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余命3カ月と聞いて、わたしは悲観した。

──もう一緒に出掛けることはないのだ、と。


部屋の片付けを任されたわたしは
コートもズボンも、もろとも袋に詰め込んで捨てた。

初めのうちは、歳のわりにお洒落な父の洋服を捨てるのには躊躇いがあった。

ところが
少し片付いた部屋を見ては嬉しそうに
片付いたな…と呟くので
日ごとに潔さを増していった。


退院して数日経っても、父はどこか鬱々としていた。めまいがあり、足元のおぼつかない父にちょっと散歩に出てみる?と聞いてみた。

ダメ元で、だ。

面倒くさそうに首を振るのはわかっている。それでも外の空気を吸えば少しは気分が晴れるかもしれない。


答えの変わらない質問を
何度繰り返しただろうか。



そんなある日

父は唐突に

──ジーパン洗ってあるかな?
ブルゾンも洗っておいて。丸洗いでいいから。

と言うのだ。

気分が上向いてきたのかもしれない。



しかし、もう遅いのだ。


どうやら、

わたしが捨てた薄汚れたズボンは父のお気に入りのダメージジーンズだったようだ。




鬱々とした重い空気に押しつぶされそうだった。







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