一体“悪“とは何なのか(その1)〜手塚治虫が「バンパイヤ」で描こうといたものは
講談社の「手塚治虫漫画全集」。随分前に電子書籍で全巻を購入し、少しずつ読み進めてきた。全400巻を、原則第1巻から読了していっており、辿り着いた第320巻は「バンパイヤ第4巻」である。「バンパイヤ第1〜3巻」は全集の第142〜144巻に収録されている。
私は再度第1巻から読み通してみた。
「バンパイヤ」の第一部(全集1〜3巻)は、1966〜67年「週刊少年サンデー」に連載された。第二部(全集4巻)は1968〜69年に「少年ブック」に連載されたが、同誌が休刊となり未完となった。私が5〜8歳の頃でリアルタイムでも、その後の単行本でも読んでいなかった。
「バンパイヤ」は1968〜69年テレビドラマ化され、水谷豊が主演した。この番組は印象的なテーマ曲、変身後の姿がアニメ化するというもので、細かい内容は覚えていないが、多少は観ていたはずである。
木曽の山奥の「夜泣き村」、住民は“呪われた家がら“であり、世間から隔絶されている。しかし、ふもとから測量部隊が来ることをきっかけに、住民は村を焼け払い離散することとなる。
「夜泣き村」を抜け出した若者、トッペイは手塚治虫が運営する虫プロを訪れる。アニメーター志願である。しかし、トッペイは“呪われた家がら“であり、月の晩になるとオオカミに返信する“狼男“、オオカミの姿になり戦いを挑んでくる犬を噛み殺してしまう。
秘密を知った手塚治虫にトッペイはこう語る。「オオカミに変身する時は、心の中に相手を相手を憎んだり、恨んだりした時なんです」
手塚は大学時代の知人、熱海教授に相談する。熱海は変身を見ようと、月が出るタイミングを見計らい、トッペイを火で脅すと、トッペイはオオカミに返信、襲われた熱海教授は崖から海に転落する。
手塚が熱海の書斎を調べると、熱海教授が“文明の進化と共に、原始的な自由を求める人間〜その変種(ミュータント)が現れるだろう“と予想していた。そして、彼らのことを“バンパイヤ“として名づけていた。
バンパイヤは“悪“なのか? そして、一人の重要人物が登場する。間久部緑郎〜おなじみのロックである。彼は、バンパイヤ族の秘密を知り、野望の実現に利用しようとするのだった。
このマンガを読むと、“少年マンガ“的な、単純な“善“vs“悪“の構造ではない、より深い世界を手塚が描こうとしていたことが分かる。また、バンパイヤ一族は、差別を受けてきた人々を想起させる。
手塚治虫は、“少年マンガ“の枠を超えた本作で、何を描こうとしたのか。
前述の通り、「バンパイヤ」は掲載誌を変え、第二部を開始する。
それは、第一部をスケールアップしたであり、手塚の本作にかける思いが感じられるものだった
(続く)