\あなたの「好き」をぶつけてください【番外編】/滝ガールとおらゑもんの「滝」と「サル」が好きすぎて 第4回【最終回】
「らしさ」に「禅」。対話を深めていく中で、だんだんとそれぞれの「好き」の根源というか、核心に迫ってきたように感じられます。心の旅とも言えるこの鼎談は思索の森を渡り、どのような境地にたどり着くのでしょうか。最終回です。
サードプレイス
滝ガール「以前のnoteでおらゑもんさんは『動物園はわたしにとってのサードプレイス』(家庭と職場以外の第3の場所)と語っていらっしゃいましたよね。わたしにとっては、それはまさに滝なんです。何に縛られることもなく、心のままに、自分らしくいられる場所。」
なかむら 「あやこさんは、ここがわたしの場所!って確信した瞬間ってありましたか?」
滝ガール「そうだなぁ、これで確信した!というよりは、徐々に……って感じかな?
『サードプレイス』という言葉のニュアンスにある『くつろぐ』とか『定期的に訪れる』とか、そういう雰囲気をはじめに感じたのは、東京都檜原村にある払沢の滝ですね。身近な滝だったので、フラッと会いに行けたんです。就職活動中に悩んでいた時に『自分ってちっぽけだ〜』という気付きをくれた滝もこちら。だからわたしの人生にも深く関わっていますし、一番訪れた回数が多いです。
四季折々、雨量や時間によってもいつも姿を変えるけれど、でもちゃんとそこで待っていてくださる心強さ。」
おらえもん「じわりじわりと何度も訪問するうちに大切な場所になっていく感じってありますよね。動物園も、訪問回数が多い園は自然と居心地がいい場所になっていくなぁ。
わたしも、『動物園でしか生きられない彼らとあと何度会えるか分からないから、会えるときには何度だって会いに行こう』という思いは、自然な感情として抱いています。この『何度でも』という感覚は『動物園にはたまに家族旅行やデート、友人との旅行で行くだけ』という人には理解されないかも知れないですが、わたしにとって動物園が『サードプレイス』であることの証なのだと思います。」
なかむら「なるほどなぁ。サードプレイスとは『何度でも訪れたくなる場所』で、行くたびに、違った表情に出会える、さらに行くたびにこちらの気持ちもそりゃー違うわけで、そんな不安定な?自分の気持ちにも寄り添ってくれる場所なのかな。
『どの美術館が一番好きですか?』ってよく聞かれるんですけど、その答えがなかなか出てこないのですよ。好きな作品はこれ、だけど居心地の良さを感じるのはこっち、建物が好きなのはここ、って分断して考えちゃう。美術館は大好きだけど、ここがわたしのサードプレイス!と認識したことはないかもしれないと思いました。いや、アート全体がわたしにとってのサードプレイスなのかなぁ。」
滝ガール「わたしも『滝が彼氏!』と発言してきたものの『では、どの滝が彼氏か?』と聞かれると、困っちゃいますね。わたしにとって滝とは人間同士の恋愛よりも強い想いや意味をもたらすものであり、それを超えてくる人間は今のところいない、という意味でした。だから、わたしも『ここが!』というよりは、滝全体が『サードプレイス』、という方が感覚的に近いかもしれません。しょうこさんも紹介されていましたが、『どの美術館が一番好きですか?』という問いの答えはなかなか出てこないですよね。わたしも『どの滝が一番好きですか?』という質問には答えられないです。」
畏れ敬う
滝ガール「いつもの心地よさに調和を感じて癒されることもありますが、圧倒され、心が震える、『畏敬』を感じる瞬間もたびたびあって。わたしの場合、その衝撃が他の何よりも崇高に感じられてしまい、それまでの自分の常識がかなりガラガラと崩れていきました。周囲は婚活をする時期でしたが、恋愛にもあまり興味が持てなくなり、滝に恋しているんだ!と言うように(笑)。まあ、実際そうなんですけど、滝に対しての気持ちの根本は、大いなるものへ導いてくださった『導師』のような感じですね。」
なかむら「あやこさんから『滝に恋してる!滝が彼氏だ!』という言葉を聞いた時、熱意に圧倒され(笑)お姉さん、冗談で言っているんじゃないのね、ということがよくわかりました。おらゑもんさんともお話しさせていただいたのですが、『好き』の感情にも、きっと色々なベクトルや段階、色がありますよね。恋なのか、愛なのか、尊敬なのか、趣味嗜好なのか……。そこに共通するのは『心が震える』感じなのかしら。
先日、神奈川県の桜ヶ丘にある『冒険研究所書店』に伺い、店主で北極冒険家の荻田泰永さんとお話をしました。店内に荻田さんの写真や道具が展示してあったので、『北極の景色に対峙したときってどんな気持ちになるのですか?自然は美しい!畏敬の念が湧いてくる!大自然に包まれてるぜ〜という感じですか?』と、素人感丸出しの質問をしてみました。すると、荻田さんは『いや、全く』と(笑)。『むしろ、自然を自然と思ったり、畏敬するとか美しいとか感じることがすでに、人間の視点でしかない。それって、実は不自然じゃない?自然は、わたしが自然です! なんて自己紹介してこないでしょう?自然は自然、自分はそこにただいるだけ、そんな気持ちです』とお話されていて、説得力のある言葉だなと感じました。冒険を続ける中で、いつしか自然との境界線が溶け合っていったんだろうなって。
萩田さんの著作を通じて、こんな言葉にも出会いました。
萩田さんは北極海と対峙したことで、自分がヒトであることを思い知らされた――つまり、北極海が「鏡」になったのかも、と感じました。人間らしさを持った『人間』のまま飛び込んでしまっては前進ができない。だからこそ『畏怖の対象である自然』という自然観を超えて、『動物的であり、どこか機械的な』ひとりのヒトになったんだなと。それゆえにわたしの質問に、『自然に対して畏怖するとか美しいとかそういう感情は起こらない』とお話しされていたのだと、わたしなりに理解しました。それが自然の中に生きるための術なのだと。自然に対峙する時、人間らしい人間としてなのか、動物になるかで全く変わってくるのですね。」
おらゑもん「『人間になるか、動物になるか』。重要な問いかけですね。『自然は自然、畏敬という感情自体がすでに人間の視点でしかない』、という視点、今まで見落としていたのではっとさせられました。そっか、わたしの立ち位置は『人間としてのわたし』なんだ……。
少し、考えてみたんですが。 わたしは口癖のように『おらんうーたんになりたい。』と呟きつつも、自然そのものに没入する境地にはたぶんまだ至ることができていません。けれど、今の『好き』の地平から見える風景も楽しんでいきたいです。楽しみながら歩むことで、ここまでおふたりと深めていったように、自分とは違う色合いや形の『好き』も認め合って一緒に考えられるようになれる気がするから。」
なかむら「うん、うん。おふたりがお話しされていたような、ヒトとして生まれたことに対するもどかしさや嬉しさの気持ちは、直接お話を聞いてみて、荻田さんとも共通しているとも思いました。だけど、冒険家という人生だから、荻田さんは北極海の自然の中で動物的なヒトに『ならなければならない』のですね。
なんだかこれまでより、この人間らしい『好き』の気持ちが愛おしくなりました!それぞれの『好き』がこうやって、串刺しにされるのが面白いです。『好き』という感情はいいなぁ!」
滝ガール「わぁ、しみじみわかります……。こうして人間であることを認めて、もろもろの切な
さもひっくるめて、人間であることを楽しむ。それはきっと人間同士だからできることで。しょうこさんの素晴らしいところは、異ジャンルの『好き』同士を出会わせられるところですよね。なんだか、この『好き』の対話は思った以上に、深い癒しにつながっています、自分にとって。」
おらゑもん「この鼎談に限らず、コミュニティを横断し越境するしなやかさがしょうこさんの取り組まれている活動の本当に素敵なところだと思っています。それぞれの『好き』同士がお互いを打ち消し合うことなく化学反応が起きていく場を体感できて、幸せでした。これからもそれぞれの『道』を『好き抜いて』いきましょうね。ありがとうございました。」
(完)
プロフィール
滝ガール
坂崎絢子(さかざき・あやこ)
東京都生まれ、2022年より山梨県北杜市在住。大学生の頃から日本全国の滝めぐりに熱中。滝歴は約20年。「滝ガール」と呼ばれるようになり、2013年からウェブサイト Takigirl.net を運営。「滝文化の研究」と「滝の魅力の啓蒙活動」を軸に、ウェブや新聞でのコラム連載のほか、イベントなどで滝鑑賞ガイドも行う。滝から地球の平和を伝える「WaterFall & Peace」がモットー。滝のほかに好きなものは、ハロプロ、パフェ、さかなクンなど。本業ではビジネスやライフスタイル系の雑誌ライター・編集者を10年、資産運用会社での社長秘書兼マーケティング・広報を4年、2020年からフリーに。現在は「滝あやこ」の別名義にてホロスコープ鑑定士としても活動中。
滝ガールの活動報告サイト :https://takigirl.net/
おらゑもん
動物園・水族館を通して見える生きものとヒトの社会の在り方に関心があり、個人的な趣味として探究しています。霊長類に特に強く惹かれています。
twitter:@weiss_zoo
note:https://note.com/nostalgia_zoo
中村翔子(なかむら・しょうこ)
本屋しゃん/フリーランス企画家
「本好きとアート好きって繋がれると思うの。」そんな思いを軸に、さまざまな文化や好きを「つなぐ」企画や選書をしかける。書店と図書館でイベント企画・アートコンシェルジュ・広報を経て2019年春に「本屋しゃん」宣言。千葉市美術館 ミュージアムショップ BATICAの本棚担当、季刊誌『tattva』トリメガ研究所連載担当、谷中の旅館 澤の屋でのアートプロジェクト企画、落語会の企画など、ジャンルを越えて奮闘中。下北沢のBOOKSHOP TRAVELLRとECで「本屋しゃんの本屋さん」運営中。新潟出身、落語好き、バナナが大好き。
https://honyashan.com/