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【第六十七夜】『花咲く乙女たちのかげに』夜話 – プルーストの処方箋

ホテルに帰ることを考えなければならない——

今夜もハナは話をはじめた。◆

「このお祖母さまと言い合いになるところ、ちょっとせつなくなるね……」

「ここってドラマ的な描写で、らしくないんだけど、そうなるよね。相手の気持ちがわかって苦しんでる感じがね」

私たちは二人とも口をつぐんだ。お互いに相手を見る勇気もなかった。けれども私は、自分の苦悩よりも祖母の苦悩のために苦しんでいたのだ。だから窓の方へ近づくと、目をそらせながら、はっきりした声で彼女に言った。

「少し前にある、ここの表現なんかもね……
お祖母さまの気持ちはわかってるんだけどって感じで」

祖母をして冷静さや判断力といった長所に何よりも重きをおかせたのは、私が神経質で病的に悲しみや孤独感にふける傾向があるために幸福が脅かされているので、密かにそれを守ろうとする要求であった。

「感情的に怒ってるんじゃないってわかってるんだろうね」

「最後に、「ぼく、とても習慣に流れやすい人間でしょう?」って説明しようとするところとも、胸が苦しくなる……」

◆——そうしてハナはゆっくりとまぶたが閉じていくのを感じながら、眠りに落ちていく。

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