なぎこのように文化祭が苦手な人もいるからな…。
と、変に納得する。

「この薬飲んでもすぐに効くわけじゃないからね」
茶保先生が宇利盛男から飲んだ薬のゴミを受け取りながら言った。

「えー、どうする?」

「もう開演まで時間ないよ」

「あと何分?」

「10分くらいかな?」

「もうムリだよね」

「諦めようか」

みんなが諦めムードになる中
「誰か宇利の代わりできないの?」
と誰かが言った。

「え?宇利の代わり?」

「ハイジを?」

「ムリっしょ。ハイジのセリフめちゃくちゃ多いし」

「だよねー」

「誰かいないのー?」

「セリフ全部入ってるやつ!」

「いるわけないだろ」

「えー、どうする?今からカンペ作ってそれ見ながらやる?」

「いやいや、ムリだろ」

「時間なさすぎ」

「私自分のセリフで精一杯だよ」

「俺だって自分のシーンだけしかわかんねーよ」

「一通り覚えてるやついないか?」


こ、これって…。
ヤバイ。
ドキドキしてきた。
私は台本を書いた本人だし、演出兼監督もやっていて、ひと通りみんなのセリフは入っている。

…え?
これって…。
ついに、私があのセリフを言う時がきたの?
ど、どうしよう…。
まさか、私の人生であのセリフを言う時が来るなんて…。

「私セリフ全部入ってます!」


え?
私じゃない。 

この声は…。

地声なのか、裏声なのか判別できないあの声…。

「垣野先生!」

みんなが言った。

「なーるほどね。みんなの気持ちはよ〜くわかったわ」

「え?」

「大丈夫よ。私がハイジをやるから」

「え?ハイジのセリフ覚えてるんですか?」

「私、壽賀美の台本一緒に直したのよ」

「いや、けど…」

「それに、私みんなの練習見てたし。それより時間がないんでしょ?」

そう言うと宇利盛男から衣装を受け取り、カーテンを閉めて着替え始めた。

「なんだかケモノ臭がするわねぇ」

「いや…誰がゴリラやねん…」
弱々しい声でツッコむ宇利盛男。

そして、垣野先生は、メイクをしながら台本を読み返した。

ひと通り読み終わると
「さあ、行くわよ」
と言って颯爽と歩き出した。


出番ギリギリに舞台袖に着く。

私も自分の持ち場に着く。

体育館の席はたくさんのお客さんがいた。

最前列には白い着物を着てビシッと決めている女性がいた。
そしてその周りには黒いスーツを着た強面の男性たちが数名いた。

あれは、大門寺ナナコの…?と思ったけど、今は劇に集中しなくてはいけない。


舞台の幕が上がった。

垣野先生は1度もみんなと劇の練習をしていないのに、みんなのセリフ、呼吸、間を完璧に覚えていて、完璧なハイジを演じてくれた。

私は矢田なぎこと反対側のギャラリーにあるスポットライトの位置からライトを当て、垣野先生の演技力の高さに驚いていた。

垣野先生の演技に引っ張られて、みんなの演技も練習の時とは比べ物にならないほど上手くなってる。

凄すぎる。
垣野先生のパワーが人にパワーを与えているかのようだった。

誰かがとちってもアドリブで上手く切り抜ける。
そしてそれが笑いに変わる。

表舞台で輝く人って、こういう人のことを言うんだ…。
そう思った。

ラストの殺陣のシーンもタップダンスのシーンも見事に演りきった垣野先生。

私たちの劇は無事終えることができた。
…いや、大成功したと言える。

クラス全員が宇利盛男のいる保健室に集まった。

「宇利〜大丈夫かぁ?」
「宇利くん、大丈夫?」

「あぁ。薬がだんだん効いてきたみたいでだいぶ落ち着いてきたわ。それよりどないやった?」

「無事乗り切ったよ〜」
「俺めっちゃ笑い取れたでぇ」
「なんかいつもよりやりやすかったわ」

「なんや、俺いない方が良かったんか?」
「そんなことないよー」
「ないよねー」
「いや、棒読みやねん」

「垣野先生、僕の代わりにありがとうございます」

「え?は?あなたのためにやったわけじゃないわよ」

「あ、もちろんですぅ。クラスのために、ありがとうございますぅ」

「は?クラスのため?それも違うわね」

「え?そうなんですか?ほな、なんでやってくださったんですか?」

「え?それ、答えなきゃダメ?」

「いや、ダメってことはないですけど…」

「いいじゃないの。無事終わったんだし」

「あぁ。まぁ、そうですけどぉ…」

「それよりあなたは明日のバンドには出られるように早く治さないとね」

「あ、そうですねぇ。明日は絶対出たいので直しますぅ」

「まぁ、いざとなったら私、ギターなら出来るわよ」

「え?もしかしてまた俺の代わりに出ようとしてます?」

「まさか…」
垣野先生はニヤッと笑った。

「垣野先生〜」
由木先生が保健室にやってきた。

「めっちゃ良かったよぉ〜」

「そう?」

「垣野先生、楽しかった〜?」

「楽しかったってもんじゃないわよ」

「そうなの?」

「カ・イ・カ・ン💖」

「ギャハハ。いいねぇ。次は私も生徒と一緒に何かやるわ〜。私も快感を味わってみる〜!」

「今日はもうやり切った感が強いわね。茶保先生、一杯くださる?」

「私も飲む〜」

「しゃーないなぁ」

え?ここで?
え?まさか?
飲むの?
学校で?
昼間っから?

そう思っていたら奥にある冷蔵庫からミックスジュースをコップに注ぎ、赤い着物を着た茶保先生が垣野先生と由木先生に渡した。

着物といっても振り袖とかではない。
その姿は、笑点の山田くん。
あっちの着物だ。

「茶保くん、例のもの、持ってきて。じゃないのよ!」

「ほんまはメイドの格好したかったんやけど、こっちの方がウケるかと思って」

「ギャハハハ」
由木先生にはツボだったらしい。

「メイド喫茶もいいけど、来年は笑点喫茶もいいかもなぁ」
と誰かが言った。

「整いました〜」
「ミックスジュースとかけまして〜」
垣野先生が突然謎かけを始めた。

「ミックスジュースとかけまして〜」
みんなで復唱した。

「宇利盛男の恋と解く〜」

「宇利盛男の恋と解く〜」

「え?なになに?怖いんやけど」
宇利盛男が小さな声で言った。

全員で
「その心は〜」


「しっかり振った方がいいでしょう」

「上手い!座布団1枚!」

「座布団はいいから柿ピー持ってきて〜」
と垣野先生。

「いやいや、なんで振られる前提やねん。しかもしっかりってどういうことやねん」

「だってねぇ。しっかり振ってあげないと、勘違いして、2度3度と告白しちゃうかもしれないからねぇ」
と、垣野先生は意味ありげに茶保先生の方を見た。

宇利盛男は、ことあるごとに茶保先生に相談していたからきっと宇利盛男の恋事情は、垣野先生にも筒抜けだったのだろう。

「いや、純粋な男子高校生の恋心をもて遊ばんでくださいよぉ〜」

「じゃあ、特別にみんなにもミックスジュース、振る舞ったるわ」
と言って茶保先生がみんなに缶のミックスジュースを配ってくれた。

「みなさん、しっかり振ってくださいねぇ」
と垣野先生が言うと、女子全員が

「宇利くん、ごめんなさい」
と声を揃えて言った。

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ〜。なんで女子全員に振られなあかんのですか?」

「ジュース。ミックスジュースをよく振ってってことやから!」

「宇利、ごめんなさい」
男子まで声を揃えて言った。

「なんで男子にまで振られんねん」

こうして文化祭1日目は終了した。


私は保健室の隅でみんなの笑顔とやり取りを見て満たされた気持ちになった。

そして、ミックスジュースを飲んでいるのに、垣野先生のほっぺがほんのり赤くなっていき、時々目を閉じて、唇を前に突き出していたのは、なぜだろう?と不思議に思っていたが、その真相はわからないままだった。


〈続く…かもしれないしやめるかもしれない〉

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文化祭2日目と後夜祭の話を考えてたけど、書くか迷い中。


出演者
宇利盛男…うりもさん
由木肉子先生…ゆきママさん
垣野先生…書きのたね@ブルボンヌさん
茶保先生…ちゃぼはちさん
大門寺ナナコ…だいなさん
矢田なぎこ…やなぎだけいこさん
橋田壽賀美…ららみぃたん


最後までお読みいただきありがとうございます😊

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