蓬莱の妃　１章２節　《水の章》　§4

登場人物

　宮内　咲夜（みやうち　さくや）：宮内家の次女。帝都東京大学出身で都内私立大学にて薬学研究の分野で大学院生をしながら個人企業の実質的代表者及び魔法使い研究SNSカンパニー『ウィッチ　ド　ブリュー』代表者。容貌は姉とは双子ながらも正反対の可愛らしさのある女性だが、言葉遣いに関して（特に姉に対して）は激辛でその他の人に対しては本人から壁を作っている節もある。彼女も姉と同様に能力者であり『仲介者』として活動もする事もある。

　黒田　光流（くろだ　みつる）：姉妹の名付け親であり二人の世話人。二人の世話以外にも地元の観光協会認定のトレッキングコンシェルジュ。父親の影響で発掘調査や古文書解読も。一応能力者であるが未開発。

　黒田　紗夜子（くろだ　さやこ）：黒田光流の妻、と言うより主。富士吉田市内にてランジェリーデザイン＆販売会社「アンジェロ・クローゼ」を経営。１男１女の母親。宮内姉妹にとっては「お酒の師匠」の一人にあたる。因みに未だに夫さんにラブラブ。

　矢作　夏美（やはぎ　なつみ）：輝夜のモデルとして先輩であり「お酒の師匠」の一人である。モデルとしては日本国内でトップクラスの人気者。輝夜のモデル仕事は大抵彼女からの依頼によるもの。趣味は旅行と地酒巡りで輝夜と（と言うより黒田と）出会う迄は専らバイクでの旅行しかしなかったが、黒田から電車での旅行の話を聴いて（洗脳され）すっかり電車での旅行にもズッポリハマっている最中。故に黒田の事を『ししょー』と呼んでいる。

　春原　芽（すのはら　めい）：輝夜のモデルとして若干後輩であり友人。趣味はソロキャン、スピ巡り、遺跡巡り。彼女も黒田から影響され乗り鉄と言う趣味に目醒めた。公には隠しているが元々密教系の「能力者」でもあり、日々の鍛錬の一連という事で時折輝夜とフィジカルトレーニングをする事も有る。術式の能力をさることながら格闘センスは能力者としてトップクラスとの事（輝夜談）。後日、輝夜の「付き人兼世話役」の一人として過ごすことになる。

　エバレスティーヌ　早津妃（えばれすてぃーぬ　さつき）：東京都内にて「ル・アトリエーヌ・ヴィーネ（株）」と言うモデル事務所・イベント企画の会社を経営。亞人と人間のハーフであり「能力者」認定者。この事務所には矢作夏美と妹である祐希（ゆき）が所属。黒田紗夜子とは大学で知り合い、それ以来の友人であり呑み友。矢作夏美の「お酒の師匠」でもある。現在６歳の男の子のシングルマザーで、その息子をとにかく溺愛をしている。

§4 昨日より姦しいリビングになってます【黒田語り】

《黒田は今日の此処に来られる方々への準備と此処の自家用車の緊急整備をする為の支度をしていたが、TVから流れていたのが考えもしなかった事だった。》

　私は車屋さんにこの家の自家用車を引き渡しをした後、今日この家に来られる方がいらっしゃるので、その車を止める為の場所である駐車スペース周りがだいぶ散らばっていましたから軽く枯葉を幾分かかき集めたりしてました。

　恥ずかしくない程度に片付けていた内に端末を確認するとどうやら１０時を過ぎていたようです。
　流石にこの時間ぐらいには妻も起き上がって戴かないといけないのかなと思いましたので、家に上がり部屋まで起こしに行こうとしていましたら、妻は既にリビングで風呂上がりに輝夜お嬢様が普段着にしているロングＴシャツを羽織って、リビングのソファに座りながら水が入っていたボトルを飲んでいる様子でしたが、どうも彼女の表情がおかしいのです。
　普段テレビを観るような習慣がない妻がテレビモニターを凝視してボトルを持っていた右手が口元に持ったまま固まっていた。私は若干起きたことに安堵しながらも軽い気持ちで声をかけてしまった。

　「あっ、漸く起きましたか。・・・でテレビを観てどうしましたか？久し振りにテレビを拝見してカルチャーショックな事にでも遭っているのですか？」

　とちょっとからかい半分の台詞に対して、妻はボトルも持っていた手をワナワナ震えて声を上擦らせて言いました。

　「・・・みー君。冗談言っている場合じゃないのよ。とにかくテレビを観て。そんで、良ければとっても怖くて震えている私にどうか震えが止まるような気の利いた台詞を言って欲しいの。」

　妻からこういう台詞を殆ど言わないので、それだけ只事ではない事がテレビモニターに映っているのかなと思い観たら・・・愕然としました。

　映像は現場の上空を飛んでいたドローンからのもので、モニターから聴こえた音に車両からだと思うが単発的な爆発をしている音が聞こえており、現場で報道しているアナウンサーからは若干の興奮気味な口調ではあったが、情報を冷静にかつ正確に伝えようとする為に甲高い声を必死に上擦らないようにしている感じがしました。

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（テレビからの情報）

　『この映像は埼玉県にある東北自動車道羽川インターチェンジ上空から無人ドローンで撮っております。
　なるべく近くに寄っている為時折画像が爆発にて生じる乱気流で画像等揺れてしまいますのでその点ご了承ください。

　現地管轄の埼玉道路整備局からの報告によりますと、今日の午前９時２０分頃東北自動車道羽川インター入り口から本線を跨ぐ為の連絡橋が全く何も前兆も無く突然コンクリートが崩れ去ってしまったとの連絡がありました。

　その際その上を通っていた５台の車と本線を走っていた１０トントラック並びに乗用車１０台近くがその事態に巻き込まれ、更にそれらに反応できなかった上下線の車約３０台が玉突き衝突がおきてしまいました。

　私自身もこんな凄惨な交通事故という物は今まで画面上でも実際にも見た事が有りません。それだけ交通事故という物が私達にとって過去の遺物になっているという極めて安全な管理されている下で道路運営という物が為されてきましたが、本日私達はそういう考え方を改め直さねばならないかも知れません。

　今も私達が放送している場所からでも爆発音が未だに聴こえておりまして、先程ドローンから撮影できた映像の中に犠牲になった車の中の様子が確認できました。
　ただ残念ながら既に運転されていた方等だけではなくフレーム自体が溶けているのを確認をしてそれだけ凄惨な状況を直視する事になってしまいました。

　現在も所々爆発しているという状況で推移しており、現場に向かって救助するにも近寄る事が出来ておりません。
　それでも上空と地上からドローン消火機３０機と地上から消防車２０台が必死に消火活動をしておりますが依然としてその爆発中心地まで上からも下からも行くことが出来ません。
　既に上空で作業していたドローン消火機が６台ほど爆発に巻き込まれて落下しているとの情報が入っております。

　この羽川インターの近くには羽川水辺公園と【さいたまアクアトロープ】という普段から人が多い場所がありまして、そちらへの影響が考えられてはおりましたが、公園内の関係者によると先程までその敷地内に居られた方々への避難等は既に完了したとの事です。
　幸い爆発等によって怪我人等は居なかったという報告がこちらの方でも確認する事が出来ました。
　
　今回の事故に巻き込まれた方々の人数は、※１ＰＯＳＥＳ計測によると合計約７０人との事。何れの方々の救助自体全く出来ない状況が続いており存命に関しては絶望視されております。

※１　ＰＯＳＥＳ：管理者への揶揄を込めて『possession』（所持）と言われているが、正式には『Position of Sectors』という地域ごとの車輌状況の自動運転や渋滞緩和を管理する為の規定・基準のこと。自動運転システムは低軌道衛生と量子通信を使ってこのＰＯＳＥＳデータを『利用』しながら運用しているという事。大昔にあったＶＩＣＳという機能が一部継承されており、あくまでもシステム自体は車に搭載・適用されている物によって違いが出てくる。
　因みに、宮内家は特殊仕様の為自動的に常にアップグレードできる訳では無い。それ故自動運転範囲で誤作動が出たという話が後に発覚した。

　現在も画面からは黒煙や爆発による炎が続いておりますが、地上の高速消防隊及び埼玉県・群馬県の消防隊の方々が懸命に消火活動を行なっております。

　現在、この現場近くの幹線道路は現場を中心に半径２キロ程度を目安に封鎖されておりますので、この近くを通られる方には迂回するよう規制されておりますので交通整備に従うよう協力をお願いいたします。あと現場近くにお住まいの方々は既に行政からの緊急避難放送が流れておりますので速やかに避難の程よろしくお願い致します。

　詳しい避難場所等の案内は緊急放送内にて指示されておりますのでご参考をお願いします。・・・』

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