【第四十四夜】『花咲く乙女たちのかげに』夜話 – プルーストの処方箋
ああ! この最初の昼の公演はたいへんな幻滅だった——
今夜もハナは話をはじめた。◆
「ラ・ベルマの『フェードル』を観に行くところ、期待が高まりすぎちゃって、実際に観てみたらどう受け止めればいいのかわかんなくなるのって、ちょっとかわいいらしい感じね」
「こういうふうになっちゃうことってあったよね。たぶん幼いころとか、はっきり覚えてないだけで。すごく楽しみにしてたところに行ってみたら、きょとん顔しちゃってたとかね」
「わたしは大好きだったミュージシャンのライブを観に行って、ライブなんだけど、いままで聴いてたまんまな感じがしちゃったことがあったな……
最初にステージに出てきたときは、本物だって思って歓声あげてたんだけど音楽が始まっちゃうと、あれーおんなじだー、ってなっちゃって」
「なんか、わかるかも。聴いてたところと違うところを探しちゃうんだよね。テンポが早いとか、アレンジが違うとか。
でもこの主題って、これまで何度も繰り返されてるじゃん。「本物」と「複製」とか、「実物」と「想像」とか。でも「本物」や「実物」の方が価値があるってことじゃなくて、「複製」したものとか、「想像」してたものの方にも、むしろそっちの方がリアリティを感じることもあるってことなんだよね」
「本を読んでるところでも、目の前のコンブレーの風景よりも生き生きしてるってあったよね」
「そうそう。だから、オペラグラスで見比べてるところも、どっちもどっちじゃんって感じてて、結構深いんだよね……」
◆——そうしてハナはゆっくりとまぶたが閉じていくのを感じながら、眠りに落ちていく。
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