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菓子パンとモーパッサンを一緒にするな

小説家の柚木麻子が『名作なんかこわくない』というタイトルのエッセイ集を出したが、まさにそのタイトル通り、私にとって名作とは、こわいものであった。

湿気なんかこわくないもんと雨の中をスキップするストレートヘアの女優が宣伝するヘアスプレーみたいなものだ。ヘアスタイルによっては何がこわいのか全く理解できないだろうが、こわさにちょっとでも共感できる人にとっては、キラーワードとなるタイトルである。

名作といわれる本をこのまま読まずに死んだって別に何も恥じることはないし、実際に読んでいる人がみな素晴らしい人間かといえば、私の統計上、全然そんなことはない。

そもそも私をこわがらせたのは、名作のすばらしさをよくご存知の方たちなのだから。

読んでいないことをさも重大な欠陥のように騒ぎ立て、結果的に読んでいないことを謝らせる。エーッ!読んでないの?信じらんなーいって、うるせーな!すいません。

某店にいたとき、毎日電話をかけてきては「ランボーの詩集を取り置きしろぉぉ★♭∽§∋」と絶叫してガチャ切りし、絶対に買いに来ないおじいさんもいた。さすが名作を読んでいる人はキレ味が違うな、と思った。超こわい。おかげでランボーの詩が読めなくなった。

『名作なんかこわくない』で紹介されている本は、モーパッサンやスタンダールなど、やはり新潮文庫や岩波文庫の比率が高かった。ぴらぴらの紙に小さい文字がびっしりと並んだ文庫本は、何十年何百年と読み継がれ、絶版になる気配もない。それらはまるで景色のように、いつも棚にあった。だが、データを見ればちゃんと売れて、回転しているのである。時代が変わっても、いつも誰かが、それを読みたいと思っているのだ。

長く愛されているものには、それだけの理由があるのだろう。

ヤマザキの超ロングセラー菓子パン「ナイススティック」だって。

時折、ラムレーズンやマロン、抹茶などの変わり種をサンドすることもあるが、決して定番ミルククリームの人気は揺るがない。

菓子パンとモーパッサンを一緒にするなと仰るか。

そういうところがいけない。文学は菓子パンよりえらいと、どっかで思っている。しかしナイススティックの出荷量は今でも年間7000万本だ。なめてはいけない。

それでいうと、柚木麻子にかかれば、バルザックも有吉佐和子も、大好きなゴシップとか海外ドラマとか、グミとかハロプロとかと同じ「好き」に横並びだ。彼女の中には優劣がなく、楽しむ姿勢も一緒である。名作なんか大好きだし、それでいいのだとばかりに。

そういえば私だって、中学の授業中、教科書に重ねて文庫本を熱心に読んでいたではないか。

角川ルビー文庫のムフフなボーイズラブのときもあれば、新潮文庫の谷崎潤一郎のときもあったが、いずれも鼻の下を伸ばして熱中していた。


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