【第四十六夜】『花咲く乙女たちのかげに』夜話 – プルーストの処方箋
この言葉を口にしている時のノルポワ氏は——
今夜もハナは話をはじめた。◆
「そっか、ここまでの話もたった一日の出来事なんだよね。なんかいろんなことがあってすごく記憶に残る特別な一日だったんだろうね」
「確かにね、あとで何度も反芻してたのかもしれないよね。
いろんなことを初めて体験して、そのときには整理もつかなかった思いとか見方を、いろんな角度から捉え直してる感じだよね」
「お母さんとお父さんが、ノルポワ公爵のものまねしようとしてるのを、しっかり見てるとかもね」
「フランソワーズさんがそれこそ料理コースのようにちょくちょく出てくるのも、ちゃんと効果を見越してる感じもするしね」
「新しい年になって、ジルベルトちゃんと会えないあいだにこんなこと考えちゃうところも、少しずつ成長してく感じでなんか好き……」
私はそのときはっとして、一つの予感を覚えた。つまり、元日はほかの日と違った一日などではなく、新しい世界の始まる第一日目でもないのである。そういう新しい世界であれば、ちょうど、〈天地創造〉の時のごとく、まるで過去がまだ存在しないかのように、またこれまで何度かジルベルトのために嘗めた失望も未来への手がかりを残した消滅してしまったかのように、私は無疵の可能性をかかえたまま、彼女との交際をゼロからやり直すこともできたであろうに。
◆——そうしてハナはゆっくりとまぶたが閉じていくのを感じながら、眠りに落ちていく。
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