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いつでも酩酊状態は酒呑みの流儀。

つい今しがた、亡くなった父の友人から電話があった。子供の頃、わたしもよく遊んでもらった気の良いおじさんだ。酒に酔った赤ら顔、目尻の下がる優しい笑顔が今でも思い出される。

コロナ禍で身内のみの葬儀だったので、お線香だけでも…という話になっていた。だから、これまでにも何度かそのおじさんから電話をもらっていた。

しかし、予定がなかなか決まらない。というか、「では今度伺います~」「またお元気で~」なんて具合で、いつも思い出話で終わってしまうのだった。

こちらから、わざわざ来てくださいというのは、おこがましい。しかし、父の電話もそろそろ解約せねばなるまい。

意を決して、電話することにした。そして、今日、ついに。わたしの日程と現住所を伝えて、お線香をあげに来てくれる日が決まった。

ところが、住所を伝えようとすると、電話の向こうで「マスター!マスター!何か書くもの!」とコソコソ声が聞こえてくるではないか。さすがは酒飲みの父の友人。午前中から飲んでいる。

そういえば、今までの電話もそうだった。思い出話に涙こそするものの、いつも電話越しは賑やかだった。なるほど。お酒を飲んでいては話が進まないわけだ。

「お線香あげに行かせてもらうからね」「ではお元気で~」なんていうやりとりを何度しただろうか。まったく陽気なおじさんである。陽気というか、酩酊状態。

──父との対面が楽しみだ。


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