#7 映画監督・江口カン「あきらめの悪いおぢさん」(2019.11.1&8&15)
カミガキ談(広告も映画も食も楽しんで生きるBOYS!)
それにしてもいいですな、このおぢさんっぷり。鬼の映像ディレクター江口カン、さすがに怖そうオーラが出ております。
あ、笑った。笑うと意外とカワイイんです。ギャップ萌えってやつですよ。
そして、アホ面。アホとか書くと絶対怒られる……しかしいつまでも見つめていたい、このおぢさん感。ということで今回の会議相手は映画監督でありCMディレクターであり、つまるところ映像作家の江口カンさん。私が愛する「おぢさんクリエイター」界の目下ナンバーワン。あまりに内容が濃かったため、会議も初の3回シリーズでお届しました。
私に江口ワークを語らせると長くなりますが、まずは本題である「映像作家としてのおはなし」に入る前に、江口さんのたぶん本業じゃない方の仕事を片付けておきましょう。広島的には最初はコレかな?
これ2012年だったんだ。「おしい!広島県」。映像はもちろん、広島県観光PRのブランド構築アドバイザーを担当。話題になりましたね。改めて見ると映像はコント風味で、実にらしい出来。そしてこの流れの最新形がコレ。広島を「牡蠣の王様=牡蠣ングダム」にするシリーズのセカンドステップ。
江口さん曰く「もはや自己否定。キャンペーンをやればやるほど、今あるものをよく見せようとすることに限界を感じて。それなら魅力的なモノそのものを作った方が広島に来てくれるんじゃないかと思って」ということで、今や牡蠣を使った逸品を作るグルメ活動まで展開中。グルメといえば辛さの単位を統一しようと、こんなアプリも開発しました。題して「辛メーター」。
もうね、なにがなんだかわからないでしょ? メシ系の人? この人、ホントは何やってる人? では、おぢさん3人のセルフィーフォト真剣撮影写真を挟んで、ここから本題である「映像作家・江口カン」の話に入っていきましょう!
江口カンは1967年生まれの映像作家。福岡で映像制作会社KOO-KI(空気)を設立。これまで福岡を拠点に活動してきました。
最初に映像に触れたのは高3のとき。「帰宅部で学園祭の出し物やれよ」と言われ、金持ちの友達が「ウチ、ビデオカメラ買ったからこれで映画でも作ろうよ」と言い出したのを機に江口少年、監督役に名乗りをあげます。クラスで一番いじられてるシバトウくんをロッキー役に仕立て、階段を走って昇って「エイドリア~ン!」と叫んでフラれる作品を撮りあげました。
作品自体はつまんないんだけど、「これめっちゃ面白いな~」って思って。「この世界だったら俺、この先、楽しんで生きていけるな」って思ったわけ
映像の楽しさにハマった少年は九州芸術工科大学の画像設計学科に進学。そこでサルのように映像を撮りまくります。当時はMTV全盛期。『ベストヒットUSA』。糸井重里、川崎徹がいてCM界も絶好調。そのとき江口さんがハマったのが、ビデオアートの創始者ナム・ジュン・パイク。いわゆるひとつのビデオインスタレーション。江口さん的には、寮のダチにテレビを持って来させ、講堂に大量に並べてワケのわからない映像を流して悦に入る80'sでありました。
そうこうしてるうちに仕事が舞い込むようになり。普通にバイトするよりギャラが全然いい。「これ、食えるな」……ということで卒業後、気付けばフリーの「映像屋さん」の道へ。
何でもやってましたよ。自分の好きなことをやって食えるって最高だなと思って。その流れで今、みたいな(笑)
江口さんのキャリアはわかりやすい。30歳で映像制作会社KOO-KI(空気)設立、40歳でカンヌ広告映画祭初受賞、50歳で初監督映画公開。10年おきに波が来る。事務所設立当時は映像周辺で新しい風が吹きはじめていた。
その頃は俺らみたいなパソコンで映像をチョチョッと作って「イケてる感じで~す」みたいな会社は地方にあまりなくて。ただ、Macが普及したことで世界同時多発的にそういう集団ができはじめてて。それが東京の人にとって面白かったみたいなんだよね。「え、福岡なの? 福岡なのにそこまで作れるんだ?」みたいな。おまけに仕事振れば打ち合わせに福岡行けるし(笑)。それで仕事が来てたところはあると思いますよ
気付けばCMの仕事が来る。「福岡に面白い映像作れるヤツがいる」というウサワは、みるみるうちに広がった。ということで、ここから私の好きな江口カンCMワークスをいくつかご紹介。
あー、くだらない。一回思わせぶりな仕草する演出とかズルい。
これは後述の「G'S」にもつながるアイデア勝負。ありえない設定とそれをガチのアクションで見える化させる力技のバランス感。
これはひとつの金字塔。明らかに金かかってる怪物の作り込み⇒大振りのオチ……江口ワークの真骨頂じゃないでしょうか。
ここからは発言に応じて紹介していきましょう。
僕もちょっと仕事が来なくなると「前回が俺のピークだったんじゃないか?」って思いますよ。ドキドキしちゃう。やっぱり大きな潮流はありますからね。同じ時期に同じような仕事のオファーが来たり。カンヌを最初にとった(NIKE「COSPLAY」)後は、もう走る企画ばっかり! 別にそれが得意なわけじゃないのに、たぶん「走る企画といえば、この人じゃない?」みたいに適当に決めてるんですよ
江口さんは3年連続でカンヌ入賞を果たしますが、銅・銅・金の最初の銅がこの作品。
ムダに役者キレキレ。音楽も超チープ。これも「アイデア+テクニック」の高次元作品。
アイデアは出るときもあれば出ないこともあって。ただ、頭の中をそれで「ひたひた」にしておくというか。とりあえず頭の中を「ひたひた」にしておかないと、たまたまテレビで目にしたことが「これ、結び付くんじゃねえ?」って思えないじゃないですか。でも結局はポンと出たアイデアが一番よかったりするけどね。考えすぎるとだいたい「ひねりすぎちゃったな」ってなることが多いから
その江口CMワークの最高傑作が、カンヌ金のコレでしょう!
数字のトリック。本物の恋人同士を引き離し、東京~福岡をガチで走らせたストロング演出。やっぱり、くだらないオチ。それも下ネタ。視点は大人げなく低く、技術は容赦なく高い。何度見てもホレボレします。さすが世界一の完成度。
こちらは最近の代表作。大オチの「神スイング」は大きな話題になりました。ちなみに江口さん、「神スイング」がバズる様子は小マメにチェックしてたとか。
俺はアーティストじゃないと思ってるんで、とにかくたくさんの人に観てもらいたいというのがあって。思ったよりも観てもらえないと単純にヘコみます。だって……めっちゃエゴサーチしますから(笑)。それはめっちゃ楽しいし、キツイこと書かれても「あ、そんなふうに感じるんだ」って発見があるし。一番イヤなのはツイッターとかで調べてもあまり出てこない時。批判めいたことでもあるに越したことはなくて。とにかくエゴサーチはします
あの風貌でエゴサーチ……そんなCM業界で野心作を次々と輩出してきた江口さんですが、50歳を機に映画の世界に入っていきます。
映画のオファーはちょこちょこあったんだけど、最初は俺が映画撮れるとは思ってなくて。全然自信なくて「ムリです」って言ってたんです。だけど僕のCMやWEBムービーはわりとストーリー性があって。ずっとやってきた自分の腕を試したいという気持ちと、ずっと福岡でやってきた自分のことを真剣に考えて、消費されるものじゃなくてずっと見てもらえるもの、そして自分の真ん中にあるものに立脚した作品を作りたいと思うようになったんです
第1作は『ガチ★星』(2017)。再起をかける40代ダメ中年男の奮闘は、50歳直前で映画界という大海原に飛び込んだ江口さんの姿とシンクロして見えます。もがけ、もがけ、もがけ。
第2作『めんたいぴりり』(2018)は福岡という街のルーツを掘り進み、それを発信。福岡人の福岡人による日本全国に向けた朝ドラ・ドラマ。
そして第3作『ザ・ファブル』(2019)。岡田准一、鈴木文乃、山本美月、福士蒼汰、柳楽優弥、向井理、佐藤浩市。超メジャー作品への殴り込み。
ということで、現在はじわじわと活動を映画方面にシフト中。さて映画とCM、その違いは?
まったく同じこともあるんですけど、やればやるほど違うところもいっぱいありますね。やっぱり映画は「売り物」なわけで。売れることも含め、俺のエネルギーで突破しなきゃいけないな、と
無料で観れるCMやWEB動画と比べ、商業映画には金銭が介在します。千いくら払ってもらえる価値を生み出せるか否か。では、そんな江口さんが一番意識してる映像作家や映像作品って何なんでしょ?
僕がいま一番観てるのは韓国映画ですね。もうだいぶピークは過ぎたけど、それでも面白い。「日本はハリウッドには追い付けないけど、韓国には追い付けるんじゃないか」って思ってたけど最近またどんどん離されてて。彼らは圧倒的に世界を見てるんです。韓国国内だけで消化されるようなものを考えてないから、テーマ性とエンタメ性のバランスがめちゃくちゃいい。あれは理想かな。韓国は80年代くらいから映画とかK-POPとか国がエンタメに力を入れはじめて、地べたなところからしっかりやってて。日本は地盤沈下してることに気付いてもいないじゃないですか。だから個人でやるしかないんですよね
そしてもうひとつの気になる大敵。魔人コンプライアンス。
コンプライアンスが表現をシュリンクさせてるところはかなりあると思います。映像は拡散するチカラが強くて、みんなそこにビビりはじめて。でもそもそもコンプライアンスなんて、日本以外にもあるわけです。アメリカだって実は厳しいんです。『ソーシャル・ネットワーク』(2010)って映画があって、あれはFacebookって社名もマーク・ザッカーバーグって実名も出てるけど、マーク・ザッカーバーグに許可とってないらしくて。これは作り手側からすると、許可をとりにいくことで「コンプライアンスを守るけど面白くない映画」になってヒットしないより、たとえ訴えられて賠償金を払っても、面白いものを出してヒットした方が儲かるっていう計算みたいなんです。つまりアメリカでは表現の自由が一番大切にされてる権利なんですよ。それって日本とまったく逆じゃないですか。今の日本は表現の自由が一番下、すべての犠牲になるのが表現の自由でしょ?
そんな江口さんに、広島のクリエイティブの塩梅を聞いてみました。福岡、東京、いろいろ見てる江口さんだけに感じる部分はあるのでは?
福岡は福岡の中だけで完結しやすいシステムができあがってるんで、最近は「海外で活躍してます」みたいな人をあまり聞かないんです。悪く言えば、ぬるま湯でハッピー。広島はそれに比べると、尖ってる人は尖ってる。僕は業界の人間同士でつるむのが苦手なので、あちこち行ってる方が健全だと思います。内輪だけでやってると、自分がやってることが面白いか面白くないかわからなくなる。あちこちで仕事することで自信も生まれますから
移動ノススメ。若者よ、安住するな、いつも飢えてろよ。では最後に、ものづくりをする上で一番大事なことって何ですか、江口さん?
最近、大学生やそういう子を持つ親から聞かれるわけ。「ウチの息子、映像を作る職業に就きたいんですけど、やっぱり普段から映画とかいっぱい観てるんですか?」って。俺、意外と映画観てないんです(笑)。でもひとつだけ言えるとしたら、粘り強いこと。この仕事はメンタル強くないと、とてもじゃないとやっていけない。才能や技術、知識はあって当たり前。そこから先はメンタル勝負。言葉としてはダサいけど、どこまでもあきらめないことが大事じゃないかな
制作中は常に「ひたひた」、コワモテでも内心は「ジタバタ」。あきらめの悪いおっさんずラブ。フテブテしさと女々しさの両端をむんずと握りしめ、個人的にはひとまずどこかで「江口カンCM作品集・解説付き上映会」やりません? POWER TO THE おぢさんずクリエイション!てな感じで!
2019.10.11@HFM