慣れた密室
そこはどこを見ても白い部屋。真上には窓がるけれどそこから見えるのは空だけ。
部屋には白い机、白い椅子、電灯、白いベッド、白いウォターサーバー、白いゴミ箱、食事の配給用の扉、そして机の上には「朝 7時、昼 13時、夜 19時」と書かれた紙、白い扉があった。扉の先には風呂場と個室のトイレがあった。
後に、机の上にあった紙は食事の時間だとわかった。
いつの日か独り言で本が読みたいと言ったら、その日の夕食の時に一緒に本が置かれていた。
それから何度かあれが欲しい、これ欲しいと言ってみたら大体のものは与えてくれた。
しかし、刃物など危険なものやテレビ、携帯などや外界の情報が分かるもの、外界と繋がれるものはいくら待っても貰えなかった。
そして、その中でもう必要ではないと判断されたものはいつの間にか無くなっていた。掃除も同様だ。人が生活していたらどこかしらにゴミは出てくるはず。だが、ここはいつ見ても綺麗だ。
色々な仮説は立てたが、結局いつ、誰がこの部屋に入ってきているのかは分からなかった。
“ここに来てどれくらいたっただろうか…?
数ヶ月…?いや、1年かもしれない。”
いつの日からか日付は数えなくなっていた。
最初はどうにかここを出ようと試みたが、今ではこの生活に慣れ、前よりも今の暮らしの方がいいとも思うようになってしまっていた。
毎日行きたくもない会社に行き、家に帰っても一人。やりたいことも出来ない生活。
そんな生活より今の方が断然楽だ。
ある日の朝ケーキとプレゼント、そしてメッセージカードが置かれていた。
“なぜこんなものが置いてあるのだろう?”
そんな疑問に答えるようにメッセージカードにはこう書いてあった。
「初めまして。私と交流するのはこれが初になりますね。今日あなたに贈ったケーキはあなたの誕生日、そしてここに来て1年のお祝いようです。プレゼントはあなたが好きそうなものを選んでみたので気に入っていただければ幸いです。」
“そうか…そうだったんだ……1年…もう、そんなに経つのか……”
プレゼントを開けてみるとそこには羊皮紙、羽根ペン、インクが入っていた。
“私が好きそうなもの…か……”
そのプレゼントは私が好きそうなものに怖いくらいあたっていた。
私は机に向かい、まだ新品の匂いのする羊皮紙、羽根ペン、インクを使い、手紙を書いた。
その時、ある考えが私の頭の中をよぎった。来年、再来年、ずっとその先もこの日をここで迎えるのだと。