蓬莱の妃 2章2節 《火の章》 §2
登場人物
手嶋 晴(てじま はれ):手嶋屋HLD代表取締役社長であり江戸時代から続いている手嶋屋酒蔵の後継者。非公認の宮内輝夜のファンクラブ会長でありモデル業界でもタニマチ的存在で、輝夜が撮影で都内等に来る際には必ず差し入れをしてあくまでも「影から見守っている」ようなスタンスでいる。
公では極めて「切れ者」として恐恐れられているが輝夜に関しては超甘々な態度しかとれない女性。現在未婚で容姿は若干ふくよかであるけど美人なので常に結婚相手を紹介される。しかし輝夜が居れば問題ないので結婚に関しては全く考えていない。
ウェンディ・E・鍋島(Wendi Eudiuro Nabejima):日本共和国佐賀県生まれ。現佐賀県副知事兼九州圏理事である鍋島誠二の子。亞人3、人間1の割合の亜人種であり母は故人ローリー・コーデュロという純粋種の亞人。
産まれた時には性別が無性別だったので量子役所に届けたのが母親が女性名として付けた《ウェンディ》となっている。母親が亡くなった時父親から改名を勧められたのだが、『母の想いを一生持ち続けたいので改名はしない』と言ったので、男性性が発現している現在も女性名になっている。
学生時代は圏内でトップの高等学校をエリート枠にて卒業してそのまま同校の大学課程に入学。卒業後は城戸正三のスカウトによって警視庁に入庁。現在に至る。
成瀬 美久(なるせ みく):今回の捜査に同行していたまだ新卒で入庁2年目の能力者であり仲介者。『ハーフさん』同士の子供。仲介者資格は入庁前に取得をしている。対人攻撃能力は劣るものの捜査に関する能力に関しては庁内において指折りの人間となっている。
鍋島の班に入ったのは鍋島の《引き抜き》によって入った。後々の話でUPRJのアイザックと共闘した事によってアイザックから彼のユニーク能力を習得する事が出来た。その際にアイザックの婚約者と意気投合して呑み友になり、後に庁を辞めて隣県である神奈川県横浜市内のフリーエージェント会社に入社。更に後に【てる】のガード役、サポート役、呑み友として度々登場、と言う名の弄られ役をされる。
エバレスティーヌ 早津妃(えばれすてぃーぬ さつき):東京都内にて「ル・アトリエーヌ・ヴィーネ(株)」と言うモデル事務所・イベント企画の会社を経営。亞人と人間のハーフであり「能力者」認定者。この事務所には矢作夏美と妹である祐希(ゆき)が所属。黒田紗夜子とは大学で知り合い、それ以来の友人であり呑み友。矢作夏美の「お酒の師匠」でもある。
§2 華麗なる脱走劇?【午後1時前 手嶋晴、鍋島語り】
《晴は神田にある自社ビル内にて午前10時から『とある秘密会合』を行なっていたが、10時半過ぎ警視庁の査察が入り午後から本庁にて聴取を行うことになっていた。》
(警視庁に向かっている車内にて 手嶋晴視点)
表立って動いて無かったとは言え、いつかはこんな日が来るのかなとは思っていました。けれど、そのきっかけになってしまったのが昨日の埼玉でのテロ行為とは。
その実行者の関係者が今日の会合の参加者の中にいたと言う事らしいのですけど、ほんと今日の会合について誰がリークしたのでしょうかね。
その人間は《帝》側の人間でしょうか、それとも『全く別』の人間でしょうか・・・まぁ今日参加している方で2、3人の方は向こう側から何かしら《貰っている》と言うのは一応調べはついておりますけど。
でもね、今私が乗っている車が車輌の列で一番後ろに居ると言う点が何か気になるのです。しかも同乗しているのが今回の捜査の責任者さんである鍋島さんと言うのが。私が今回の会議の責任者と言う訳なのかしら、それとも全く別の理由が有るのでしょうか。
でも私ってこの会合ではまだ『下っ端』の存在だから、鍋島さんという方がリーダーだとしたら敢えて付けるとしたら『あの方』に付くのが道理かなと思うのです。
多分車内でも色々訊かれるかと思いますけど、元々私って他人とお話しするのってとっても苦手なのです。
仕事という事なら男女問わず誰にでも分け隔て無くお話しをしておりますが、こんなシチュエーションで変なことを言わないで済むのかどうか今から不安になっております。
私のそういう不安を知ってか知らないのか判りませんが鍋島さんが話かけてきました。
「手嶋会長、妙な事になってしまいましてお気の毒様としか言えません。ただあくまでも私個人としてですけど、以前から会長が『とある勢力』に対しての活動を為されている事は既に調べがついております。一応この話しはほんの一部の人間しか知らない事になりますが。」
「・・・あっ、左様ですか。ならば今日の会合に訪れた事にこんなに仰々しくしなくてもよろしかったのでは?」
「いいえ、必要が有ったからこそこんな大掛かりな調査にしたのです。何しろ前からターゲットにしている人間が今日の会合に参加しているとの事だったので。
・・・話しをするのはこの辺でやめておきましょう。会長これからちょっといた【イベント】が行われますのでなるべく背を低くして下さい。」
「え、え、どういう事でしょうか?」
「説明しなくても判りますので。」
と私達を連行している車列が二重橋付近の交差点に差し掛かってしようとしていた時、この交差点を東京駅方面に明らかに無理な速さで右折しようとしていた大型トラックが案の定右折途中私たちの車列の前で横転してしまいました。
自動運転をされているトラックが横転する事なんてあり得ない事故と思っていましたが、今は昨日の事件によって車両運行がパーシャルでの遠隔操作だから事故の可能性も有ると朝方うちの秘書が言ってたのを思い出しました。
それに対して、隊列を組んでいた警視庁の車は一斉に急停車して衝突を無事回避出来ましたのでトラックにぶつからずに済みました。
私は右側に思いっきり揺さぶられましたが、シートベルトをしていた事と鍋島さんが庇っていたので何事も有りませんでした。ただ鍋島さんはちょっとキツそうな表情をしておりましたけど。
でもトラックの後ろに居たと思われた車がトラックにぶつかってしまい大きな衝突音が聴こえて、何処から発生しているのか判りませんが《白い煙》がトラックの周り10Mぐらいの範囲をあっという間に覆ってしまいました。
「ち、ちょっと刑事さん。だ、大丈夫ですか?」
「・・・まぁ、ちょっとばかり大きくなってしまいましたけど一応予定通りです。」
すると今度は白煙の中から色々な色のフルフェイスのマスクを着けている6人ぐらいの人たちがこの車列を襲撃して来ました。
「・・・えーと、刑事さん。今度はマスクマンの方々に襲われておりますね。何となくですが全員能力者の方ですよね。何故この車列を襲って来たのでしょうか?・・・いゃぁもう私には理解不能です。」
「・・・んー、私も此処までの事は要求しては居なかったのですけどね。でも会長、今はとにかく動かないでください。車からも出ないように。宜しいでしょうか?」
「は、はい、出ませんわ。とても恐ろしくて此処から出ようとなんて思いません。」
と私が言った途端、運転をしていた方と鍋島さんは車から出てしまいマスクマン集団に向かって行くと、爆発や雷光みたいな物があっちこっちに発生しているようなサイキックな戦いが始まってしまいました。
私が鍋島さんが駆け出した方を見るとマスクマン集団の方が更に7人程増えて刑事さん達とマスクマン達と数的に均衡の状態になっておりました。
私はその様子をあわあわしながら見ておりましたら、戦っている場所とは別の場所からこの車輌に向けて、遠目から見ても判るぐらいのよく知っている人が小走りに向かって来ました。
その人は身体全体を黒のラバースーツに覆い、黒のロングブーツを履いておりまして金色の綺麗にブローがかかっていたロングヘアを優雅にたなびかせておりました。その方とは私が定期的に銀座のバーでお会いしており、昨日富士吉田の輝夜さんのお宅でもお会いした美魔女さんでした。
その彼女は私が乗っている車輌に近づいたので私は車の窓を開けて窓から手を伸ばすと、普段銀座のバーでお会いしている時と同じような屈託の無い微笑みを浮かべながら声をかけて来ました。
「晴さん、お怪我は無い? だいぶ荒っぽいお迎えになってしまいましたけど。」
「あらあら早津妃さん、なかなかセクシーな装いでのお迎えですわね。もしかしたら私のお迎えに来たのでしょうか?」
「そうですわ。こんな事って滅多に出来る事じゃ無いから今回は非常に気合を入れた服装にしてみましたわ。
でもね、ちーとばかりお腹付近の出っ張りがね・・・ぃゃ今はここでお喋りをしている時間は無いので早く車から出て下さいな。」
「え、で、でも今私達は本庁まで連行中ですから、私が此処で車から無断に出ると逃亡犯になってしまいますわ。刑事さんもとにかく動かないでくれと言われたものですから。」
「いえいえ、ご自身で車から出ても晴さんには問題は有りませんわ。何せ形式上これから晴さんは誘拐される事となっておりますから。それにその刑事さんって鍋島さんでしょ。それなら了承済みなので大丈夫よ。」
「だからなのね・・・鍋島さんが『予定通り』なんて仰っていた辻妻が通りましたわ。」
「あらま、あっさりバラしてしまったのですね。相変わらずうっかりな刑事さんですわ。
それにしても晴さん、昨日は埼玉でチェリーボーイの催眠術で誘拐させて今日は堂々とバイオレンスな誘拐をされる事になってしまいまして何ともモテモテですわね。」
「モテモテ・・・なのかしら。ならば誘拐をして戴けるならお早めにどうぞ。・・・でも、出来れば誘拐されるなら・・・輝夜さんにされたかったのよね。ぽっ」
「かがやんねぇ・・・昨日誘拐された時にお姫様抱っこされて保護されたのに、覚えてないの?」
今の彼女から出た『輝夜さんにお姫様抱っこ』というセリフに・・・私は思考停止してしまいました。
「え、え、えぇー、わ、わ、私初めてそんな事知りましたわ。お、お、お姫様・・・お姫様抱っこってば・・・私のこの辺に輝夜さんの・・・」
「・・・晴さん、今はそれどころじゃ無くて早く此処から逃げますよ。」
「お、お姫様抱っこ・・・」
完全に思考停止してしまっている私を見て、彼女は車の扉を開けて私の手を取ると素早く私を『お姫様抱っこ』をして、来た車と替えて予め東京駅に向かう道路脇に止めて有った黒い車に向かって行きました。
ここから先は
蓬莱の妃 2章2節《火の章》
富士吉田生まれ育ちの美人姉妹で能力者である宮内輝夜・咲夜姉妹が活躍するファンタジー小説の本編の2章目にあたる《火の章》の2節目の作品でこの…
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?