蓬莱の妃 2章2節 《火の章》 §1
前振り・ご挨拶
いつも来て戴きましてありがとうございます。
今回はこのシリーズ前半戦最後の区切りになりますのでよろしくお願いいたします。
つい先週Kindleにてこの節より先にあたる2.5章を刊行しまして、いまだに何とも言えない感じのまま書き進めてきました。何しろ成果らしいものが何一つもありませんから。
とはいえ、やり始めた事なので最後までやり切ってから今後どうしようと思っている次第です。
という事でこの2章2節は既にKindleにてこちらからお願いします。
あと、noteで既に発表すみのものは以下のリンクからお願いします。
追伸:早速ですが今回1.5万字という長文になっておりますのでご留意を。
2章1節までの話
西暦2325年11月9日、黒田は昨晩本家からの呼び出しでいつもより遅い時間に姉妹の家に到着し、宮内輝夜・咲夜姉妹から二人とも珍しく夢を見たという話しをしていた。
だが、早朝旧社に入った咲夜は昨晩秘密裏に旧社に入っていた東乃遠行が仕掛けた【トラップ】によって病院に緊急入院してしまった。
一方輝夜は本家に入ると祖父の宮内荒太から昨日から大槻の病院にて『原因不明』の症状で続々と入院する事象が発生したのでサポートが来るまでの現場の対処の依頼をされた。
9月から始動し始めた《帝》側からの『鴉』への本格的な攻撃は、この日にとうとう宮内家と姉妹を抹殺すると言う段階に入った。
登場人物
宮内 輝夜(みやうち かがや):富士吉田市の代表的神社の一つである旧社明香神社の宮司をしている宮内家の長女。普段はニート女子をしており、本人が出かけるのはこの地の古代にあったとされる『富士王国文明』の調査・発掘を行う時か、自らの美貌が災いにより(本人談)雑誌等にてファッションモデルで都内に出かける時しか無い。
元々宮内家の血筋として受け継がれているとされる能力により『仲介者』という仕事も行っている。能力において日本でも世界的でもトップクラス。
宮内 荒太(みやうち あらた):宮内姉妹の祖父。前富士明香神社の宮司。現在は地元の相談役みたいな事をしていながらも孫である姉妹の陰陽師としての『教官』をしている。元『仲介者』であり裏組織である【南朝派陰陽師】の一角としてこの国の代表の立場を担っている。
性格は周りに対してどうしても言い方で厳しい事を言いがちな人間と思われている。本人もそんな役回りをしていると自覚している。
酒井:宮内家の男性エージェント。中級レベルの能力者で今回の大槻総合病院の『事件』が初現場。
朝日:宮内家の女性エージェント。中級~上級レベルの能力者で前述した酒井の上司兼教育係にあたる人間。
足利:宮内家の女性エージェント。しかしながら正体は《帝》側からの暗殺諜報員でありツールク族の人間。
榊原 由希子(さかきばら ゆきこ):現職の仲介者で裏との繋がりで在籍をしており様々な事件にも大きく関わっていると思われる。部下に自分専用の運転手、取り巻き(彼女は『狗』と呼んでいる能力者)が4人いる。
性格は非常に傲慢で粗雑で倫理観皆無だが、彼女が『あの方』と呼んでいる人に関しては絶対なる信仰を持っている。佃からは『ゲス女』と呼ばれている。
§1 ウォー・オブ・ホスピタル ラウンド1【正午過ぎ 輝夜、荒太語り】
《宮内輝夜は祖父である宮内荒太と一緒に大槻総合病院に到着し中に入った。すると、明らかに『何かしら』を鎮圧するためのエネルギーが充満していたので、輝夜は東棟を最上階まで登り、荒太は西棟と南棟を1階から上がって行こうとしていた。》
(宮内輝夜 視点 大槻総合病院東棟5階)
11月9日の正午、朝からずっとお空は綺麗に晴れ上がっておりますけど、私の心は天気とは逆に曇天の空模様なのです。何しろこの病院に来るまであんな悪夢を見せられたものですから極めて不愉快なのです。
初めてこの大槻総合病院という場所に来て分かったのが、この病院って3つの建物がくっついている型で建っております。多分何度か改築や増築を繰り返した様な感じですからこんなに不定形な物になった感じかなと。
私は玄関ロビーから左側の方にある東棟に行きまして、エレベーターで5階まで上ってきました。
5階でエレベーターを降りると、想像では病室みたいな部屋がずらっと並んでいるのかなと思っておりました。
エレベーターから降りて右手前に見える両開きの扉が有ったので入ると大きな空間の部屋があるのかなと『スキャン』をかけたら案の定大きな部屋が有りました。
何らかのトレーニングルームなのでしょうか? その部屋に20人ぐらいの《何かしら》が蠢いている感じがします。多分お爺様の話から推測すると昨日から暴れている方々が閉じ込められている、いゃ何とか閉じ込めたと言う感じでした。
何しろ両開きの扉には【鴉】の人間が使っている封印が乱雑に貼られてますから。
それにしても、病院に入っているエージェントさんは一体何処にいるのでしょうか。その方々が《何かしら》に囚われてしまいその部屋の中の化け物の一体になっていない事を願います。
私は両開きの扉がある所に近づいて、この扉の封印を解除する前に私の左腕に【電撃を与える】と言う呪印を右人差し指でサッと切って準備が整えました。
扉の封印を解除して扉を開けた途端、勢いよく私の方に二人ほど向かって来ましたので、早速この二人の背後に回り込んで電撃を仕掛けていた左腕の掌をサッと素早く二人の延髄辺りにスタンガンのように電撃を極めて短時間入れると『ぐぁぁ』と一声上げて前のめりに倒れてしまいました。
今襲ってきた一人はパジャマを着ていたので中年男の入院患者さんでもう一人は看護師さんなのか女性のケアワーカーさんでした。
一昨日のウォーキングデッドさんより『生身』が有る分歯応えは有りましたが、元の身体性能によって強さが違ってきますね。
・・・どうも既に大規模な実験をさせてしまったみたいです。ほんと今回は後手に回ってばかりでストレスがかかるばかりです。
これを仕掛けた人間の目論見として、多分私達が既に死亡しているような物から作ったとされるウォーキングデッドなら外連味も無く倒せると思ったので、《何かしら》の方法で生身の人間をウォーキングデッドにされた場合に対しては多少なり躊躇して攻撃出来ずにいるだろうと言う何とも浅はかな工作でしょうが・・・生憎私は殺さないまでも躊躇は全くしない質なので計算違いかなと思います。
これがうちに入っていた【工作員】が仕掛けたとしたら・・・宮内のエージェントとしては失格です。うちの人間は誰一人こういう時に躊躇する人は居ないので。
部屋の中には平行棒とか簡易階段、でしょうか階段の上り降りの練習の為の器具と言うリハビリ器具がとっ散らかっている状態になってます。多分この人たちがこの部屋内で暴れまくった結果こんな状態になってしまったのでしょう。
今此処にいるデッド化しか患者さんは歩行に難がある方ばかりと思われますから、こちらに向かっている個体も居ますがあまり足を進めるのが遅いという事が幸いしております。
ただ、病院の制服を着ているデッド化した6人の方は健常者ですから突っ込んでくる可能性は有りますけど、突っ込んでくるよう感じでは有りませんが明らかに敵意を示していましたので多少警戒をしながら近づいてきています。
流石に呪印かけてある左手だけでは全員に対して対処出来ないかなと思ったので、申し訳ございませんが右手では普通に殴り倒そうと思います。但し右手にも電気ショック的な物を帯電させて強く殴らなくても効き目があるようにしたので多分あまり拳を痛めずに事を済ませそうです。
結果を言えば、部屋に入ってから1分ぐらいでこの部屋に居たデッド化した方々は全て倒して当分起き上がれない状態にしました。
それを終えてからこのフロアで他の部屋に人間が居るのかをフロア全体に『リサーチ』をかけた所、この部屋の左側の区画に4、5人動けないのか動かないのか解りかねてますが一箇所に固まっているみたいです。
そこ以外の場所には何かしらの人間や化け物の反応が無かったので、入った場所からでは無く、周囲を視認する為に入った場所から奥に見える扉に向かい、この扉にも部屋の外側から呪符が貼ってあるので呪符を解除して扉を開けました。
部屋を出て左側に病院の管理区画と思われる区画壁と区画に入る為の片開き扉が有りましたからその扉から中に入ろうとしましたが、中から電気錠がかかっておりましたので無理矢理解除して中に入りました。
中に入ると左側にはトイレが有り、更にその先には先程の部屋よりも小さめですが比較的に広めの部屋があったので部屋入り口の手前まで進みました。
この部屋の扉には鍵がかかって無かったので特に考えなしに扉を開けると、部屋の中から『ぎゃー』と悲鳴がして来たので私はちょっと慌て気味に、
「すみませぇん、宮内の者ですけど皆様を助けに来ました。」
と我ながらどストレートなセリフを言った時、机の下に隠れていたと思われる4人が何故か両手を挙げて立ち上がりました。
「あ、貴方は宮内の方ですか?」
「そうです。先にうちの人間がこの病院に入っている筈ですけど。」
と言うと、白衣を着ていて私よりちょっと年上そうな女性が窓際のソファ付近を指さして、
「はい、お一人今居ます。それで今向こうのソファに横になっております。
ただ幾分か怪我をされていまして私どもで止血と痛み止めはしておりますが、止血をしただけですから容体が良くなっている訳では無いので。」
と言ったので、その方向を見るとそこには茶色のソファが有り、そこに本家のエージェントさんらしい方が頭と腹にガーゼなどでぐるぐる巻きにされて横たわっていました。
話を伺いたい所ですが、先ずはこのエージェントさんを助けないといけないのでその方の所に向かうと、その人は苦しい呼吸をしながらまだ何とか自己を保っている感じでしたので早速治癒術式を展開させました。
いつも肩に掛けているカバンから無地の呪符を取り出して治癒呪術の文様を書き写し、その方の胸辺りにその呪符を貼り付けて術を唱えると呼吸が楽になって来ました。どうやら傷口が塞がったみたいです。
正直治癒系の呪法はあまり普段から使用していないので若干苦手意識が有ります。ですから術が効いているのか気にはなりますけど、この方の呼吸や顔の表情を見ると大丈夫かなと思います。
とは言え、この《病院ステージ》はさっき一つ熟しただけなのでまだまだ気を緩める訳にはいきません。
何しろこの後下の階に行き、先程の様に暴れる方を諫めないといけませんから。でもその前に此処にいる方と出来れば横たわっているエージェントさんからもお話を訊いた上で今の状況を把握しておかないといけませんね。
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蓬莱の妃 2章2節《火の章》
富士吉田生まれ育ちの美人姉妹で能力者である宮内輝夜・咲夜姉妹が活躍するファンタジー小説の本編の2章目にあたる《火の章》の2節目の作品でこの…
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