2024.10.3(おっさんは元気ないだけ)

 会社のトイレで鏡の前に立つと白髪が目立つ。子供のころは舘ひろし(別に好きなわけじゃないが)みたいに渋いおっさんになるならいいじゃないか、髪が白いくらいのほうが、と思ったものだけど、実際に自分に生えてくると、なんか、髪の死体、という感じで、ああなるほどこの感じが嫌なのかあとか思う。なんというか、気迫のない感じ。リリー・フランキーが「おっさんは落ち着いてるんじゃなくて元気がないだけ」と言っていたそのままのこと。

 先日急に奇怪な夢の話をしちゃったんだけど、これにはちょっと前段階がある。

 3000円で買って友人に譲ったアンプを1,2か月前に家に引き取ってきた。わりと音も使いやすくて気に入っていたのだけど、新しいアンプを買ったのを機に売るか―と迷っていたころ、ふと、師匠宅で練習するときに使うにはちょうどいいな、と思って、一度持って行った。そしたら翌日「なんか臭うらしいから持って帰って」と言われた。

 長々と経緯を話すほどのことじゃないので結論を書くと、そのアンプになんか憑いていたらしい。奥さんが霊感ある人なんだけど、もうそれがあるだけで体調が悪くなるという。持って行ったとき、いつもくっついてくる犬が一切近寄ってこなかったし。師匠は師匠で「アンプが福ちゃん使ってやってきたみたいでなんか気持ち悪かった」とか「呪われたみたいな顔してたで」とか言う。極めつけは、おととい電話でその話をしてたら女の笑い声が聞こえたとか…。すっかり気味悪くなって、言われた通り塩を撒いたり、もともと出してたのを超格安に値段を変更したりしたらパッと売れた。発送すべくローソンに持って行ったら、「なんかこっちも急に楽になった」と言われた。

 まあ正直、俺自身スピり傾向はあるにせよ、なんともわからんところだが、じっさい手放したその日からよく眠れるようになった。いつも朝から疲れていてどんよりしていたのだけど、なんか「あーよく寝たなあ」という感触とともに起きるようになって、割と活動する気力が戻ってきたような…

 気の持ちよう、でしかない。まあでもある種有用なやり方だよなと思う。「なんかやる気がわかない」「なんか気分が落ち込んでいる」という、病気とも何ともつかんものに「原因」を作ることができる。ということは対処できるのだ。たとえば呪いのアンプを売り払うとか、お祓いに行くとか。前に「気分が沈むのは気候のせいだ」と思うことにした、その延長的な考え方かもしれない。気分が沈んでなにもできないのは自分のせいだ、と考えていると、そのループに入ってどんどん落ち込んでゆく。そうではなくてまず原因を外に置いてみるということ。まあ文字通りの儀式。昔の人は良く考えたものではないか。本当だろうとなんだろうと、「今日原因を祓うことができた」と思えれば、それは当座の気分に関しては半分くらい解決したのとほとんど同じことだ。しばらくしたら戻っちゃったとしても。

 ま、それが目的化してやたらと石を買い集めたりそういう団体に入って行っちゃうと危ないので、それなりにマジ、それなりに話半分、そういう風に考えておきたい。

 売り払ったその日に、やっぱなんかそういう気分になったのか押切蓮介の『サユリ』を読んだ。呪われた家に引っ越した家族。次々死んでいき最後には主人公とおばあちゃんだけになる。しかしボケていたおばあちゃんが霊への復讐のために覚醒し…。
 どうやって霊に対抗するかというと、「生命力だ」、と言い放つ。栄養のあるうまいもんを食って、毎日運動して、笑って生きろ、そうして「命を濃く」しろ、と。まあもちろんここでは霊に対抗する手段、というフィクションの世界で言っていることなんだけど、たぶん人生に起こる困難とかのメタファーとして描いているところはあるだろう。これも行き過ぎると「筋トレしてりゃ鬱にならない」的な間違った発想につながるんだろうけど、「命を濃くする」とはいかにもハチャメチャな謎理論で、面白半分で標語にするにはちょうどいいな、とか思う。まあなんにしたって健康に過ごすに越したこたないのだから。

 しかしまあ、血液濃縮理論(水を飲まないで特訓すると血が濃くなって強靭になるという、昭和の学生たちを苦しめたインチキ理論)を思い起こさせるフレーズでもある。

 こう書いてて、「呪われたアンプを売り払ったら急に元気になった」という物語を自分は積極的に導入し、ことさらにハイになっているな、ということに気付く。まあ、今後どういうコンディションになるか。それは観測してもらえると思う。毎週日記を書いているので…。

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