小伝     担当:佐々木秀彦

『一人の人物やその思想を理解しようとするならば、まずその人の性格、その生きてきた環境、そしてそこでの、その人の反応態度を見つめてゆかねばならない。』

中村天風『運命を拓く』の本の中、『天風小伝ーまえがきに代えて』で杉山彦一氏が書いていらっしゃる一文です。

7月1日に開催された、第11期第1回湧くわく本心塾・潜学講座で、今期全6回に渡って連続でお届けする講座「中村天風『運命を拓く』」の第1回を担当させていただきました。

『先哲を学ぶ』とよく表現されるように、過去の偉人、哲人を学ぶということで、その経歴を追いかけることに終始されていらっしゃる場合がよくあります。これは義務教育の歴史の授業で、そういうのが『勉強』とされて、経歴を暗記することで高成績を修めることができたことを、そのまま踏襲してしまっているのだろうと推測できます。

人物から『学ぶ』場合、上記引用文が全てだと思います。そこで、第1回の潜学講座で僕は『朗読劇』という手法を取り入れてみました。本を読む場合は五感の『視覚』のみから情報は入ってきます。ここに『聴覚』からの情報を加えることで、さらに大きな価値が拡がるだろうと考えました。

歴史の授業では、人物の感情、性格は無視されて、結果のみを暗記することが大切でした。しかし『人物を学ぶ』場合は、結果以上に重要なのは、感情の流れ、熱意、志、反骨等々、その人の思想を実践している部分だと、僕は考えています。

中村天風師の『言葉』は数多く残っています。『講演録』も探せばいくらでも手に入り、自宅で簡単に視聴することができます。これらの『言葉』だけを学んだとしても意義あることには間違いないことなのですが、ココに、杉山彦一氏がわざわざ本の冒頭に書き残した『天風小伝』をしっかり抑えることで、中村天風師の性格、環境、反応態度という、拡がりをもって、僕たちの心へ響いてきます。

歴史の授業でも、こういう部分を重視した教科書ならば、日本人はもっと歴史が好きになったのだろうと思います。現実日本の公式な史書である『古事記』はこういう部分だけを記述していますので、そもそも日本人にとっての『歴史の勉強』とは、性格、環境、反応態度を学ぶことだったと、考えるのが正しいのかもしれません。


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