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ノーベル文学賞受賞者を知るための最良の入門書〜北中正和「ボブ・ディラン」

今、まさにボブ・ディランが来日している。この本「ボブ・ディラン」(新潮新書)は、それに合わせたかのように今年の2月に出版された。著者の北中正和は私にとっては、雑誌「ニューミュージックマガジン」の編集者としての印象が濃い。

2016年にノーベル文学賞を受賞した、ボブ・ディランというアーチストを、私は“それなり“にフォローしてきた。

“それなり“というのは、みうらじゅんのようなディープな関係性は築いていないが、これまでに東京1回、ロンドン1回のコンサート体験はある。ディランとの関係は、このブログでも少しだけ書いている。

ディランの活躍について、過去に遡って確認し、リアルタイムへと追いついた私ですら(同年代の人も含め)、ボブ・ディランの全体感を掴むのは難しい。

なぜならば、ディランの作品ば膨大である。しかも、ディランは“転がる石の如く“、絶えず変化しており、懐かしの一アーチストであることを許してくれない。

コンサートで過去の名曲を演奏するが、大幅にアレンジを変えていることが多く、過去のノスタルジーに浸ることを許さない。

そんな、ボブ・ディランについて知るための、最良の入門書が北中正和著の「ボブ・ディラン」(新潮新書)である。

ディランについて知りたい方は、この本の序章を読んで欲しい。これであらかたは分かる。

同書は、序章で最低限カバーするべきことを記述し、第一章以下で様々な切り口から、ボブ・ディランの魅力を解説しているところである。無理に時系列にしばられることなく、ディランの音楽を構成する様々な要素を解き明かしてくれる。

2009年、ボブ・ディランは「Christmas in the Heart」というクリスマス・アルバムをリリースする。そして、「Tempest」を挟んで、「Shadows in the Night」から始まる3作品は、スタンダード曲のカバー・アルバムであり、3作目の「Triplicate」(三つ組)にいたっては、3枚組となる。

私にとっては嬉しい出来事だったが、「なぜ? ディランがクリスマス・ソングを、さらに“Stardust“などのポピュラー・スタンドを?」という思い(ネガティブではなく)もあった。

本書の第6章『スタンダードの巨人フランク・シナトラとの接点』は、その疑問に対して、一部で酷評されたアルバム「セルフ・ポートレイト」(1970年)と「Shadows〜」以降をつなげて解説してくれる。

第5章『フォークの父ウディ・ガスリーとの出会い』では、ディランとアメリカのルーツ・ミュージックの関係が解き明かされる。その中で、<音楽でアメリカーナというときは、フォーク、カントリー、(中略)、ロックンロールなどアメリカのルーツミュージックの要素がさまざまな濃淡でミックスされた現在進行形のポピュラー音楽を意味します>と書かれている。

ボブ・ディランは、まさにこの“アメリカーナ“を総括するアーチストであり、北中氏の言葉を借りれば<アメリカの音楽史を俯瞰するような仕事>を続けていることがよく分かる。

また、2013年発売の「The Bootleg Series Vol.10: Another Side of Self Portrait」収録の、“When I Paint My Masterpiece“のデモ版のような、私が見つけられていない楽曲の存在を教えてくれたこともありがたい

*読書のお供に、プレイリスト(Apple Music)も作成しました


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