編…新人物往来社『名画に出てくる 幻想世界の住人たち』
ギリシャ神話やその他の伝説をモチーフとした幻想絵画に登場する存在たちについての本。
ゴルゴーン、キマイラ、ケルベロス、ドラゴン、ユニコーン、妖精、人魚、巨人、ヴァンパイアなどなど、絵画だけでなく映画やゲームなどでもよく目にする存在が多く紹介されています。
それぞれの絵がオールカラーで載っているので、ページを捲っているだけで非日常な気分に浸れます。
どの絵も、美しくもあり、恐ろしくもあるので、強烈に惹きつけられます。
解説文も分かりやすいです。
架空の存在とはいえ、これだけ長い時代、多くの国の人たちが様々な形で描いてきたのですから、もしかしたらこの世のどこかに一体くらいは本当に居たりして…!?と想像を掻き立てられます。
それにしても、こうした存在のうち、恐ろしい姿をしたものはたいてい伝説上の英雄たちに倒されていますが、そもそも彼らに倒されるべき罪などあったのでしょうか?
英雄たちが「英雄になるため」に、罪なき生き物をただ自分たちにとっての価値基準からして「醜いから」というだけで殺したのでは? とわたしはついつい深読みしてしまいます。
美しい=正義
醜い=悪
という単純な構図は分かりやすくてウケがいいのかもしれませんが…。
例えば、ドラゴンをモチーフとする作品だけでも、「あのー、それドラゴンじゃなくてワニに見えるんですけど…」とツッコミを入れたくなる絵も、この本に紹介されているだけでもチラホラあって驚かされます。
もしかしたらこんな風に、ドラゴン退治気取りで虐殺されたワニが今までの時代に何匹か居たかもしれない…とついつい想像しては悲しくなります。
単にその絵の描き手である画家がワニしか知らなかったんだ!と思いたいです。
どうにもやむを得ない時以外の殺生には反対です。
むしろ、P174で紹介されている絵『我が子を喰らうサテュルヌス』(ピーテル・パウル・ルーベンス作)の方が、ドラゴン等の異形の生き物たちよりも、よっぽど討伐対象なのでは!?
サテュルヌスは神様なのですが、いつか我が子に殺されるかもしれない、という恐怖にかられて我が子を殺すことにしたそうです。
しかも一人だけでなく、何人も。
…、
いや、
いやいやいや!!
いくら神様でもやっていいことと悪いことがありますよ!!
スペインのゴヤもサテュルヌスを描いていて、ゴヤの方は完全に閲覧注意レベル。
見たら必ず一度は悪夢として現れる、と言っても決して大袈裟じゃありません。
ルーベンスの方はまだサテュルヌスを人間っぽく描いているから、姿形としての怖さはゴヤの方よりはましだけれど、なまじ人間っぽい姿のものがイっちゃった目をして子どもを喰い殺しているから、結局ルーベンスの方もメチャクチャ怖い!!
喰われている子どもの物凄い悲鳴が、絵を通してこっちにも聴こえてくるかのよう!!
もう、わたしは出来るものならドラゴンでもリヴァイアサンでもワルキューレでも何でも強そうなのを総動員してサテュルヌスを討伐して子どもを救いたい!!
幸い、サテュルヌスに喰われた子どもたちは、サテュルヌスの末の子ども(ゼウス)によって救出されるそうです。
ホッ…。
神様でさえ過ちを犯すのだから、人間が過ちを犯すのも当然なのかも…。
否、どんなに人間が生まれながらに愚かさを備えていたとしても、「過ちは犯すまい」と己を律していきたいものです。
そんな戒めをするためにも、昔から人類はこの本に紹介されている幻想的な存在を、描こうとしてきたのでしょうか?