弁当売りの書店員②
『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』の先行発売を兼ねた「弁当売り書店員@三省堂書店有楽町店前」で、うっかりみんなの優しさにほかほか弁当化された私は、師走で賑わう渋谷へと向かった。
12月19日(火)18時00分~「弁当売り書店員 @大盛堂書店前」
前回同様、その日の朝から後悔しかなかった。どうして「やる」なんて言ってしまったのか。 寒いし、有楽町と違ってアウェイだし、忘年会シーズンのスクランブル交差点前なんて、酔っ払いかカップルしかいないだろう。どう考えたって、私のエッセイを必要としているとは思えない。おまけに今回は「著者です」と書いた大きな紙を垂れ下げているから、獰猛なチーマーにでも絡まれるんじゃないだろうか。私の初めての彼氏は自称チーマーだったが、本当はあんな生易しいもんじゃないと思っている。
だが、結果から言うと、チーマーは絶滅したようで、むしろ人に絡んでいったのは私だった。
店の前に、「FREE HUGS」と書いた看板を掲げる若い男女が立っていた。男性は人見知りを克服したくて、挑戦しているという。20代の女の子は日本語勉強中の中国人で、チャン・ツィイー級に可愛らしい。
これはいいぞ。
私は彼らに、自分の要求を伝え、協力を仰いだ。
十数分後。
10代と思しき男性2人組が、フリーハグの女の子に近付いたばかりに、なぜか37歳の女の子が書いたエッセイを著者本人から買うことになる。
本を掲げてツーショット写真も撮った。面白かったらSNSにもUPしてくれると言う。
やや強引ではあったが、結果としてお客様にも「久しぶりに本を買った」と笑顔をもらえたので、大成功である。その後もそのパターンで、何名かのお客様を大盛堂のレジまでお連れした。
本を日常的に買って読む人口はほんのひと握りだが、「なんか面白い本があったら読んでみてもいいかな」と思っている人は、その何千何万倍もいるんじゃないかな、と感じた夜だった。
またチャレンジしてみよう。
ただ問題は、ハグりたがる人は外国からの観光客が多く、私の書いた本は、読んでみたくとも読めない、ということだ。彼らはとても残念そうだった。
新井エッセイ、まさかの翻訳版発売か。
つづく(…の?)
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