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お湯を湯水のように使いたい【その後】

「お湯を湯水のように使いたい」から読まないと、もっと意味がわかりません

週末を利用して大阪へ遊びに行き、30時間ぶりに我が家へ帰ってきた。

エレベーターに乗る前に、ここ最近の日課である「お湯自動販売機」の残量チェックをする。画面に残数を表示させて、iPhoneに写真を残してニヤニヤするのだ。ここ1ヶ月ずっと54のまま減っていない。今日もまた54だろう。もはや54は私のラッキーナンバーだ。54フォーエバー!

そう思って部屋番号を押すと、はたして表示された数字は47だった。

減っている。よりによって全く使っていないタイミングで大幅に減っている。

その量、70リットル。

カウンターが止まっている間、調子に乗ってお湯を湯水のように使った結果が70リットルぽっちなわけがない。つまり、損はしていない。

しかし、激しいショックと動揺を隠せない。54が47…54が47…

何度押しても、結果は同じ。

それでも私は、その不吉な数字をiPhoneで撮影した。管理会社に文句を言うためではない。そもそも、言える立場ではない。noteに続きを書くためだ。

ふと気配を感じて背後を振り返ると、防犯カメラが静かに私を見下ろしていた。

逃げ込むように部屋へ戻り、室内のカウンターを確認する。47だ。くそう、47だ。さっき高速サービスエリアのセブンイレブンで、レジ打ちに慣れない店員が指を迷わせたのち「49」というボタンをエイと押すのが見えたが、あれは客の推定年齢だろうか。私はまだ47でもないのだが。いかん、頭が混乱している。何の話だ。落ち着け37歳。

使用履歴から換算した正確なお湯代を請求されたときの対処法は妄想していたが、我々への情けなのか、自分たちの情けなさなのか、管理会社は70リットルで手を打とうと言ってきたのである。怒っていいんだかお礼を言っていいんだかわからず不安定な感情を持て余した私は、縋るようにPCの電源を入れた。


前回の談話室会議で、集まっているのを防犯カメラで確認されたら怪しまれるだろうと話し合って、住人専用裏掲示板を立ち上げたのだ。意外にもそれを言い出したのは、クリスマス・イヴにデリヘルを呼んだことを気付かれていないと思っている隣人だ。その時に名刺を交換したが、在宅でIT関係の仕事をしているらしい。てっきりほとんど家にいないのかと思っていた。もともとは物静かな人なのである。1年に1回ハッスルするくらい許そうと思えた。

掲示板には、私が大阪でハッスルしている間に、遡るのがうんざりするほどの書き込みがあった。何かが大炎上しているとしか思えない盛り上がりだ。嫌な予感がする。

とりあえず未読のいちばん古いところからざっと流していく。どうやら管理会社からの説明がなく、70リットル均一引きであることは皆同じのようで、ひとまずホッとする。

ただ、1ヶ月も気付かなかった管理会社が、このタイミングで性急に手を打ってきた、というところに何か引っ掛かるものを感じる。このタイミングとはつまり、私が事の顛末をnoteに書いたタイミングだ。

スレッドを読むのを止めて、先日UPしたばかりのnoteを開く。

閲覧数が急激に増えていた。

おそらく長い長い炎上スレッドのどこかに、このnoteを見つけた誰かがリンクを貼ったのだろう。この増え方は、そうとしか思えない。「バカこと書いてら」と半笑いで読んだ人もいるかもしれないが、中には「一緒にするなバカヤロー!」と怒る人がいないわけがない。

《我々は全然違うように見えて、きっとそう大きくは違わない。》なんて私にだけは絶対に言われたくなかった住人が、怒りに任せて管理会社に申告をしたのだ。自分以外の住人がお湯代を踏み倒そうとしている、ということも伝えたのだろう。自分はあいつらとは違う、と。

それを受けて、全てを取りっぱぐれるわけにはいかない管理会社が、少しの損は覚悟で強硬手段に出たのだ。
まったく誰が余計なことを…。

いや、申告した住人はわからないが、そもそも余計なことをしたのはnoteをスレッドに貼った住人だ。どうして見つけられたのだろう。

「どうして見つけられたのだろう」

という自分の声で、ハッとした。

どんなに物音がしなくても、不在ではないのだった。わかっていたはずなのに。

リンクを貼ったのは、そのスレッドの管理人、つまり、クリスマス・イヴにデリヘルを呼んだことを気付かれていないと思っている隣人だ。

なぜなら、彼の隣には、書いたものをいちいち大声で音読せずにはいられない頭のおかしな女が住んでいるからだ。タイトルでググれば、noteは見つかるだろう。さすがIT系の検索力。

彼は、面白い記事を発見したぞ(笑)くらいのつもりで貼ったのだろう。誰も表札に名前は出していないから、部屋番号までは特定されない。だからnoteを住人に拡散したところで、クリスマス・イブにデリヘルを読んだ男が自分であるとは誰にもバレない。

なんてことをしてくれたんだ隣人!おい、聞こえているんだろ!

しかし「奇蹟のお湯フリー時代」が終焉したのは、私のせいであることには違いない。

住人のみなさま、この度は誠に申し訳ございません。


さて、どこからどこまでが私の妄想か。私自身、もうわからないが、画像は本物なのです。






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