掌編: サクラマウアプリ
珍しく、うちのマンションに来客があった。
飼い主のタツジュンが同僚を連れて帰ってきたのを僕はケージの中から見ていた。
男は若くタツジュンより少し背が低い。マッシュヘアと細身の体型がタレントのようだ。
「マッチングアプリで知り合った彼女が北海道にいるんですよ。ところがメッセージするたびに課金になって」男は話し始めた。
タツジュンは腕を組み「へぇ」
興味を示すが、何も理解していない様子。
「LINEやZoomで交流できないの?」と質問しても男は首を振る。
「アプリに課金していたら交通費が貯まらないですね」男は深刻な表情で続ける。
「辰巳さん、どうしたら彼女がLINEを教えてくれますかね? オレ、怪しく感じるんですかね?」言葉に反応し、タツジュンは何かを悟ったように頬を掻く。
男は彼女と必死に繋がりを求める姿が見える。
僕は
「それってサクラじゃん。長距離恋愛販売中」と思いながら、退屈凌ぎに滑車を回した。
男の真剣な表情とタツジュンの無邪気さが対照的で、なんだか滑稽だ。
男は本当に彼女を愛しているのか、それとも幻想なのか。
こんなのを考えながら僕はさらに滑車を回し続けた。
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#たらはかにさん