未経験技術ベンチャーでの生存戦略とEIRとの共通性
異質な存在=希少な存在
マイクロ波化学では事業開発リーダーという役職に就いた。同じ事業開発には先輩社員がおり、その上は直接社長の吉野さん。
転職した2020年当時は機能別組織になっており、おおよそ事業開発2名、R&D30名、エンジニアリング20名、管理部等8名くらいの内訳だったと記憶している。
ちなみにR&Dとエンジは当然全員理系、事業開発の先輩も博士で、博士号保有者が10名以上いるというまさにアカデミアの世界(実際に体験したことはないが)。
文系の僕は本当に異質な存在だった。この点はかなりのハンデではあるが同時に「逆にやりやすいかもしれない」と考えていた。組織内での人材の希少性というのは武器になるからだ。
裁量権を持ったことが成長を加速させた
仕事内容は主に
①事業開発(営業+マーケ的な感じ)
②プロジェクトマネジメント
の二つ。①がいわゆる「0→1」、②が「1→10」みたいな感じ。
マイクロ波化学の強みは技術であり、事業系の人間を多く採用することは難しい。事業開発2人で数十個のプロジェクトをみながら新規プロジェクトの仕込みを行なっていくのは本当に大変だった。
勿論新たに契約を結んだりするのに社内申請手続きはあるのだが、僕が担当するものだけで年間100件以上あるし、全社でみるとその2倍ほどある訳だから大企業のように"ハンコリレー"をやるようなことはできない。経営陣の信頼が得られてからはよっぽど変則的なものでない限りほぼ自分で判断して物事を前に進めていくことができた。
初めていわゆる"裁量権"を持って仕事ができるようになり、本当に楽しかった。どんどんのめり込み、移動時間、夜、土日を問わず働ける時間はずっと働いていた。この状態が2年くらい続いたと思うがビジネスパーソンとして大きく飛躍できた期間だったと思う。
ちなみに僕は大企業の"ハンコリレー"を悪き習慣と言いたい訳ではない。むしろ非常に重要なプロセスだと思う。それだけの長い意思決定に耐えるだけの目的やロジック構成、数字の信憑性などを積み上げるのは一朝一夕では無理だ。非常に大変でやりすぎだと思うこともあるが判断の確実性や納得性は増すし、それを通すために従業員も相当鍛えられるからだ。
マイクロ波化学での仕事に対する心構え
順風満帆なスタートだったわけではない。何しろ基礎的な用語すらわからないので社内での普通の会話にもついていけないのだ。そうなると仕事どころではない。案件理解もできないしそもそもそんなやつと一緒にプロジェクトをやりたいと思う人はいない。
そんな中で意識したのは、とにかく社内の信頼を得ることだった。知識・経験がないので、恥を捨てて人に聞きまくるしかない。そのためには聞きまくっても怒られないような人間関係を構築する必要があった。
信頼を得るには何をすればいいか。そんな問いに対する明確な解はないと思うが、その当時は「とにかく自分ができることは全部引き受ける。特に面倒くさい仕事ほどやる」ということだった。
当時、事業開発も大変だったが、技術開発部門の方も大変だった。時には自分の専門外の新規案件をこなしていくのはものすごく精神的にプレッシャーがあったはずだ。
資料作成や契約交渉、顧客へのフォローアップなど技術陣が面倒だと思いそうなことを全部やるようにした。当然ハードワークになったが人間関係が徐々にできてきて、自分のいうことに耳を貸してもらえるようになっていった。
「熱心な素人は玄人に勝る」という言葉が住友商事の精神の教えの中に出てくるが、今でもこの言葉は大好きだ。
EIRとの共通性
実は上に書いたマイクロ波化学での初期の状態は、EIRの身分と結構似ていたりする。
EIRは瞬間的に基本的にGiveできるものは何もない。
技術シーズを調査するのだって相手の貴重な時間をもらうのだから、なんの関係性もない相手だと「なんでこちらとして得るものがないのに打ち合わせしないといけないんだ」と思うのは当然のことだ。
これがベンチャーキャピタルの立場であれば出資する可能性というGiveがあるので多少はハードルが下がるが、EIRは本当に何もない。商社やベンチャーで"頑張った経験”など相手にとってどうでもいい話なのだ。
そういう意味でEIRはかなり精神的にきつい。
それでも突っ込んで関係性を構築するためにこちらがGiveできることは限られている。具体的なことには触れないが、それを実行にはこちらの労力が一定取られることになるが、その労力を惜しんでいては何も始まらないのだ。だからできる限り自分が手を動かし、相手にとってありがたいと思ってもらえることをまずはこちらからやっていくことを常に意識している。
(というのも僕自身が、手を動かさないのにそれっぽいことだけを言うやつが大嫌いだからだ)
最後に
振り返ってみると、住友商事時代に染みついた「商売の基本」みたいなものが、昭和っぽくてかっこよくはないけれど、今の自分の仕事における価値観につながっていると思う。
最近はだいぶ商社の離職率は増えているし、商社自身が変わらないといけないところも色々あるとは思うけれど、いつかは何かお返しできるようにしたいと思う。
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