【第五十六夜】『花咲く乙女たちのかげに』夜話 – プルーストの処方箋
この時代にはどこの通りに行っても、よほど歩道より——
今夜もハナは話をはじめた。◆
「こんどはスワンさんのサロンのお話ね。新しいご婦人方も出てきましたよん」
「あれっ、なんかテンション高めじゃない?」
「ん、逆だよん。なんだかさきがぜんぜん読めなくって、テンション上げてるだけなの」
「なるほどね! ジルベルトとの関係も距離を置いちゃったみたいだし、なんか中途半端なまま、またサロンの話になってる感じだもんね」
「そうなの。でもこの部分はちょっと印象的というか、なんかこれまでとはちがう視点で、もっと詳しく知りたい感じ」
もっとも〈女主人〉がたいそう重視していたその技巧たるや、存在しないものに色合いをつけたり、空っぽなものを彫刻したりするだけにすぎず、文字通り〈無の技巧〉だった。すなわちそれは人を「集める」ことのできる技巧、巧みにみなを「まとめ」、「際立たせ」、自分は「蔭にかくれ」て、「仲介」の役をつとめる技巧だった。
◆——そうしてハナはゆっくりとまぶたが閉じていくのを感じながら、眠りに落ちていく。
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