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#6 編集者・フクモトヒロスケ「雑誌サバイバー No.1169」(2019.10.18&25)

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カミガキ談(デザインから出版まで、なんでも自分でやってしまったBOYS)


出版不況と言われて久しい昨今、ここまで来ると出版は「不況」なんじゃなく、これが等身大なんだってことがよくわかります。その中でも特に落ち込みが激しいのが雑誌というジャンル。そのスマホに奪われた情報エンターテイメントの分野で、創刊以降10年以上サバイブしているインディ雑誌がここにあります。

その名も『GOOD ROCKS!』。どんな雑誌かって? こんな雑誌ですよ!

2006年創刊。ミュージシャンや俳優・女優などのクールなモノクロポートレートを中心にインタビューを掲載するカルチャーマガジン。その創刊人であり編集長のフクモトヒロスケさんは現在、誌面の写真を展示したエキジビジョンを全国で展開中。さらにクラブDJや専門学校講師でも活躍中――ということで本日の会議相手は雑誌サバイバーのフクモトさんです!

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はい、こちらがフクモトさん。なんかヤリ手な人かと思ったら、ものすごく真面目で奥手な印象です。これがまず意外。

フクモトさんは2006年『GOOD ROCKS!』を創刊しましたが、たったひとりで撮影、インタビュー、デザイン、営業、配本……をこなすスタイルでこれまで500人以上を取材してきました。つまり「ひとり編集部(編集長オレ、下働きオレ)」時代が長かったようで。そもそもどういういきさつで雑誌作ったんですか?

もともと雑誌を作る専門学校に通ってて、自分でフリーペーパーを作ったりしてたんです。いま見たら恥ずかしいような同人誌で……音楽やってる友達や役者になりたい子をインタビューして写真を撮るようなものを7~8年作ってて。それはフリーペーパーなんで全然お金にならなくて、それを売ったらどうだろうと思ってはじめたのが『GOOD ROCKS!』なんです

野心もヤマッ気も全然ナシ。撮影も取材もデザインも全部オレがやるって、どれだけエゴが強いのかと思ったのですが……

写真を撮ることは昔から好きだったんですけど、ライターの人に文章たのんだり、デザイナーさんにデザイン頼んだりするとお金がかかるじゃないですか。それで「自分でやるしかないな」ってなっていったのが正直なところです

実は消去法の末にたどりついたのが「ひとり編集部」スタイル。この「実は苦肉の策だったパターン」、これからたくさん出てくるので憶えといてくださいね。

ではフクモトさん、雑誌をはじめた目的は何だったんでしょう? 有名人に会いたい? お金儲けしたい? マスコミへのあこがれ?……どれだ!

最初は「カメラマンになりたい」です。ただ、クライアントがいる仕事って制約されるじゃないですか。僕、そういうのが苦手で……たとえばアーティストのCDジャケットを頼まれても、表紙に使う写真を自分で選べなかったりしますよね。それがむちゃくちゃイヤで、「だったら写真クレジット外してください」って言っちゃったり……それで自由にやれる方法を探していくと「自分でやるしかない」という結論に辿り着いたんです

創作に関しては、誰にも口出しされたくない。自分の聖域を守りたい。そのために雑誌(メディア)を作ってしまうというモチベーション。

では実際どうやって創刊に至ったか……専門学校卒業してお金をためた ⇒ ファッション誌の編集をやりながら7~8年で600万円ためた ⇒ 雑誌を作るためのハウツー本を買ってきた ⇒ 創刊号は2,000部作った ⇒ 作ったら売るしかない ⇒ 営業は本屋への飛び込み ⇒ ほとんど門前払いを喰らった ⇒ それでも一店一店、地道に開拓していった……これが現実ですよ!

「俺は将来、雑誌を作る!」ってことを周囲に言いまくってて。それで「あいつ、いつやるんや?」ってなったんです。だからもう引くに引けなくて、思い切ってはじめたところはありますね。20代前半からずっと言い続けて、結局『GOOD ROCKS!』を創刊したのが27歳のときでした

有言実行というか、有言しまくった挙句、実行を余儀なくされるという展開。自分を追い込むためにも有言、大事ですね。

しかし創刊から13年、その間、数々の苦難がフクモトさんを襲います。その突破の仕方にBOYSたちから驚きの声が!

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(苦難その1)流通会社が倒産して何千万の借金。もう無理だ~!

流通(本屋に本を卸してくれる問屋。ここに本を卸せば1店1店本屋と取引しなくていいからラク。というか日本の本屋はほぼ流通を通した本しか扱わない)のことを知ったフクモトさんは、とある流通業者に『GOOD ROCKS!』を託しますが、そこが2008年に倒産。フクモトさんも何千万円という借金を抱えます。そこで「もう無理だ!」と思ったときに、別の出版社から「うちから出さない?」とオファーが。これが優良出版社で、そこから『GOOD ROCKS!』はV字回復していきます。

(苦難その2)それでも予算が逼迫。カラーも無理だ~!

当時はカラー印刷で大判だった『GOOD ROCKS!』。ところが印刷費が高すぎるので、泣く泣く白黒雑誌に、しかも判型も縮小。しかし逆にカラー全盛の雑誌の中でモノクロということが雑誌のイメージとして定着。すべては苦肉の策にもかかわらず、なぜか毎回それが好転のきっかけに。ちなみにモノクロ化&小判化で印刷費も1/3程度になったとか。いいことづくめじゃないですか!

で、今回一番聞きたかったこと。現在、本屋やレコード屋がどんどんなくなっていく世の中で、どうして『GOOD ROCKS!』は生き延びていけたのでしょう? どんな戦略をとったんですか?

よく雑誌不況って言われるけど……『GOOD ROCKS!』はたぶん雑誌じゃないというか、あまり関係ない感じなんです。大部数の雑誌は売り上げが激減したかもしれないけど、うちは昔から少部数だったのでほとんど影響がなくて。逆にSNSが浸透したおかげで、むしろ売り上げは右肩上がりなんです。SNSによって無料で宣伝ができるようになったし、amazonとか通販で売れるようになって。あと、海外ですね。日本の俳優やミュージシャンで海外で活躍してる人は多いので、海外のファンの人がインターネットで買ってくれます。だから時代的には逆によくなってきたというか。何十万部も刷る雑誌じゃないので、ある程度固定ファンをつかんだらそれで成り立つんですよ

『GOOD ROCKS!』は広告に頼らず実売で成り立たせてきたので、雑誌不況で広告が入らなくなっても大丈夫――ってわけでもないんですか?

そもそも僕、広告のもらい方っていうのがわからなかったんです。そしたらいつのまにか「広告を入れない雑誌」みたいなイメージが付いちゃって。お客さんからもそう見られるようになったので、今更変えられないな、と。別に「広告を入れない!」みたいな信念があったわけじゃないんですけど……

え、広告のとり方ががわからなかった!? 知らないゆえの強さというか、ピュアゆえに雑念が混じらない創作意欲。結果、部数が少ないのでバックナンバーが勝手にプレミア化していくという好況に……フクモトさん、紙媒体にこだわり続けてよかったですね!

いや、紙媒体へのこだわりもないですよ。来年にはやめようかなと思ってます。紙で出してるのはウェブでのやり方がわからないだけで、でもそろそろネットに移行しないとダメだろうなって。ネットの方が自分のやりたいことを表現できそうだし、紙は……自分に合ってないなぁ(笑)

え、100号出しといて紙は自分に合ってないって……もう、ウケる~~!

もしかして世間知らずぐらいの方が、時代や状況に左右されなくて強いのかも。フクモトさんの奇跡の軌跡を聞いていると、なんだか勇気がわいてきます。フクモトさん、これまでサバイブしてこれた秘訣って何だと思います?

音楽雑誌って結構ガチンコでいくところあるじゃないですか。インタビューとか、相手に嫌われたり怒らせたりしても面白い話が聞ければいい、みたいな。でもうちはそうじゃなくて『好かれなくてもいいから嫌われない』っていうスタンスで13年間やってきたんです。そこかもしれないですね

うーむ、たしかに低姿勢。写真のトーンはソリッドなのに、物腰はめちゃくちゃソフト。だからROCKではなく『GOOD ROCKS!』。1169=いいロック、なんですよ。

僕は雑誌を出すのに出版社に入るのではなく、自分でやることで「いきなり編集長」という形でやれたので、あまりレールのことは考えなくていいんじゃないかと思います。僕も33~34までバイトしてたんで、年齢も考えず、やりたいことをやった方が後悔しないんじゃないでしょうか?

なんだかやけに説得力のあるフクモトさんのメッセージ。あまり考えなくても歩んだ後に道はできる。信じるも信じないもアナタ次第。うーん、無欲で快進撃を続ける『GOOD ROCKS!』、この先の、わらしべ長者ばりの「苦肉のミラクル展開」も気になるなぁ~。

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2019.9.30@HFM

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