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蓬莱の妃 2章1節 《火の章》 §9(終わり)




前振り



いつも来て戴き有難うございます。
このセクションにて1節は終わりになります。
次の節になる2節ではいよいよ一旦けりがついてしまいます。
話としては今執筆している3章からが色々な事がわかってきますので、宜しければその先もお付き合いをお願いいたします。

前セクション(§8)は以下のところになります。
では、来月は2節の掲載を予定にしておりますのでよろしくお願い致します。




登場人物



 宮内 咲夜(みやうち さくや):宮内家の次女。帝都東京大学出身で都内私立大学にて薬学研究の分野で大学院生をしながら個人企業の実質的代表者及び魔法使い研究SNSカンパニー『ウィッチ ド ブリュー』代表者。容貌は姉とは双子ながらも正反対の可愛らしさのある女性だが、言葉遣いに関して(特に姉に対して)は激辛でその他の人に対しては本人から壁を作っている節もある。彼女も姉と同様に能力者であり『仲介者』として活動もする事もある。

 黒田 光流(くろだ みつる):姉妹の名付け親であり二人の世話人。二人の世話以外にも地元の観光協会認定のトレッキングコンシェルジュ。父親の影響で発掘調査や古文書解読も。能力者であるが本人の希望で今のところ未開発。その他姉妹や輝夜のモデル仲間からは『鉄分提供者』とか『師匠』と呼ばれている。

 後 清純(あとり せいじゅん):本名不明の30代女性で、元々奈良我真家の領主我真新(後記載)のサポートガーディアンの一人。9月に遭った強襲事件では新を逃した後最後までスタッフの事を守っていた人間で彼女他数人は現在富士吉田の宮内本家にて活動。能力は万能型だが補助と回復がメインの術者であり『仲介者』の資格をもつ。

 室田:元々は奈良我真家に居たエージェントの30代の能力者の女性。

 東乃 遠行(とおの おんぎょう):出生場所、年齢不明の京都在住の修験者。陰陽道に長けているものの性格に難があり、元々所属していた所から追放になってからはフリーで京都特別地域内にて裏仕事を行なっている。【火】の能力者として不完全ながらもトップクラスの能力を持っている。性格は起伏が極めて乏しいが相手に対して煽る傾向がある。

 ガントレット:本名不明。《帝》側から依頼されて宮内家の動向や妨害活動をしているエージェント。世界中で暗躍している【モルガナリアス族】から独立して暗殺稼業などを行っており、彼自身はイデオロギーでは動かず金銭的な事のみで動く信条を持っている人間。

 手嶋 晴(てじま はれ):手嶋屋HLD代表取締役社長であり江戸時代から続いている手嶋屋酒蔵の後継者。非公認の宮内輝夜のファンクラブ会長でありモデル業界でもタニマチ的存在で、輝夜が撮影で都内等に来る際には必ず差し入れをしてあくまでも「影から見守っている」ようなスタンスでいる。公では極めて「切れ者」として恐れられているが輝夜に関しては超甘々な態度しかとれない女性。現在未婚で容姿は若干ふくよかであるけど美人なので常に結婚相手を紹介される。しかし輝夜が居れば問題ないので結婚に関しては全く考えていない。

 ウェンディ・E・鍋島(Wendi Eudiuro Nabejima):日本共和国佐賀県生まれ。現佐賀県副知事兼九州圏理事である鍋島誠二の子。※1亞人3、人間1の割合の亜人種であり母は故人ローリー・コーデュロという純粋種の亞人。産まれた時には性別が無性別だったので量子役所に届けたのが母親が女性名として付けた《ウェンディ》となっている。母親が亡くなった時父親から改名を勧められたのだが、『母の想いを一生持ち続けたいので改名はしない』と言ったので、男性性が発現している現在も女性名になっている。学生時代は圏内でトップの高等学校を※2エリート枠にて卒業してそのまま同校の大学課程に入学。卒業後は※3城戸正三のスカウトによって警視庁に入庁。現在に至る。

※1 亞人と人間との混血割合について:この割合については血液成分の遺伝割合の事を言っているのでは無く、能力における割合の事を指している。

※2 エリート枠:学校によってはこの枠にて上級学校(大学や専科大学、職業大学、上級研究機関等)への入学させる事を許可されている。

※3 城戸氏との繋がり:鍋島の母親が城戸の実験参加者であり、それらを城戸が故人的に保護していたという事による繋がりがある。実はこの鍋島も実験生存者から産まれたという稀有な存在。

 成瀬 美久(なるせ みく):今回の捜査に同行していたまだ新卒で入庁2年目の能力者であり仲介者。『ハーフさん』同士の子供。仲介者資格は入庁前に取得をしている。対人攻撃能力は劣るものの捜査に関する能力に関しては庁内において指折りの人間となっている。鍋島の班に入ったのは鍋島の《引き抜き》によって入った。後々の話でUPRJのアイザックと共闘した事によってアイザックから彼のユニーク能力を習得する事ができ、その際にアイザックの婚約者と意気投合して呑み友になり、後に庁を辞めて隣県である神奈川県横浜市内のフリーエージェント会社に入社。更に後に【てる】のガード役、サポート役、呑み友として度々登場、と言う名の弄られ役をさせられる。

 アルガナ(本名 トゥーラット・アル・モルガナリアス Toratt Al Morganalias):亞人と人間のハーフ。現在高校生の非常勤軍属の子。元『仲介者』佃氏と知り合い。来春高校卒業して、軍属を続けながらも佃氏の会社に就職予定。

 佃 義仁(つくだ よしひと):元『仲介者』、現在はフリーランスの能力者稼業をしている。姉妹とは2年前の事件で(当時は国交省の仲介者)首謀者の一人として敵対をしていたが、その事件を機に退職し元仲介者として活動し始めて定期的に姉妹と一緒に仕事をする様になった。




§9 賽は投げられた【富士吉田市内、都内ほか】



《咲夜が緊急入院の事態になり病室にて様子を伺っている黒田と後は相手の出方を待っていた。
都内の手嶋屋本社では午前中『とある会合』が行われたのだが・・・
更にその会合に出席予定だった佃、一緒に逃亡しているアルガナは予定にしていた場所ではなく別の場所に行くことに。》



(午後1時半過ぎ、富士吉田市内にある中規模の総合病院内)

 久しぶりの変調によって入院する事になってしまった咲夜とこの病院まで連れてきた世話人である黒田、そして本家から来た後が個室から出られなくなっていた。

 黒田は後からこの病院から尚早に出て行くことを言われたものの、彼女が忠告した時には既に病院内に《敵》が侵入しているとの事で30分ほど此処に留まざる得なかった。
 しかしながらいつまで待ってもこの病室にその敵が来るような気配が無かったので黒田は後に訊いた。

 「後さん、もう《敵》は居ないのでは?」

 「う~ん、さっきから気配が無くなっているので敵の方々はどうしたのかなと思ってはいるのですけど。
 とは言えベッドに咲夜様が無防備な状態ですから離れる事が出来ません。今なら黒田さんだけでも外に出てもよろしいかと思い・・・」

 と話をしていた時、入り口の扉をノックする音が有ったので後は警戒しながら入り口に近づくと、

 「お疲れ様です。室田です。」

 と扉の向こうから室田と言う女性の声がしてきて、後はその声を聴いて室田本人だと判断して入り口のドアを開けると室田が部屋に入ってきた。

 室田は身長160cmいかないぐらいで黒髪のショートカットで華奢な感じではなく何らかの格闘技術を持っているような均整のとれた体型をしていた。
 今のところこの女性がどのような能力を持っているのかは不明だが、後と一緒に奈良から逃げて来た一人と言う事で後が信頼している人間の一人だった

 「室田さん、この病院内に【向こう側の人間】が入って来たと察知したけど此処に来るまで遭遇とかしましたか?」

 「いいえ、今さっき此処に来たばかりですけど何も有りませんでしたが、どうなされましたか?」

 「そうですか、室田さんが此処に来た時には居なくなっていたのかも知れませんね。
 ・・・それであなたがわざわざ此処まで来たと言う事は何か有ったのでしょ?」

 「はい、お館様から増援と言う事で後さんも大槻総合病院まで直ぐにでも向かってほしいとの連絡が有りました

 ただ、此処に連絡をしようにも例のごとく電波障害とか建物自体が電波シールド張っているせいで、テレパスを使って通信しようとしても雑音が入ったりして遮断されがちですから、私が直接伺って伝えた方が良いと思いましたので。」

 「有難う。病院内って色々有るから能力使って通信をすると変な事になったりするので迂闊に使えないのがたまに傷なのよね。

 それで黒田さん、私はこれから大槻まで行きますので一緒に病院出るなら外に出るまでなら何かしらのガードは出来ますが、その後は黒田さんの方で出来るだけ身の安全が図れる場所への移動をお願いします。」

 「わかりました。室田さん、お嬢様の事よろしくお願い致します。」

 「はい・・・了解しました。」

 と室田が言うと、後と黒田は病室から出て行ってしまった。

 部屋に残っていた室田は徐にジャケットの内ポケットに忍ばしていた端末を取り出し連絡を取り始めた。

 「ガントレットさん、お疲れ様です。室田です。」

 『室田さんですか、連絡ご苦労さん。・・・で、室田さんは今【火】のお嬢さんの所に居るんですよね。』

 「はい、ちょうど目の前のベッドにてぐっすり眠っています。」

 『それで今連絡して来たと言う事は・・・今は周りに宮内の人間は居ないと言う認識で宜しいかな。』

 「ええ、本家から来ていた後やお嬢さんのお世話役の黒田も居ません。」

 『そうか、それならいつでもそこに寝ているお嬢さんを動かせるようにしてくれ。《例の札》をお嬢さんに貼り付けていれば後は遠行氏でコントロール出来るから。

 あと、室田さんは念の為に俺が渡しておいた【札】を身体の何処かに貼っておいてくれ。万が一そこのお嬢さんが暴走した時の防御になるから。

 それと、あと3人ばかりそこに工作員が居るだろ? その人たちも呼んでおいてくれ。その人間にも室田さんに貼っておくように言った札を貼っておいて欲しい。』

 「ええ、流石に私一人では何が有ったら対応しきれませんから既に今居る建物内に配置しております。指示が有ればこの病院内の【掃除】を済ませてから指示場所まで向かうつもりです。」

 『ふ、段取りいいですね。場所自体は既に決まってます。場所はお嬢さんの家の隣にある旧社まで移動をしてくれ。
 あんたの仕事は旧社まで咲夜を連れて来た時点で終わりだからもう少し・・・と言う事だ。』

 「かしこまりました。」

 と室田が返答した時点でガントレットは端末の通信を切った。

 室田がガントレットの言葉を聴いて深い安堵の表情を浮かべていた頃、ガントレットと室田の会話を聞いていた東乃遠行が口元に笑みを浮かべながら、

 「一応準備万端・・・だな。」

 と言って座っていた席から徐に立ち上がった。

 「遠行さん、あんたらの組織から予めと言う事で持ってきた【札】4枚分を既に室田に渡していたから、俺の方で室田以外の【贄】3人分を用意しておかないといけないなぁと思っていたが。
 ・・・まぁ既に用意していたとは・・・ほんと段取り良い。自分の『後始末』までやってくれるなんて。」

 とガントレットが歪な笑みを浮かべながら言ったので、遠行は自分なりのお茶目な台詞を言ってみたと言う感じで、

 「あんたも俺の【手伝い】をしても良いんだぞ。」

 と言った。ガントレットはその台詞に若干焦った表情をしながら、

 「は、は、俺は遠慮しておきます。さっき言ったようにあんたが此処を出て行った時点で此処から逃げさせて戴きますよ。」

 とガントレットは既に自分の荷物を指差しながら言った。

 「・・・まぁ、あんたとしてはこれ以上関わらない事をあんたの荷物を見ればわかる。
 ・・・で、ガントレット、出来ればもう一杯コーヒーを飲みたいのだが大丈夫か?」

 「ふ、俺もあんたとの別れを察して互いに一杯分のコーヒーぐらいは落としてある。」

 と言って、ガントレットはコーヒーサーバーがある所に二つのマグカップを持って行った。


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既刊している電子書籍が1記事1万字以内程度に収まるように再編集しておりますので空いた時間に読めます。

富士吉田生まれ育ちの美人姉妹で能力者である宮内輝夜・咲夜姉妹が活躍するファンタジー小説の本編の2章目にあたる《火の章》の1節目の作品になり…

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