味のわかないヤツ
薬の影響か、
父は香りや味を感じにくいようだった。
インスタントコーヒーを
ガブガブ飲んでいるわたしの背中に視線が刺さる。
──味のわからないヤツめ
とでも言われている気分だった。
この頃、時を同じくして
友人が自家焙煎の珈琲豆の販売を始めた。
──そういえば実家にはコーヒーミルがあったはず
翌朝、わたしは友人が焙煎した珈琲豆と
フレンチプレスを持って家を出た。
実家に着き食器棚を探す。
──棚の奥にしまい込まれたコーヒーミル
私はこのコーヒーミルが大嫌いだった。
私が子供の頃、最新家電だったはずの電動コーヒーミルはとにかくうるさい。
子供だから、朝はコーヒーよりも
まだ暖かい布団に埋もれていたかった。
それなのに、母はお構いなしでコーヒーミルのモーターを回した。
モーター音で起こされるのはたまったものではなかった。
そのコーヒーミルを回す。20年、いや25年は使っていないだろう。
スイッチを入れる。
部屋にモーター音が響く。
昔と変わらずうるさい。
いや、昔よりもひどい。
嫌な予感がしてコーヒーミルの蓋を開けると、
豆もろとも部品が粉砕されていた。
1回分の豆しか持って来なかったわたしは、雑味と共にコーヒーを頂くことにした。
──味のわからないヤツめ
再び視線が突き刺さった。