ただ居る記。第2回
先週、「ただ居る。」をやってきた。驚くべきことに、ただ居るだけの僕に会いに来てくださった方が二人もいた。ただ居る。ただ居る僕に、話しかけてくれる。こんなにありがたい事はない。
今回はそのドキュメントと思った事など。
水曜日。僕は初めて、ただ居た。
ただ問題があった。遅刻したのだ。
「ただ居る」をするのに、遅刻をしてしまうとは! 小走りで雨の北千住を早歩き。ひいひい言いつつ13時やや過ぎに、ただ居る場所にたどり着く。BUoYの喫茶スペース。地下のアートスペースでは何らかの催しの準備が進んでいるらしく、活気を感じつつ。
カウンターであたたかいコーヒーを頼む。一口飲んで「かぁあ」と。肌寒い雨の日の体に染みる。お酒飲めないんだけど、すきっ腹に熱燗てこんな感じなのだろうか。
4つある大机の端に陣取り、敷物とタロットカードと厚紙で作った看板を並べて、「ただ居る」準備は整った。
そして、ただ居た。
僕の他にお客さんは一人。パソコンで作業されていた。下の階で作業されている人の一人なのだろうか。それ以外は特に人が来ることもなく、ただ居る。雨曇りの薄暗く落ち着いた中、僕はただ居て、パソコンで文を書く。ただ書く。
僕にとって、「ただ居る」とは、書く事だったのかなあ、と思いながら、前々からちゃんと整理して書きたいと思っていた事……1か月前のゲームマーケット(山本は今次回作のためにボードゲーム研究をしている)の話や、ゲーム会に参加した事、「これはゲームなのか?展」についての事を整理していくが、困ったことがあった。電源がない。
電源から遠いところに陣取ってしまったため、パソコンの内臓電源があと1時間となってしまった。
あと1時間か……。とこの時14時。あと1時間で、文章が書けなくなる。それは突然、地球があと数日で滅びますよと言われ、「はあ、そうですか」といわれてぼんやりするような、「ただ居る」だった。そういわれるとなんか何も書けなくなって、パソコンを閉じて、ぼんやりする。スマホでツイッターを見たり。何もしなかったり。
すると、一人の方がやってきた。「ただいらっしゃると聞いて」。驚いた。たいした広報もしていなかったのに、ただ居る僕を見に来てくれた方がいた!
その方は、本当にただ僕の告知ツイートを見ただけでいらっしゃってくれた方だった。お姉さん、という感じの女性で、しゃべり方振る舞いも品よく。とはいえ僕は、欲枠考えれば名前もうかがわず、どこの誰か、分からないまま、お話をうかがった。
「庵のような、サロンのような、人の集う場を作るためにはどうしたらいいか」という事を考えているうちに、ただ居る僕に会いに来てくださったという。ああ、いいなあ、そういうの、と僕も同意する。
話はそこを入口に多岐にわたる。女性は、「人の話を垣間見られるような場所や催しもあったら面白いですね」といい、それも面白そうだと。演劇の公演に近いような感じもするが、例えば「恋人」役の二人をこの場所に仕込んでおいて、その恋人同士の会話を、この場所に来たらひたすら「公然と盗み聞き」してよい、みたいな……。
舞台に近いようで、おそらくはちょっと違う。ディズニーランドのグリーティングみたいなものだろうか……? ただ、カップル同士の日常のヤマのない話を、公然と盗み聞きできたらさぞ楽しかろう。それが本物でなかったとしても。
こういう企画、この場所でならできるかもしれない。今後も僕がこの場に「ただ居」続けてたら、特別企画として俳優を雇ってやるかもしれないなあ……。
もう一人、尋ねて来てくれた方は、僕がその女性と熱心に話し込んでいる時にやってきた。窓側の席に移り一人していたが、女性が去って僕がぼんやりしていると「ただ居るんですよね?」と声をかけてくださった。遠慮されていたのか!! と少し申し訳なくなる。と同時に、本当にありがたいなあ……としみじみ。
女性もまた、ツイート告知を見てやってきたのだった。「何か面白いんじゃないかと思って」。ありがたい……「ただ居る」のを面白いと思って下さるとは。とはいえ、本当にただ居るだけなので、つまらなかったらどうしよう、と思うのだけど、積極的に何かしようとすると、それはそれで壊れてしまうものなのか。
女性が受け上手、相槌上手のため、うれしい僕はぽんぽん話をしてしまう。会場ではここの責任者の方が雑誌の取材を受けていて、記者の方やカメラマンさんが入り、少しだけ活気づいている。そんななか、いろいろ話す。
また僕は、相手の方がどんな方なのか、どんな名前なのかも聞くことなく、もろもろの話を聞いた。なんか、相手の名前を伺うのを僕は良く忘れる。
だけど、「ただ居る」時には、それでいいと思った。相手が何者なのかという識別と特定のための記号を伺うのは、「ただ居る」人が知るべきものではないと思うのだ。
その方と会場終了の時間までじっくり話して、「ただ居る」初日は終了した。
占いもできた。大変喜んでくださった。占いって、実は雑談のための最適なツールなんじゃないかと思う。占うためには現在の話、過去の話、そしてなにより、未来の話もおのずとする。そうした話を、占術のツールはツッコミを入れたり、評価を下したりする。まして、僕がやる、といううさん臭さがいい。
かくして、ただ居る。の初日はこうして終わった。取材を受け終わった会場のBUoYの方に報告すると「毎週水曜日にやったらどうです?」と言われ、じゃあやります、と答える。
ただ居る事が出来た。
来週から、毎週いてみよう、と思う。
ただ居る。ただ平日、昼間、そこにいる。これはなかなか、楽しいと思った。