\あなたの「好き」をぶつけてください【番外編】/滝ガールとおらゑもんの「滝」と「サル」が好きすぎて 第2回
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第1回では「滝」と「サル」へのおふたりの熱い想いから「好き抜こう!」というキーワードが飛び出しました。すっかり打ち解けたところで、第2回ではどんな話題が続いていくのでしょうか。
『なつかせる』こと
滝ガール「おらゑもんさんはしょうこさんとの対談の中で『動物園という存在への矛盾と葛藤』について想いをお話しされていましたよね。ものすごーく、わかります。滝もそうです。滝と観光にも常にジレンマがあります。悲しいことに滝は人がたくさん訪れるごとにパワーを失っていく……。滝までの道を作り、展望台を作る、それは自然破壊と言えなくもない。でも貴重な観光資源でもある。誰もが手軽に行けるから、癒される人も増える。この葛藤には向き合い続けたいんです。おらゑもんさんとしょうこさんの対談で『なつかせる』という一節が紹介されていたこともあり、サン=テグジュペリの『星の王子さま』を再読していたところです。『なつかせる』とは素晴らしいことだけど、わたしは同時に恐れもあって。わたし、動物は本当に切なくなるほど好きで、だからこそずっとそばにはいられない、という気持ちを抱いてきました。でも今はもう少しそこから踏み込みたい気持ちなんです。」
なかむら 「好きだからこその葛藤ってありますよね。『なつかせる』ことについて、おふたりの話をもとにもう少し掘り下げてみましょう。好きすぎるから、そばにいられない。それは畏怖の念と、さらに、傷つけてしまうかもしれない、という恐怖でしょうか?『なつかせる』ことによって、彼ららしさが薄らぐのではないか?など。
ヒトが文明、文化を育む上で、自然を整備することは『なつかせる』ことなのかなぁ……。」
滝ガール「『星の王子さま』のその部分を読んでみると…このように書いてあります。
滝ガール「ここの『責任』という言葉に、ドキッとしてしまいます。まだわたしのメンタルがお子様なだけかもしれないんですけどね!
『好き』を発露させていくときに、そこには多少なりとも責任が生じる。好きで近づいていくほどに、楽しいだけでは済まされない、いろいろな矛盾にも気づくことにもなる。滝について自分なりに発信するからには、自分が直面した矛盾ともちゃんと向き合いたいなという気持ちを持つようになりました。簡単な解決策など存在しないのですが、そこからできるだけ目をそらさないようにすることを自分では意識しています。
だから、一人がそんなにたくさんの物事について『なつかせる』ことはできないな、って思います。」
おらゑもん「『好き』と『責任』。『星の王子さま』ってこんなにも厳しい教訓がかくされた物語なのだな、とはっとさせられました。
わたし自身、動物園という場が未来に向き合いつつも抱える大きな矛盾に対して何か出来ないかと思いながらも、問題の根深さに途方に暮れることもしょっちゅうです。
ヒトは矛盾をふたつもみっつも抱えてはいられないから、ひとりの人が『なつかせる』ことができる対象はごくわずかなんだ、というあやこさんの意見に大いに共感します。
けれど、『なつかせる』対象がひとりひとり限られているからこそ、それぞれの『道』が個性的な形で育っていくのかもしれませんね。」
なかむら「『好き』と『責任』のお話、興味深くお聴きしました。人間同士の『好き』の形のひとつである『恋愛』や『結婚』も、『好き』とともに『責任』が生じるなぁと改めて思いました。いや、家族愛もそうだよな。友情もか。
わたし自身は、好きなものに『責任』を感じる中で正義感が生まれてしまうことがありますね。好きなものをわたしが守らなくちゃ、傷つけられないように盾にならなくちゃと。こんな気持ちも時に押し付けがましかったりするんだろうなぁと感じることもしばしばです。
あと、わたし、ワガママだなと感じるのは、わたし自身は『なつかせられたくない』って思ってしまう。だけど、改めて『星の王子さま』のを読んだら、『なつかせる』って、手の上で転がされることではないんだなと。」
おらゑもん「『責任』と『正義感』については、わたし自身もずいぶん悩んだ経験があります。
わたしにも、動物園を取り巻く『よくない状況』に対する怒りがエンジンになって、義憤に駆られた発信をしていた時期がありました。
もちろん、声を上げるべき時はあります。でも、怒ることが嗜癖になって、自分の<好き>を証明するために『<好き>を侵してくる』許せない対象を探し続けるようになってしまったら、憤りという強い感情で原体験が上書きされてしまう気がしてしまう。怒り続けることによってしか愛を表現できない人になってしまう。
わたしが最近、多様な表現方法を自分自身に課しているのは、『自分の<好き>を棚卸しして、揺らがせていく』ことが、凝り固まらないために大切だと感じているからかも知れません。
滝ガール「おらゑもんさんの言う『揺らがせていくこと』は、深呼吸をしたりストレッチをして肩の力をぬいたりするイメージに近いのかなって思いました。
あの、さかなクンさんが、わたし昔から大好きで憧れの人なんですけど、それはきっと『好き』の示し方を教えてくれている方だからだと思うんです。素直に『ギョギョ!』って言うこと!シンプルだけど、肩の力を抜くのに大切かもですね!こうしていろんな視点を混ぜ合わせて、ギョギョ!っと言いたいな。」
「導かれる」と「道」ができる
滝ガール「おらゑもんさんとしょうこさんの記事を読んで、おらゑもんさんがオランウータンのジプシーさんと出会ってからサルに魅かれていった経緯が、わたしの滝との出会いに似てる!って思いました。
わたしも就職活動でうまくいかない時に、ひとりで東京都檜原村の払沢の滝に向かいました。ここで不思議なひらめきが降りてきて、今の道に導いてもらった感じなんです。」
なかむら「『導かれる』と『道』ができるのですね。わたしはインドに行った時、『インドに呼ばれた』感覚に陥りました。ああ、今来るべき場所だったんだなと。逆に、『今ではない』という時もあって、呼ばれないとなかなか行けないです。導きって不思議ですし、『呼ばれるタイミング』は確かにありますよね。」
滝ガール「わたしは滝に関して、いくつか『導かれる』という感覚を得た出来事があるのですが、その中でも『滝好き』を強く意識するきっかけになった滝が、長崎県の龍頭泉というところなんです。
最初に訪れたのが、大学3年生の頃で、姉と旅行中にたまたま立ち寄った場所でした。前日降った雨の影響で水量が増加していて、豪快に流れ落ちていて、本当に格好良かった。貸切状態だったから、ちょっとだいぶ、はしゃいでしまって。足を滑らせて滝つぼに落ちて腰までびしょ濡れになったんです。ハプニングではあったものの『あぁ、なんて気持ちいいんだろう。これまでは滝とのふれあいが足りなかったな』と感じて。滝と『恋に落ちた』瞬間だったな、と振り返ると思います。
その話を就職活動の時にしたら、とても面白がってもらって。新卒で第一志望の会社に入ることができたわけで、自分の人生にも影響を直接与えてきています。
その後龍頭泉には長く行けていなかったんですが、再訪した2013年に、そこで仙人のようなおじいさんに偶然出会いました。『まんちゃん』という、この渓谷の守り主のような人。「この渓谷には龍神様がいるよ、あなた、呼ばれたね」と言われて、確かにそうかもしれない、って感じました。その後、1年経たないうちに、亡くなってしまったと連絡があったから、ギリギリのタイミングで会わせてもらったのかもしれません。
他にも、滝で偶然誰かに会ったり、そこから交友関係が始まったり、ということがかなり多くて。滝の神様がついてくださっていて、いつもわたしの人生に粋な演出をしてくださるなと思っています!」
なかむら「滝に落ちて、滝と恋に落ちたのですね。『まんちゃん』との出会いも導きのようですね。ご縁ってあるんだなってしみじみ感じます。」
おらゑもん「素敵な出会いですね……!わたしにも、動物園をきっかけにした偶然の人との出会いがありました。
2019年8月に山口県宇部市のときわ動物園を訪れた時に、隣接する石炭記念館にも立ち寄ったところ、旧宇部炭鉱の技術者で歌人でもある木下幸吉さんが『炭鉱の語り部』としてガイドをして下さいました。炭鉱での過酷な生活を詠んだ短歌を紹介して頂き、あぁ、この人も表現への熱意を忘れなかった人だ、と心打たれました。
わたし自身もその後動物園を主題にした短歌を詠むようになったのですが、木下さんとの巡り合わせの影響が大きいです。」
なかむら「偶然の出会いって、何も身構えていないから、より浸透してくるのかもしれないですね。すごく純粋にそのヒトやモノ、コトと対峙できるのかも。色眼鏡抜きで。 」
滝ガール「なんと、おらゑもんさんの短歌の起源がここに!『好き』を追いかけている旅に身を置いているときって、自分は『〇〇が好きな人』という肩書きでしかありませんものね。しょうこさんのおっしゃるように出会いを『純粋』に受け入れられるという気がします。わたしの人生もそんないくつもの出会いに彩られてきました。今もまさにそうだけど。」
次回に続く。
プロフィール
滝ガール
坂崎絢子(さかざき・あやこ)
東京都生まれ、2022 年より山梨県北杜市在住。大学生の頃から日本全国の滝めぐりに熱中。滝歴は約20年。「滝ガール」と呼ばれるようになり、2013年からウェブサイト Takigirl.net を運営。「滝文化の研究」と「滝の魅力の啓蒙活動」を軸に、ウェブや新聞でのコラム連載のほか、イベントなどで滝鑑賞ガイドも行う。滝から地球の平和を伝える「WaterFall & Peace」がモットー。滝のほかに好きなものは、ハロプロ、パフェ、さかなクンなど。本業ではビジネスやライフスタイル系の雑誌ライター・編集者を10年、資産運用会社での社長秘書兼マーケティング・広報を4年、2020年からフリーに。現在は「滝あやこ」の別名義にてホロスコープ鑑定士としても活動中。
滝ガールの活動報告サイト :https://takigirl.net/
おらゑもん
動物園・水族館を通して見える生きものとヒトの社会の在り方に関心があり、個人的な趣味として探究しています。霊長類に特に強く惹かれています。
twitter:@weiss_zoo
note:https://note.com/nostalgia_zoo
中村翔子(なかむら・しょうこ)
本屋しゃん/フリーランス企画家
「本好きとアート好きって繋がれると思うの。」そんな思いを軸に、さまざまな文化や好きを「つなぐ」企画や選書をしかける。書店と図書館でイベント企画・アートコンシェルジュ・広報を経て2019年春に「本屋しゃん」宣言。千葉市美術館 ミュージアムショップ BATICAの本棚担当、季刊誌『tattva』トリメガ研究所連載担当、谷中の旅館 澤の屋でのアートプロジェクト企画、落語会の企画など、ジャンルを越えて奮闘中。下北沢のBOOKSHOP TRAVELLRとECで「本屋しゃんの本屋さん」運営中。新潟出身、落語好き、バナナが大好き。
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