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【第十夜】『スワン家のほうへ』夜話 – プルーストの処方箋

このように叔母がフランソワーズと談笑しているあいだ——

ハナは話をはじめた。◆

「この話って、記憶のなかで時間がいったりきたりしているよね。
というか、教会っていう建物が四次元の空間を占めているって書いてるように、一つのシーンにいろんな時間を連ねて描いてるっていうのか……」

「連想的に書いているという感じもするよね。でも正確には、無作為的なのかな。プチット・マドレーヌのところにもこう書いてあるし」

 われわれが過去を思いうかべようとしても無駄で、知性はいくら努力しても無力なのだ。過去は、知性の領域や、その力のおよぶ範囲の埒外であり、われわれには想いも寄らない物質的対象のなかに隠れている。この対象にわれわれが死ぬ前に出会えるか出会えないかは、もっぱら偶然に左右される。

「でも適当に並べてるってわけでもないし、ある程度は関係があるというか、意図がないっていうほどでもないと思うし……」

「視点を変えて多面的にしたり、時間を飛ばして重層的に描いている感じだけど、そこに意図があるのかないのかはっきりしない感じだよね」

「それが夢みたいに感じるところでもあるのかな……」


◆——そうしてハナはゆっくりとまぶたが閉じていくのを感じながら、眠りに落ちていく。

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