PSYCHO-PASS 『恩讐の彼方に』 と菊池寛『恩讐の彼方に』を比較して
PSYCHO-PASSというアニメの映画版に『恩讐の彼方に』という作品があります。
もちろん菊池寛の『恩讐の彼方に』をモチーフにした作品です。
僕が最初に触れたのはアニメ映画の『恩讐の彼方に』
そして今年には菊池寛の『恩讐の彼方に』を読了しました。
以前から2つの作品を比べてみたいと思っていました。
今回は2つの『恩讐の彼方に』を観て読んで感じたことを書いていきます。
菊池寛『恩讐の彼方に』あらすじ
ざっくりとしたあらすじを書いていきます。
市九朗という男が、主人の愛人と恋に落ち、主人を殺してしまう。
その後、愛人と共に殺しや盗みを繰り返しながら逃走。
しかしある時、市九朗は改心し僧侶になります。
仏門に入り旅をしていく中で崖によって滑落事故が多発している事を知るに至ります。
市九朗は将来に渡って人々を助け、贖罪を果たすために市九朗はトンネルを1人で掘り始める。
と言った菊池寛による短編小説です。
ざっくりと書きましたが、この市九朗に復讐を果たそうと迫ってくる主人の息子なども登場し、読んでみるとクオリティの高い短編だと思うはずです。
読み終わったことが前提ですが下記リンクは菊池寛『恩讐の彼方に』の感想です。
狡嚙と市九朗 旅の目的
ここからはPSYCHO-PASS の映画『恩讐の彼方に』主人公、狡嚙慎也と市九朗の比較を書いていきます。
さて、市九朗は主人の愛人の為、主人を殺し後に後悔、そして仏門に入り罪滅ぼしの為にトンネルを掘るに至ります。
狡噛はどうでしょう。
法に背いて槙島を殺し国外逃亡を続けています。
前作映画ではSEAN(シーアン)という紛争地帯で反乱軍のリーダーとして戦い、殺しもしていたように思います。
しかし本作『恩讐の彼方に』では狡噛が序盤から殺しを避けるような描写があります。
そして狡噛も罪滅ぼしの為なのか、難民を無償で助けたり、テンジンという戦災孤児の面倒を見たりしています。
市九朗の目的は明確に罪滅ぼしですが、狡噛の目的は明確な感じはしませんでした。
狡噛は何かを探していると言った風に僕は受け取りました。
追跡者
一方、市九朗は実之助という復讐者に追われます。
市九朗が殺した主人の息子です。
しかし狡嚙は復讐者には追われていません。
彼が殺した槙島は天涯孤独。
では狡噛は何に追われているのか?
僕としては狡噛自身の過去、あるいは自分自身に追われているように思えます。
映画の中に槙島が幽霊として表れて狡噛と問答をします。
狡噛自身が亡霊となっいるのではないか? 死んだ事に気が付かずこの世を彷徨っているのではないか。と槙島は言います。
実際には槙島はこの世に居ないわけですから、自分を亡霊のように思っているのは狡噛自身でしょう。
狡噛を追ってきているのは彼の過去。
市九朗も狡噛も過去に追われているのは一緒なのかもしれません。
殺しについて
2人の最大の違いは殺しについてでしょう
市九朗も多くの人を殺し、実之助という復讐者を生んでしましますが、ラストでは実之助と和解しています。
この点、狡噛は今回の映画でむしろ殺す方に振り切っていきます。
テンジンを傷つけた戦争屋ガルシアを殺すのです。
狡噛が和解したのは殺しという罪ではなくて、過去の自分と和解したのかなと思います。
自分の居場所、求められている場所から逃げ回るのを止め、過去人を殺した自分と和解したのだと思います。
殺した過去と和解して殺す方に振り切るなんて、現実世界では考えられません。PSYCHO-PASSの世界観でのみなせる考え方の動きでしょう。
ただそうなると狡噛の法に対する意識や殺しについての考え方はまだ完璧には固まっておらず、まさにトンネルを掘っている最中なのかなと思います。
彼の殺人に対する罪滅ぼしは、常守朱の救出かもしれないし、あるいは殺人を容認してしまって、シビュラシステムの暴力装置として働いていくのかもしれません。
今の彼はシビュラシステムの暴力装置として在るだけのように思いますが、彼の中でも生き方や考え方は発展途上中なのかなと勝手に思っています。
思えば菊池寛の『恩讐の彼方に』でも市九朗と実之助の和解の後は描かれていません。
狡噛くんが今後どんな事を考え、意志を持って生きるのかファンとしては楽しみです。
テンジンにとっての『恩讐の彼方に』
本作にはテンジンという戦災孤児が登場します。
彼女は父親を殺した男に復讐したいと狡噛に言います。
狡噛は当然、彼女に復讐はさせたくないと考えています。
そんな彼女は父の遺してくれた菊池寛の『恩讐の彼方に』を持っています。
『恩讐の彼方に』は実之助が復讐を思いとどまるお話です。
テンジンには復讐をしない様にという亡き父からのメッセージのように描かれています。
『恩讐の彼方に』はテンジンに復讐を思いとどまらせる装置として登場していたのだと思います。
おわりに
いつか小説版の『恩讐の彼方に』を読みたいと考えていて、読了しましたし、映画との比較を書きたいと思っておりました。
今回、素人ながらに比較することができて面白かったです。
PSYCHO-PASSの『恩讐の彼方に』は菊池寛の『恩讐の彼方に』をなぞるのではなくて、作中に登場させて装置として配置すると言う方法を取っていたように思います。
ですから狡噛と市九朗は完全に同一ではないのでしょう。
テンジンの復讐を抑止すると言う目的のために作中に登場したように思います。
とにかくファンとしては狡嚙の今後が気になります。
最新の状況では狡噛は外務省の人間として働いています。
映画PROVIDENCEでは躊躇いなく撃っていたように思いますから、暴力装置として動くのかなぁ等と想像してしまいます。
今後ともPSYCHO-PASSが楽しみでなりません。
もちろん菊池寛の『恩讐の彼方に』も楽しめましたし、読書も引き続きしていきたいなと思います。
両作品とも大変面白く楽しませていただきました。
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