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早稲田どらま館企画『えんげきの”え”』の「観察」の一日目


◆自己紹介と経緯

 こんにちわ。
 The end of company ジエン社という劇団を主宰している、山本健介です。

 このたび、早稲田どらま館の企画『えんげきの”え”』という企画で使われる、15分くらいの演劇の脚本を担当することになりました。(下記リンクで公開されています)

 で、さらにですね、その企画で、何をやっているのか。「観察」という役目を任されまして、今回はそのレポートです。詳しい経緯は下記リンクにて。

 そんなわけで、下からがその「観察」の見聞録になります。

◆企画初日が始まりました

 正確に言えば、一か月前、「ハラスメント講習」で全体の集まった会の7月7日が初回の集まりでした。
 講習後に集まり、脚本はその時に配布。
 チームによっては、その後、グループチャットで連絡を取り合い、配役や方針を話し合っていたそうです。

 なので、脚本は参加者は一か月前から見ている感じ。
 集まって稽古する初日が、今日、と言う感じです。

 参加者の皆さんは10時に集合し、朝から打ち合わせや連絡事項などをしていた様子。
 一方私は、前の用事を終わらせ、15時10分に稽古のメイン会場の一つであるどらま館に到着しました。

 タイミング的にはBチームがどらま館稽古をしているところでした。

 そろりそろりと、劇場に入ると、どらま館は「フラット」「横使い」にセッティングされていました。

本来客席があるところも平台が敷かれている仕様に

 それで僕は、運営チーム溜まり席として用意された、下手の端に用意された席に居ました。

 図面上では目立たない位置とは思いつつ、やはり、ちょっと、目立つのではないか……。同じ空間にいるわけだから、なかなか存在感が、消えない。

 とにかく山本は、静かにしよう、反応しない様にしよう。脚本書いた年上の人が、何かを発するだけで、影響を与えてしまう、それを恐れておりました。
 無になろう、視線も送るのもあれだ。あと誰かの発言に頷いていると、「あ、聞いている!」と思われても影響してしまうかもしれない。観察者は……無だ。無になるのだ。無になる事を意識して、稽古場に居ました。

◆Bチームの稽古の様子

 そんなわけで、Bチームの観察。
 ちょうど僕が入っていったタイミングでは、シーン6の後半を稽古していた。「うどんさん」という登場人物が、他の登場人物のやり取りのさ中、荷物を運搬するというシークエンス。

 ト書き的にはたしか、
「うどんさんの運ぶ物の中に、一つ、極端に大きく重く、明らかに人が入ってるような荷物がある。うどんさんはそれを社長室から運び去っていく」
 というところかな。

 厳か。
 とても、おごそかーに、荷物が運ぶシーンが展開される。わあ、俺、申し訳ない。俺こんなに、雰囲気の暗い怖い話を書いていたのか。
 このレポートも稽古場で書いていたのですけど、タイピング音が気になるのではないかと思うくらいの集中力だ。俺、邪魔になってないかなあ……。

演出を担当していた中嶋さん、言葉遣いが丁寧。「お願いします」と、ひとつひとつの演出の言葉、物腰が柔らかい。
 繊細だ。やりとりが、とても。

◆荷物を運ぶシーン

 脚本で書いた想定では、荷物を運ぶ「うどんさん」は、他の登場人物の都合お構いなしに、むしろ進行しているセリフを邪魔するくらいの勢いで荷物を運んでいるーみたいなイメージで書いたけど、このチームの演出は繊細に、セリフの隙間を縫って、「荷物を運ぶ」人を見せている。

 ちゃんと人に、荷物を見せている所を見せ、セリフとバッティングしないようにという意図が見える。
 発表の後の振り返りで語られていたのを聞いたけど、かなり意図的に、とあるシーンでは荷物を移動させている時に間を発生させていたとのこと。

 丁寧に、時間をかけて、人が存在し、移動している所、そのために発生する時間を表現したかったのだなあ。

◆「触れる」のト書きについて

 さて、稽古はそのシーンの核心となる箇所にさしかかっていた。
トマリト、ゼタに触れる。」というト書きのシーン。

 この「触れる」というト書きに対して、演出の中嶋さんは「どうやって触れたらいいかを考える」会を開いていました。
 重要なシーンという事で、演出のトップダウンではなく、俳優と話し合うという感じ。

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 ここから回想。 
 これ、実は何度か今回のために戯曲を書いていて、そのテスト稿をイベントを開いて学生の方にも見ていただいたのだけど、この「触れる」というト書きに、反応を貰う事が多かった。

「触れる、って、どうするんですか」

 と問われ、私はまさかそんなに「触れる」に悩むとは思わなかった。
 さらにその時、読んでもらった人の中から、
「もし自分が演出をする場合、俳優の人に「触らせる」という指示をするところに申し訳ないさを感じる」
 と感想を貰った時、とてもびっくりした。

 ト書き。「触る」と書くことが、そんな問題になると思って書いてなかったんですよね。
 強い言葉で言えば、私は脚本を書くという「加害性」に無頓着だった。
「触る」というト書きを書くことに、これほどの暴力性を感じるっていうのを想定してなかった。

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 そして、このチームも「触る」に悩む。とても悩んでいた。

 まず、「どういう触れ方にしようか」と悩む。
 俳優(上牧さん)が「お互い(俳優として)触っていい場所を出し合うのはどうでしょうか」と提案。
 それで休憩をいれつつ、「触る」について考える間を入れながら……。

 その休憩が、すごい静か。
 すごい悩んでいるのかしら。それとも、俺がいるからか……? いや、稽古初日、ほぼほぼ初対面で、手探りで、稽古場の居かたとかも、探っていた時間なのかもしれない。 

 で、稽古再開。
 触る、触らないの箇所は、俳優間では「どこでもOK」という話になる。
「顔を触るのはいいんじゃないか?」「顔ってあまり触らないよね」「耳に行くかも」「人の耳って触らなくないか」など話し合いを経て、いくつか触り方を練習してみるが……。

 その過程で、「マネキンがほしい」。という話になる。

 そうか。練習台として、生身の人間だと、むずいのか。

「練習相手として人を雑に扱う」という事に対して、それが「人間」であるとあかん、という事が共有されている感じする。

◆対話は続く

「どういう意図の触り方なのか。挑発なのか?」
「挑発って意味ならどうなるのか」
「お客さんに強い印象を残したいなら、印象の強い部位に触るのがいいのか?」
 と議論が進む中、演出の中嶋さんが
「例え俳優の二人の同意があっても、強い部位を触らせることに対して、演出家としては抵抗がある。」
 と話す。
 この感じ、感覚を稽古場で話し合う事が、この班の発表のトーンになっていくの、きっと作品の方向性を形づける事になるんだろうなあ。

 この話を受けて、俳優たちがアイデアを言っていく。
 たとえば、印象の強い部位を触らなくても、その立ち方や構図でドキっとさせるのはどうか、とも。

 様々なアイデアが出るが、演出助手の小島さんより演出の中嶋さんに、
「達成されたい状態はどんな感じ? 観客にどう思わせたい?」
 という問いが入る。

演出
「触る」という行為が持っている加害性がある。人のところを踏み込む行為。それを触れ返すのは「純粋な反応」に見える。
 一回目の「触れる」が大きい印象。それに対して「触れ返す」を選んだことが大事。普通は触れ返さない。

演出助手
「選んだ」という返答をした? という解釈であってる?

演出
「受け入れた」とは思わない。やり返した。

俳優
「流された」のではないか? だから「それは嫌です」というトマリトの反応になる。

演出
「流される感じでやり返す」感じ?

俳優
「踏み込んでくる」というのは返してほしいって事ですか?
乗り気じゃないけどのってしまう。自分の事を大切にしてない感じ?

演出
「無気力なやり返し方」中吊りなかんじ。ふわっとやることを、ゼタは選んでいる。

 ……と、こんな感じの、脚本理解のための深い稽古場でのやり取りを、「観察」という名目で、盗み聞きしておりました。

 この「観察」という役割の、役得だなあと思います。
 そしてこの「無気力なやり返し方」というワードが出た時、戯曲を書いた私としては、ニヤリとしてしまってね。
 「やる気がない」というのが、僕の創作の根底のテーマでもあり、何かそこに、響いた感じがあって、うれしいなあと思ったんです。

◆劇作家として「触れる」のシーンの真意とは

 議論は進んでいくのを私はうれしく聞きつつ……。
 そしてこの議論していた部分、劇作家としては、解釈の正解というか、真相を用意してない。

 どういうつもりで登場人物が他者を「触れる」のか。見たいなあ、こうなったら面白いだろうなあとは思いながら、その動機とかは全く分かんない。知らない。人の気持ちは分からないんだ、こっちは。
 その、答えのないところ。脚本上の登場人物が勝手にやっているところを、ただ、見たいと思って書いたところだから。
 
 そして、正解はない一方、間違いもまた何もないのです。
 3チーム、どういう解釈になるのかなあと思いつつ……。
 稽古は少しの休憩と、雑談タイムを経て、動きを付けたところまでを軽く通してみることに。

◆Bチームのフィードバック

 Bチームは、発表の前に動きを付けたシーンを通す。
 まだ深堀していないところや、椅子の位置で戸惑うところ、俳優の出るキッカケがつかめないところもあったが、できているところまでやり。

 そしてフィードバック。
 そう「ダメ出し」というワードは、もう昨今、演劇の現場では使われないのかもしれない。

 今日は一旦「動きをつける事をやりました」とまとめる中嶋さん。
 そして、稽古の進行は「手探り」であること話しつつ、俳優から提案があることに対して感謝を述べる。
 そして初日の稽古の振り返りとして、今後二日間も、こういう感じで「手探りな感じ」でやっていて、確認し、ゆっくりやっていく方針を語る。
 一同はうなづき、同意を形成していきました。

◆ざわ……ざわ……

 発表前休憩ということで、他チームもどらま館に移動。
 発表前のざわざわのなか、サガですね、休憩しつつも、脚本解釈の雑談があちらこちらで。
 他チームもなんとなく耳に入ってきたりして。きっと内心「そうか……奴らはこんなことを考えていたのか……」と思っていたに違いない。聞きながら、ちょっと焦ったりいろいろするよなあ。

◆発表

 毎日の日課になる、ミニ発表の時間に。
 別に、発表は上演という形でなくてもいいはずだけど、自然とどのチームも冒頭から、とりあえず手を付けたシーンまで上演してみるという感じに。

 発表はBチーム→Cチーム→Aチームの順番に。

〇Bチームの発表

 Bチームはシーン6までを上演。
 先の返しランスルー稽古より、テンポ感も上がっていたり。
 客席から笑いのシーンで笑いの後押しもあって、生き生きとしたものにも見えるところもあった。

 また、先ほどの「触れる」シーンは「相手の耳を触り、顔を触る」「ゼタはそのまま、相手と同じ部位を触り返す」という動きになっていた。
 その緊張感と、「相手に触られたことを、そのままやり返す」という演出に、見ている人たちの息をのむ感じも伝わってくる。
 初日に、このチームはこの劇の核となるところを、ゆっくり、丁寧に積み重ねていた。このシーンが今後、どう研ぎ澄まされ、全体を構成していくのか期待。

 発表後、企画発起人の宮崎さんが、次のチームの準備の最中に、初日の感想や手ごたえをインタビュー。
 中嶋さんは、俳優たちの積極的な提案や意見があった事に感謝しつつ、手探りだがコミュニケーションをとって稽古を進めて行きたい旨を話されていた。

〇Cチーム発表

 続いてCチームの発表。 
 シーン0(客入れ前)からうどんさんが出現。また、カツデンテイは資料をめくっては雑に投げ捨てている、という入り方。
 下手に社長室、上手に外への出口と、Bチームとは違う場所設定に。

 このチームの特色として、既に俳優がセリフを入れていて、脚本を手持ちしていなかった。すごい。演出助手の浜田さんはプロンプターとして構えていた様子。だが一度も、ブロンプが入ることはなく、最後まで上演。音響も入れていた。すげー。

 詳細はまた後日、稽古の様子でお伝えするけれど、一つ演出のテーマが通ってる感じ。
 発表後の振り返りでは「戯曲に謎が多い。謎には謎をぶつけよう」とのことで「ノイズ」をキーワードに、俳優にはいかに「不穏さ」が出せるかどうか、試行錯誤していたらしい。

 すごいなあ。初日で、脚本手放しで、動きの演出までつけて完走しきれるんだ、と普通に思った。すごいなあ。

 俳優一人一人が、狙ってる感じも面白かった。例えばうどんさんを演じた内田さん。うどんさんのセリフに「なんで、出られないって思ってるんですか? あなたがたは」とあるのですが、さりげなくその出し方、観客のほうにもかかっているかのように言葉の方向性を向けている。
 狙ってたなあ。観客に言いたいんだぞ、感。狙ってたなあ。
「不穏」というキーワードの中で、俳優たちがいろいろ狙っている感じがして、とてもスリリング。

 戯曲が用意し、時として罠のように設置していた様々なポイントに、ひとつひとつ応えてくれたような印象。
 それを現実世界に目の当たりにすると、書いた本人でも面食らう新鮮さがある。
 こんなものが、この世で見られるとはなあ、って、とても面白かったです。いろんな人に見せたいです。これを。

 今後はこの「不穏さ」「虚無」が、この劇にとって何なのか、その意味を詰めていくみたい。

 ちなみに、Cチームのランタイムがおよそ29分。
 脚本書いたときは、15分くらいの想定だったんだけど、ト書きの「間」を丁寧に、そして面白く使うと、それくらいになるんだなあ。

 いやでも、初日でこれだけ作れる、立ちあげられるんだから、うれしかった。この企画に来る人々を信じて、訳の分からない戯曲を書いてよかったです。

〇Aチーム

 最後はAチーム。
 このチームも随所に工夫があり、まず中央に椅子に座る人は「観客に背を向ける」。これは、中盤で別の人物が椅子に座る時も、観客に背を向けるということで、そういうルール、世界観にしているみたい。

 他のチームに比べ、会社員の二人(ゼタ・カツデンテイ)の二人は険悪な印象でのやりとりに。

 このチームも、下手が社長室、上手が入口という設定にしてあるが、「窓の外を見る」というト書きに対応する「窓」は、舞台奥に設定してあった。これは、他のチームにはない演出解釈。
 
 劇が始まると、これまた、他では見なかったトマリトの造形。脚本の段階でも、トマリトという人物はある種の「ヤバさ」を込めて描いたけど、そう、ヤバさって、こういう方向性のヤバさってあるよなって感じを、俳優の谷田部さんが演じる。

 この人物解釈の違いが、チームごとにかなり鮮明で、本当、3チーム比べて見る喜びはありますよ!

 他のチームよりテンポよい序盤。まったくテイストの違う演劇に見える。同じ戯曲じゃないみたいだ。
 また、このチームの「触る」へのアプローチ、というか、現れて見えるものが、明らかに違う。
 これはぜひ、4日の発表を楽しみにしたいところ。

 脚本を書いた身として注目したのは、
トマリト「……私、何やってんだろうなあ」
 と言うセリフの扱い。先のCチーム、Bチームは、このセリフにウエイトを置いて立たせている演出。
 こちらのチームでは、人物の去り際に、流れるように、聞き流させるようにセリフを言わせている。
 この扱いの違いの面白さ。おもしろいなあ。
 
 また、ト書きに書いた、
うどんさんの運ぶ物の中に、一つ、極端に大きく重く、明らかに人が入ってるような荷物がある。うどんさんはそれを社長室から運び去っていく。
 
と言う箇所を、このチームはトマリトとゼタがやり取りをしている中で、同時進行でやる、という事を選択した。

 重そうな荷物を後ろで、目立つように運びながら、その手前では、二人のシーンが進行している。それがオーバーラップするような作戦。これも、研ぎ澄まされたらどんなシーンになっていくのが、期待が膨らむ。

 ここのチームも、シーン6の終りまで。
 発表後の振り返りで、どのように今日は稽古したのかという話に。
 演出を担当した工藤さんによると「事前につかんできた戯曲の解釈が、みんなと一致しているかを確認しながらやってきた」とのこと。
 また、カツデンテイを演じた工藤吹さんは「パワハラの演技って難しい。パワハラの仕方がネットのどこにも書いてない」と話してくれて面白かった。
 たしかに、自覚的にパワハラをやるって、なかなか人はないのかもなあ。ハラスメントって「無自覚」だから起こりえることで、それを自覚的にやってみようとすると、難しい。

 こういうのも、稽古をしてみて発見することだよなあ

◆終わった後、ランダムチームに分けて雑談

 すべてのチームの発表が終わった後、各チームで適当に1から6の数字を振り、その数字の人同士で「雑談してください」という他チーム間交流の時間が設けられた。
 欠席者が数名いたため、山本もその輪に加わる。
 早速、かく輪では、稽古の進め方の差異とか、解釈の違いなどを話し合っていた。

 僕はAチームの助手の中西さんと、Cチームでゼタ役だったほたかさんと話しつつ「まず稽古の最初に何をしたの?」とか「どういう感じで上手下手の設定や、窓の位置を決めたの?」と質問。
 僕の知らないAとCの動向だったけど、Aチームはまずラジオ体操を、Cチームは「輪になって手をクラップするやつ」という、多分アップ稽古の奴をやったと聞いて、そうか、まずみんな、儀式的な何かから入るんだなあ、と思った。

 また、どういう感じで窓位置など決めたかは、「無意識で……」「なんとなく……」という話が出て面白かった。

 無意識が、全チームで違うのか。

 その、無意識不一致が起こるのは面白い。この戯曲で「上手は××、下手に○○があり……」と指定しなかったからそうなるんだけど、そう書かない限り、「自明な何か」って出現しえないんだなあ、と思いました。

◆初日を終わっての感想

 そんなわけで初日が終わりました。

 いや本当、戯曲を書いた立場としては「小難しい戯曲を書いて、本当よかったなあ」という感想です。信じてよかった。よく、立ち上げてくれたなあと感謝です。発表、どのチームも面白かった。

 面白いだけではなく、解釈の違いで、これほど色が違うものになるとは、正直想像もしていなかった。同じ脚本を3チームが同時に稽古して、それを並べて見る、というのは、通常の演劇体験ではできない事で、これは多くの人に企画を見届けて欲しいものです。

 残り3日で、今日の各チームがどう進化していくのか。観察と言う立場で楽しく見届けていきたいと思っています。

 そんなわけで、初日の現場からは以上です。また明日に期待していますー。
 
2日目の様子はこちら↓


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