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著…嶽本野ばら『変身』

 カフカの『変身』のオマージュ小説。



 ※注意
 以下の文は、結末までは明かしませんが、ネタバレを含みます。



 以下はあらすじ。

 この『変身』の主人公は、美しいものに狂おしいほど憧れているにもかかわらず、誰がどう見ても悲劇的なまでに不細工だった青年•星沢皇児(ほしざわこうじ)。

 「だった」という風に過去形なのには理由があります。

 なぜなら、彼はある朝目覚めると、別人というよりもはや別の生物と言うべきレベルのイケメンになっていたから。

 皇児は、星沢皇児の弟として生活していくことになりました。

 周りのほぼ全員が、皇児本人がいなくなったのを全く惜しんでくれず、弟(本人なのですが)の容姿を絶賛しました…。

 さて、皇児は昔から、少女漫画家を目指して下積みをしてきました。

 これまでずっと芽が出なかったのに、イケメンだからという理由で、皇児は少女漫画家として華々しくデビュー!

 そして、デビューするや否や、大人気の漫画家になりました。

 けれど、それは単に容姿を評価されただけのこと。

 作品を愛されてのことではありません。

 これでは、漫画家としての矜持を持ちようがありません。

 また、せっかく顔は良くなっても、性格は元の時代錯誤超絶ロマンチストのまま。

 だから、女性たちから気持ち悪がられて、こっぴどく振られてばかり。

 漫画が売れていくおかげで金銭的には豊かになったとはいえ、心は寂しいまま…。

 皇児の唯一の支えは、皇児が不細工だった頃から皇児の漫画を愛読してくれていた、これまた不細工な容姿とあだ名を併せ持つファン•「ゲロ子」から届く手紙だけ。

 けれどゲロ子にさえ正体を明かすことは出来ません…。



 …続きが気になる方は、是非読んで確かめてください。

 わたしは涙なしにはこの小説を読めませんでした。

 自分で自分を好きになろうとして、でも出来なくて、そんな風に苦しむ皇児の姿が悲しくて。

 しかし、心にぽっかりと穴があいた皇児は、ある日大切なことに気づきます。

本当にどうしようもなく不細工なのは、見てくればかりを追い求めていた俺の虚栄心だ。

(著…嶽本野ばら『変身』 単行本版P262から引用)


 皇児が本当に美しいものは何なのかということに気づいてから結末へと続く流れが、わたしは好きです。

 また、結末間際に書かれている、

何を諦められなくて、何を捨てられないのかなんだよね。

(著…嶽本野ばら『変身』 単行本版P267〜P268から引用)


 という一文も、とても心に響きました。



 〈こういう方におすすめ〉
 容姿にコンプレックスがある方。

 〈読書所要時間の目安〉
 2時間くらい。

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