ただ居る記。第1回
喫茶スペースにただ居る事になった。
平日昼間の喫茶スペースがお客さんがいないので、何かやらないかと言われ、あんまり何も思いつかなかった僕は「ただ居るってのはどうです?」という事になって、「それいいですね」って事になり、なんとなくあわてた僕は「でもただ居るのも何ですし、じゃあ占いでもしますか」という事になって、それで、今日から居ることになった。
で、今いる。
北千住からあるいて8分くらいの場所。窓からは電車が、多いときで三種類が同時に見える。地下はフリースペースになっていて、なんらかの公演をよくやっており、この喫茶スペースはあるときはロビーにもなる。同時に広いスペースもあり、稽古場としても利用されている。
そこの、木の机。中学の工作室にあるような、畳くらいの大きさの机で、ちょくちょくペンキ跡があるので、やはりこれは、美術室か何かで使われていたものではないのか。
その机に、タロットカードを広げて、「居る」を完了させた。写真も撮った。
なかなかの居っぷりではないのか。
ふと、タロットをやるよっていう名目がなかったら、僕は居れなかったんじゃないかと想像する。あるいは、コーヒーを頼む。コーヒーを飲む。「居る」には、これらの「何かしている」がないと、なかなか難しかったのではないか。
「何もしないで居る」は、自宅でも困難な事だ。
自宅でも結局「テレビを見ている」「ラジオを聞いている」「寝ている」「お菓子を食べている」と、何らかの行為がセットだ。「ただ居る」事の困難さ。最近はスマホがあるからいい。でも、スマホもなく、テレビラジオも自由ではなく、寝るやお菓子ってわけにもいかない空間っていうのは。
あ、実家か、と思った。
いやスマホはあるが、なんとなく家族の前でスマホばかりやっているのもなんだ。そう考えると、実家を出る前、小中高校幼稚園、三校一園に渡り、僕は実家で何をしていたのか。今となっては全く思い出せない。
ただ居たことを、人は思い出すのが、難しいのかもしれない。