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【ココロコラム】強制入院させたり身体的に拘束したりできる資格

「精神保健指定医」という資格について、この機会にちょっと説明しておきましょう。

精神保健指定医とは、幻覚妄想や自殺念慮などで、本人は入院の意志がない方を、家族の同意を得て強制的に入院させることができたり、あるいは入院中に興奮して危険な方をやむなく身体的に拘束する権利を得る資格です。

これがどういうことかというと、要はある人の人権を強制的に奪うことができる資格だということです。

たとえば、これを読んでいるあなたが、ある日突然周囲に「あなたの言っていることはおかしい、病院に行け」と言われ、病院に行ったら「精神病です。入院が必要です」と言われたとします。
あなたは病気だとは思っていませんから、当然それを否定するでしょうし、家に帰りたいですから興奮して暴れるかもしれません。

そこの、精神病であるかどうかをチェックする資格が、精神保健指定医ということです。
逆に言うと、病院側は、精神保健指定医がいないとスムーズな入院ができず、仕事になりません。精神保健指定医はかなり不足しています。

人権に関わるというのがポイントで、国が指定する「指定医」というのは、他には人工妊娠中絶の権利を持つ母体保護法指定医、身体障害者の障害者手帳を作成する身体障害者福祉法指定医の、3つしかありません。

よく、開業医が日本○○科学会専門医と、広告を出していますが、あれはあくまで内科学会などが出している、一種の民間資格で、公的な資格ではありません。

さて、この精神保健指定医ですが、なり方は実はそんなに難しいものではなく、精神科医を3年以上やった上で、8通レポートを出して合格すればいいだけです。
簡単に見えますが、役人が法律的に細かくみる一方、医者は法律文書の書き方を知らないので、合格率は6割ぐらいです。

症例8通というところにもちょっと罠があります。かなりまんべんない症例が求められるからです。
普通に大学病院などで研修していると、だいたい1つか2つぐらい症例が足りなくなります。そうそう、幅広い精神疾患の患者さんが都合よく入院してきてくれるとは限らないわけです。
レポートにできる症例の期間は5年間と決まっているので、症例の時間切れとなり、取得を断念する先生もいます。

それを防ぐべく、症例を使いまわすとか、診てもいない患者さんを診たことにするなどの行動に出てしまうと、これはちもろん不正行為です。
そして、コピペがさらにそれを安易に加速させます。
レポートという形式上、コピペが安直にできますから、先輩のレポートをもらって、ちょこっと改変して、診てもいない患者さんのレポートを書いて提出してしまう。

以前、ある大学で、精神保健指定医の取得に際し不正があったとして、新聞などで大々的に報道されたので、おぼえている方もおられるでしょう。
人権を奪う重大な資格に対する自覚が、あまりにもなかったといえます。

ちなみに、精神保健指定医を持っているかどうかで精神科医としての技量を判断するのは、あまり意味がありません。
はるか昔は自動的にもらえた時代があったので、老齢の先生はみんな持っています。
また、強制入院に関わるだけの資格なので、外来の精神医療が優れているかどうかの指標にはまったくなりえません。
指定医というだけで偉そうにしている先生より、熱心に診てくれる非指定医の先生のほうが、よほど患者さんのためになるといえます。(ちなみに私自身は、精神保健指定医です)

(精神科医・西村鋭介)

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